「心の悩み」の精神医学
野村総一郎著
PHP 新書 047、PHP 研究所
刊行:1998/06/04
東京八重洲の八重洲ブックセンターで購入
読了日:2007/05/28
「
Dr 林のこころと脳の相談室」という web page で推薦されている本で、
果たして実際良い本であった。最近多い8つの心の病気を、それぞれ具体的な例を
一人か二人程度ずつ挙げて(ただし、著者の脚色が入っていて、
必ずしも実際の例そのままではないと「はしがき」で断られている)、
わかりやすくそれぞれの症状とその背景、および治療経過が述べられている。
非常に読みやすく、二晩程度で読み終えてしまった。
精神病は、病気の種類によっては、時代によって発生頻度が変わるらしい。
たとえば、鬱病は最近劇的に増えているけれど、躁鬱病の発生率は
それほど変らないと書かれている。ここに挙げられている8つの病気が
増えている理由が折りに触れて考察されていて、現代社会のある種の歪みが
反映されているようであることがわかる。しかし、歪みと言っても、
単にストレスが増えたということだけでもない。むしろ抑圧が減って
価値観が多様化したことが原因である意味もある。ひょっとして人間は
抑圧的な社会に住み慣れているのかもしれない。といっても、抑圧的な社会では、
それはそれで別種の心の悩みが増えるのだろう。どっちにしても、
心のバランスというのは難しいものである。
ここで挙げられている8つの「心の悩み」とは以下の通りである。
感想と合わせて記してゆく。
- パニック障害
- 特別快速に乗るとパニック発作に陥る例が書かれている。
出世の挫折感を抑えつけたことが原因であると著者は考えているが、
この解釈にはあんまり納得がいかなかった。一般にパニック障害は
原因がはっきりしないということは著者も書いている。
- 欝病
- 最近、例をわりとよく聞くような気がする。日本の自殺者が
年間 3 万人という事態とも関係しているのだろう。
- 心気症
- 身体的な異常がないのに、いろいろな病気があると考えてしまうもの。
- PTSD
- PTSD というと大災害や大事件を思い浮かべるが、実は交通事故や暴行によるものが
多いとのこと。考えてみると、天災による死者は平均すると1年あたり 100 人の
オーダーなのに、交通事故の死者は 1 万人のオーダーだから当然といえば当然か。
- 過食症
- 母子の間の関係のズレが原因であることが多いとのこと。
- 気分変調症
- 鬱病ほどではないが、憂鬱な気分が続いてしまうことを指す。
- ボーダーライン
- 人との信頼関係がうまく築けない障害。自由な社会で多く、
抑圧的な社会では少ないらしい。周囲の人が困り、精神科医も困るという
難しい例。
- 仮性痴呆
- 老人のボケと間違えられやすいが、実際は老人の欝であるというもの。