理系のための英語論文執筆ガイド ネイティブとの発想のズレはどこか?

原田豊太郎著
ブルーバックス B-1364、講談社
刊行:2002/03/20
廃棄してあったものを拾った
読了:2009/06/08
科学英語の書き方の講義の参考のために読んだ本の一つ。

日本人が間違えやすいポイントが選んであって、非常に参考になる。 ポイントの選び方は、学生をときどき指導する私から見ても的を得ていると思う。 たとえば、英語における他動詞の重要性は、私も大事だと思っていたけれど、まとめて 解説あるものとしては、私は初めて見たように思う。今まで気づいていた他動詞以外にも、 たとえば provide などはそう言われれば日本語の発想にない使い方をする動詞だったと気づいた。 それから、「~から~がわかる」が show で、「~から~と考えられる」が suggest と訳される というのもなるほどと思った。

私が自分の間違いに気付いたこともある。たとえば、「高く評価する」の「評価する」は evaluate ではないとのこと。物ならば earn[have] a reputation とか appreciate、 人ならば They are highly regarded for ... のように regard を用いるのだそうだ。

もちろん細かい不満を言えば、allow を紹介したら、一緒に enable も紹介すれば良いのにと思ったとか いったようなことが少しあるけど、全体としてみれば、良く書けている本である。 あと、以下にまとめるように、説明が私が賛成できない部分がいくつかある。


説明で私が賛成できなかった箇所

(1) evidence that ... に定冠詞が付かない理由 (p.80)

たとえばここに出ている例文で

There is evidence that the second harmonic of the average total current does not change sign.
がある。この evidence が that 以下で修飾されているにもかかわらず the が付かない理由が、 evidence が不可算名詞だからであるかのように本書には書いてある。この説明は間違いだと思う。 これは、定冠詞の原則に従って、that 以下が evidence を限定していないから the が 付けられないのである。ここでは「符号を変えない証拠」が何かあると言っているだけで、 その証拠の内容はまだ読者に提示されていないから、the が付いていないのである。 that 以下は evidence の内容ではない。証拠の内容は、符号を変えないことを示す何かの 実験データだとか、そうでなければある種の理論で符号が一定であるはずであることが分かる とかいったことであるべきである。

これに対し、the fact that ... のような場合は that 以下は fact の内容そのものなので the が付くのである。

(2) 「代入する」の訳に replace を用いること (p.234) ここでは、「A を B に代入する」として substitute A into B 以外に replace B by A を紹介している。 しかし、replace は「置き換える」だから、「代入する」と一致しないこともあるので、区別すべきだと思う。