長寿企業は日本にあり
野村進著
NHK 知るを楽しむ この人この世界 2007 12/ 2008 1 月、日本放送出版協会
刊行:2007/12/01
名大生協で購入
読了日:2008/02/09
アジアを歩いてきたジャーナリストである著者が、日本に老舗(長寿企業)が
きわめて多いことに気付き、その取材をしたもの。
地道な「ものづくり」の精神が今も生きていることに気付かされる本である。
なお、放送があったのは個人的に忙しい時期だったので、番組はあまり
見ていない。
本書で取り上げられている主な企業は以下の通り。
- 金剛組(大阪)
- 飛鳥時代に遡る世界最古の建築会社。四天王寺や法隆寺を造った。
バブル崩壊で潰れかけるものの、何とか再建。寺社建築が本業。
- 福田金属箔粉工業(京都)
- 1700 年創業。金箔、金粉、銀粉の会社。今では、銅箔が携帯電話の
折り曲げ部分に使われている。
- 田中貴金属工業(東京)
- 1885 年創業。最初は両替商だったが、貴金属工業に進出。
- セラリカ NODA(福岡県八女→神奈川)
- 1832 年創業。ロウの製造。最近では、カイガラムシが分泌する雪ロウの
利用を始める。
- 勇心酒造(香川)
- 1854 年創業。造り酒屋。「ライスパワーエキス」を開発。
- ヒゲタ醤油(銚子→東京)
- 1616 年創業。最近、ヒツジの毛刈りをしなくてすむようにする薬剤を開発。
- 呉竹(奈良)
- 1902 年創業。墨の会社としては、新参者。液体墨、筆ぺんなどを開発。
- カタニ産業(金沢)
- 1899 年創業。もともと金箔の会社。
現在では転写箔がさまざまのところで利用されている。
- 村上開明堂(静岡)
- 1882 年創業。最初は飾り金具やブリキ細工を作っていた。現在は、
自動車のミラーを作っている。
- 永瀬留十郎工場(川口)
- 1871 年創業。鋳物会社。今では、超細密鋳物などハイテク鋳物を作っている。
- エプソントヨコム(神奈川→東京)
- 前身の一つが 1891 年創業の吉村商会。もともと無線機を作っていた。
現在では水晶デバイスのリーディングカンパニー。
- 戸田工業(広島)
- 1823 年創業。もともとベンガラ(Fe2O3)を製造。
最近は、磁性粉の会社として知られている。
- 林原(岡山)
- 1883 年創業。当初は水飴を製造。現在では、トレハロースの製造で知られる。
ライフサイエンスを大事にしていて、「類人猿研究センター」があったり、
「自然科学博物館」があったり、はたまた漆職人がいたり、刀鍛冶がいたりする。
本書で何より印象的なのは、老舗の精神に迫る言葉がちりばめられているところだ。
ものづくりの精神を大事にして、儲けに走らず、世の中の役に立つようにする、
という地味だけど当たり前なことが強調されている。
グローバル化に伴う拝金主義がいずれ破綻するように思える昨今、
経済や金融でいたずらに騒ぐことは我が国がやるべき事ではないように思える。
というわけで、そういった言葉をいくつか引用しておく。
- 「(貴金属が)世の中に出してくれ、出してくれと言っているものを
出してやるのが、われわれ「技術屋」の仕事じゃないか」
(田中貴金属の技術者)
- 「(相場好きな人間は)友として身の害成(なす)べし」
(福田金属の家訓)
- 「(会社が長く続いてきたのは)身の程をわきまえる、というのが、
ずうっと貫かれているのとちがうかな」
(福田金属副社長)
- 「私欲起こせば家を破壊する」(セラリカ野田の野田家の家訓)
- 「売り手よし、買い手よし、世間よし」(近江商人の信条)
- 「西洋のヒューマニズムは(中略)「人間中心主義」と訳すべきなんです。
(中略)人間中心主義は、もう行き詰まってきたんやないかと思うわけです。」
(勇心酒造当主)
- 「不義にして富まず」(勇心酒造の徳山家の家訓)
- 「微生物を大事にしているし、敬意を払っていますよ」(ヒゲタ醤油専務)
- 「伝統は、革新の連続」(カタニ産業社長)
- 「(マニュアル化は)98(パーセント)ぐらいは行くと思うね、
時間はかかるけど。(中略)そこ(残り2パーセント)が私たち
鋳物技術屋の生きる道なんですよ」(永瀬留十郎工場社長)
- (独創とはという質問に対し)「単なる組合わせだと思いますよ。
(独創の秘訣があるとするなら、)ただ単に、異なる知識と経験を
たくさん持つということに尽きると思います」(林原社長)
- 「同族経営・非上場でなければ、画期的な独自の研究開発など不可能でした」
(林原社長)