返事はいらない

宮部みゆき著
新潮文庫 み 22 3、新潮社
刊行:1994/12/01
文庫の元になったもの:1991/10 実業之日本社刊
A から借りた
読了:2009/01/28
売れっ子の宮部みゆきの短編集。いろいろな「事件」を題材にしているという意味では ミステリかもしれないけど、事件は読者を引き込むための道具で謎解きものではない。 さすが宮部みゆきだけあって、一気に読ませるし、読後感もすっきりしている。 まさに「巧い」のである。

以下の6つの短編が収録されている。

返事はいらない
某銀行の ATM システムのお粗末なセキュリティを天下に知らしめるために行われた犯罪 (でもだれも損をしないように良心的に計画されている)と、失恋した女性の微妙な心理とを 巧みに組み合わせている。真相を見出した退職した刑事の落ち着いた雰囲気も良い。
ドルシネアにようこそ
まじめに速記の勉強をする若者、クレジットカード破産しそうな若い女性、 それから野暮ったいなりをしているが実は有名なディスコ「ドルシネア」を経営している女性 という対照的な3人が意外なところで出会う人間模様が洒落ている。 「ドルシネア」を経営している女性の言葉「あたしと同じように働いている人たちに、 月に一度でもいいから、贅沢な気分を味わってもらえれば、それでいいのよ」 「『ドルシネア』が『ドン・キホーテ』に出てくるお姫様の名前だってこと、話したわよね? ドルシネアは、主人公の妄想の中にしかいない想(おも)い姫なのよ。」
言わずにおいて
見知らぬ車の運転をしていた男に「やっとみつけた!」と言われた直後、 その車が壁に衝突して炎上した。主人公は、その言葉が気になって、追求してみた。 するとやがて意外な真実が明らかになる。
聞こえていますか
引っ越してきた家の前の住人が、自分の家の電話機になぜか簡単な盗聴器を付けていた。 そのうち前の住人の微妙な親子関係がわかってくる。
裏切らないで
派手な生活をしている若い女性が歩道橋から落ちて死亡しているのが見つかる。 やがてそれは殺人であったことが分かる。それを追ってきた刑事の言葉 「俺には、どこから見ても、いつ見ても、東京タワーは俺たちに背中を向けてるように見えるよ」
私はついていない
少年を主人公にしたドタバタもの。少年の姉の浪費癖がドタバタを引き起こすという ユーモアたっぷりの物語。