英語冠詞の世界 英語の「もの」の見方と示し方

織田稔著
研究社
刊行:2002/11/15
名大中央図書館で借りた
読了:2009/04/19
近頃、科学英語の書き方の講義をしているので、その参考のために読んだ。 冠詞というのは、いつまでたっても non-native people には難しい。 読んでみて、なるほどと思ったこともあり、知っていたこともあり、考えすぎなんじゃないの?とか しっくりこないとか思う部分もあり、いろいろであるが、ともかく文法書のような羅列ではないので 興味深く読むことができた。しかし、本書の一番重要な部分には以下に説明するように必ずしも賛成できない。

本書の一番のポイントは、定冠詞 the の「特定のものを示す」というはたらきと「総称を示す」という はたらきとを結びつけることだ。本書の見方は、私にはしっくりこないのだが、以下のようなものである。 定冠詞の働きの基本は、「特定のものを示す」ことにある。「総称」の方は、同類の他のものと区別して これだと「特定」するということから the が付くのだというのが、本書の解釈である。以下に例を挙げて説明する。

The sun rises in the east.
ここの the east は、方角には東西南北ある中で東を特定するという意味で the が付いている。
The accident happened in the morning.
ここの the morning は、1日を morning, afternoon, evening, night に分けた中での morning だという意味で the が付いている。
Mary went on holiday to the mountains, Joan to the sea, and Lily to the country.
これらは、人間の活動空間を、都市 (city)、田舎 (country)、海 (sea)、山 (mountains) と 区分する中で、他と区別するために the が付いている。
I play the piano.
楽器がバイオリンとかピアノとかいろいろある中で、ピアノを区別するという意味で the piano と言う。
まあこんな調子である。しかしこの解釈は、何となく私の頭の中にあるイメージにそぐわない感じがする。 第一に the がそれほどコントラストを強調している感じがしないし、第二に「特定」ということと 「他との弁別」との結びつきがはっきりしない。この第二の点は、自然につながることを本書では 中間的な例を用いて説明していることになっているのだが、良く読んでみると論理的にはギャップがある。 無論、私は native ではないので、native の人がどう感じるかは分からないが。

このように文法の奥に潜む構造を解釈するということは、脳の中にできた無意識的な構造を 解きほぐすことなので、意識できる直感と異なることはもちろんありうる。それに説得力を 持たせるには、論理的に納得させるものがあるとか、他の言語との比較とか、歴史的な経緯とか 何かの材料が必要である。本書では、第1の「論理」で攻めようとしたわけだが、 私には成功しているようには見えない。

とはいえ、私にとっては、こういうふうな問題があるのだということがわかったことが 新鮮な驚きであった。そして、総称的表現の代表のたとえば The dog is a faithful animal. と、慣用として頭ごなしに習った I play the piano. の the の用法が共通の意識に基づいているに 違いないことがわかった(共通であろうという点に関しては、私にも賛同できた)ことは 収穫であった。


冠詞と人称代名詞の語源について、なるほどと思ったことをここにメモしておく。