パラレルワールド・ラブストーリー

東野圭吾著
講談社文庫 ひ 17-18、講談社
刊行:1998/03/15
文庫の元になったもの:1995/02 中央公論社刊
廃棄してあったものを拾った
読了:2009/01/23
東野圭吾はたいへん売れている人らしいということを聞いて、積んであった中から掘り出してきた。 たしかに読みやすくてすぐに読み終わった。

でも、この作品には今一つ物足りなさを感じた。記憶の改編というSF的な仕掛けを使っていて、 それに合わせて過去と現在とを同時進行で語るという面白い構成の工夫は成功している。 しかし、仕掛けが面白い割に、親友と恋人争いをするという古典的テーマをそれに乗せているのは 釣り合わないと思う。この仕掛けであれば、記憶に関する哲学的あるいは脳科学的な問いとか もっと大きな問題を乗せていかないと、釣り合わないように思う。関連することでもう一つ物足りないことに 以下のことがある。話の筋として、記憶改編がスリープ状態を引き起こすということになっているのだが、 この説明がちょっともの足りない感じがする。SF的に言ってももうちょっと深められるような気がする。

カバー裏の書いてあることによると、この作品は長編ミステリーということになっているが、これには 違和感がある。むしろこれはSFに近い。私の考えだと、推理小説(ミステリー)の仕掛けに SF的なことを使うのは反則である。ミステリーの種は、突飛であっても、現実に起こりうると 思わせるようなものでないといけない。密室殺人のトリックがテレポーテーションだったりしては 話にならない。この作品においては、変えられた記憶を回復する過程がミステリー的と言えば ミステリー的ではあるが、謎解きの味わいは薄い。