精神科の待合室
斎藤茂太著
中公文庫 さ 3 1、中央公論社
刊行:1978/03/10
千葉稲毛海岸の古本屋 BOOK LIBRE で購入
読了日:2007/05/16
最近脳の問題に興味があるので、精神病関係の本は興味深く読むことができる。
ただ、逆に言えば、そういう気分のときでないと、この本を読むのは
ちょっとつらいかもしれない。もともと雑誌連載を集めてきたせいではあろうが、
ちょっとスタンスが中途半端なのだ。精神病の知識を与えるのが目的にしては、
それほど系統立っていないし、かといって興味深い例やエピソードが豊富で
肩が凝らずに読みとばせるというものでもない。
さらに、これは 30 年前の本だから仕方がないことなのだが、今からみれば
やっぱり古いのである。私は素人だからどこが古くなっているのか
的確には指摘できないけれど、いろいろな精神医学の web pages を見ていると、
明らかに現代的な書き方とは違っていることがわかる。たとえば、
- ヒステリーという言葉が本書では使用されている。これはたとえば、
「解離性障害」という web page を見ると、
現在ならば、身体化障害と解離性障害に分けて呼ぶのだそうだ。
解離性障害は、精神的なストレスを思い出さないようにするための
精神的防衛反応で、身体化障害は、精神的なストレスが身体的な症状と
して現れるものである。
- 本書で使われているノイローゼ(おおざっぱにいえば、「人がひどく
悩んでいる状態」)も、いろいろなタイプのものを含んでいるために、
現在ではあまり使われなくなったらしい(たとえば、
野村総一郎「「心の悩み」
の精神医学」)。今では不安障害などといった名前になっている。
- 最近では、人格障害(パーソナリティ障害)が問題になることが多いが、
ここではそのようなことばが使われていないし、その問題はテーマに
なっていない。しかし、そのような考え方の起源となった、
シュナイダーの「精神病質」あるいは「病的性格」には
触れられている(たとえば、pp.190,203)
- 今なら、もう少し脳内の化学物質に関連した説明がなされるはずだろう。
統合失調症におけるドーパミンとか、うつにおけるセロトニンとか、
同性愛におけるアンドロゲンとか。
といったようなことである。
この本が古くなった原因の一つとしては、この本が出版された後の
1980 年代ころから、こころの問題に対する名前の付け方とか
概念の大幅な変更が行われたことがあるらしい。これも、精神医学の発達のおかげと
いえばおかげなのだが、この調子だとあと 10 年も経てば、
やっぱりまたいろいろ精神病概念の変更があるのだろうと思う。
なお、現在のスタンダード分類としては、DSM(アメリカの精神医学会のマニュアル)
や ICD(世界保健機関による疾病分類)などがあり、数年に一度更新されている
ようだ。