九鬼嘉隆は、織田水軍の将として活躍する。とくに、石山本願寺攻めのときに、 大阪湾で毛利水軍(村上水軍)を破った石山海戦が人生のピークともいえる。 鉄板で要所を覆った大船を創案して、火器を多用していた毛利水軍(村上水軍)の 戦闘力を無力化して、華々しい勝利を挙げた。
信長が本能寺の変で死んでから、運命も下り坂に向かう。 小説によると、性格も信長に似ていて、まさに信長と運命を共にした武将である。 それが実に生き生きと描かれていて楽しめる。
本能寺の変の後、謀反の不安をおぼろげに感じて(ということにこの小説ではなっている)、 甥の澄隆を殺したのが転落の始まり。最後は、関ヶ原の戦いのとき、子の守隆を東軍に付けておきながら、 自らは突然西軍に寝返る。それがために最後は自決に追い込まれる。 嘉隆が寝返ったのは、親子のどっちかが生き残るための策略という話もあるけれど、 この小説では、嘉隆は東軍の水軍の将たちが嫌いだったので、その名を出されて説得されたとき 戦国武者魂が湧き上がってしまった、ということにしてある。 このように、武者魂に引かれるように激しく一生を駆け抜けた嘉隆がこの小説では描かれている。