受容が遅れた原因に地学団体研究会(地団研)の存在が深く関わっていることは (地球科学者の間では)よく知られている。そうはいっても、私は地団研の影響力がすでに 弱くなった後の時代の人間なので、地団研のことは断片的な知識しかなかった。 それが、この本には地団研の体質がいかにして形成されたのかが歴史を追って 丁寧に解説されているので、地団研の考え方の全体像が良くわかる。地団研がやっていたことが 「サイエンスとは異質の作業」(上田誠也が書いている表現)であるにせよ、 権威主義的な団体が形成され、独自の論理を持つようになる過程としては、 (私にとっては他人事であるせいで)きわめて面白い。 閉じた社会では、他所から見ると奇妙な論理が貫徹することがある。 悪い意味での「体育会系」団体がそうなることはよくあり、たとえば最近では 某相撲部屋で起きたリンチ殺人事件が典型的にそうだし、旧日本陸軍もそういう ところだったのだろう。地団研もそういう穴に陥ってしまったわけだ。
地向斜造山論は、私が高校生くらいの時までは、教科書にもしばしば載っていた。 子供のときは、奇妙さを感じつつも、山とはそうやってできるものなのだと素直に信じていた。 私が高校生くらいの時は、すでにプレートテクトニクスも一般に知られてきていたので、 一般向けの解説では地向斜論の残滓と奇妙に同居していた。 地向斜造山論が日本独自のものであるということは、この本で初めて知った。 それから、地向斜造山論にもそれなりの論理があるということも、この本で初めて知った (たとえまともなサイエンスとは言えないにしても)。
そのほかにも、子供のころを思い出すと、地団研の影響を受けたものをいろいろ見ていた。 デスモスチルスなんていう動物の名前を知ったのも地団研のおかげ(たぶん御大の井尻正二の 専門だったせい?)、子供のころ一度化石取りに連れて行ってもらったのも地団研の行事だったように思う。