ザペッティは、戦後すぐに日本の闇経済に関わって大儲けをする。 1956 年、強盗事件に関わって一月くらい留置場に入った後、 当時東京初のピザ・レストランを作り、これまた大儲けをして、 大富豪になる。ザペッティは多少の悪事は何とも思わない性格であるだけに、 レストランには裏社会の大物が多く出入りする。これを描いていくと、 日本の裏社会の戦後史が描けるというわけである。 高度経済成長からバブルの時代になってくると、ヤクザの世界も 昔風のものから経済ヤクザへと変貌する。そうなってくると、 粗雑なザペッティの生きる場所は段々無くなってくる。 年を取るにつれて財産を少しずつ減らし、破産寸前で死を迎える。
裏社会関係の登場人物は非常に華麗である。ヤクザだと町井久之(東声会会長)、 村田勝志(力道山を刺した男、住吉連合会小林会)、石井進(稲川会会長)、 いわゆる右翼だと児玉誉士夫(日本プロレスリング協会会長でもある)、 プロレスラーの力道山、乗っ取り屋の横井英樹、政治家だと浜田幸一、 金丸信などなど。全部がザペッティに関わっているわけではないが、この本は ロッキード事件をはじめとする疑獄事件も一部描いているから、 政治家まで含めて登場することになる。
これを読んでいくと、日本の経済の深い闇が、戦後から 現在に至るまで連綿と続いていることがわかる。解説の宮崎学は それを醒めた目で
ここで生きていくためには、善良な市民としての規範など邪魔なだけだ。 生きる(食う)ための行為は、イデオロギーや理論の整合性を無視することで、 成功に至る。アウトローとして存在することそのものが成功の証しといえる。などと書いている。私はこんなことにはついてはいけないし、 善良な世の中が来ることを願ってはいるものの、世の中結局 悪がはびこるものなのかもしれない。そして、現在もアウトローたちは、権力との関係をどう維持するかに苦慮しながらも 成り上がっていく。
巻末に情報源を示した「執筆ノート」があるのも良い。 これだけしっかり調べてあることがわかるのはうれしい。 日本語の本だと、専門書以外では情報源をちゃんと示してある本が少なくて、 話の信憑性がどこまであるのかさっぱり分からないものが多すぎる。 出版文化の違いのせいなのか、出版社が怪しげな本を出すための 隠蔽作戦なのか、情報源はできるだけ出してほしい(もちろん 出来ない場合もあることは承知しているけれど)と常々思っている。