街場のアメリカ論

内田樹 著
NTT 出版ライブラリーレゾナント 017、NTT 出版
刊行:2005/10/31
名古屋滝ノ水の古本屋 BOOK OFF 名古屋滝ノ水店で購入
読了:2009/01/05
アメリカとは何か?という問題について著者らしい鋭い洞察がいろいろなされている。 面白いので、お正月休みに短期間で読むことができた。

以下、簡単なまとめ

まえがき―自立と依存
日本とアメリカの関係はねじくれている。いわゆる保守本流の人々は、親米である。 しかし、保守であれば、日本の伝統を大事にするはずで反米が基本のはずである。 にもかかわらず、彼らはアメリカの価値観に追従している。また、いわゆる革新の 人々は、反米のようでありながら、アメリカに押し付けられた憲法を保守的に守っている。 このねじれた呪縛はどうしようもないけれど、少なくともその病識は持っていたい。
第1章 歴史学と系譜学―日米関係の話
アメリカのペリーが日本の鎖国を解いたのだが、アメリカ国内で南北戦争が起こった せいもあって、日米は疎遠になり、その後 1945 年に至るまで日米関係は良かったことはない。 日本はイギリスやフランスとの関係の方が強かった。たとえば、太平洋戦争の初期には、 日仏はインドシナ半島を「共同統治」していた。
第2章 ジャンクで何か問題でも?―ファースト・フード
ファースト・フードはよく問題だと言われるけど、スローフードにだって問題がある。 スローフード発祥の地のイタリアのピエモンテはファシズム発祥の地でもある。 つまり、地域主義、排外主義の臭いがする。
第3章 悲しみのスーパースター―アメリカン・コミック
アメリカン・コミックは分業で作られているので個性が無い。しかし、その一方で、 その画一化されたストーリー展開の中にアメリカの無意識を読み取ることができる。 それは、理解されないスーパーヒーローというセルフ・イメージである。
第4章 上が変でも大丈夫―アメリカの統治システム
アメリカの統治システムは、統治者が愚かでも破局に至らないように作られている。 第一に、権力を持つ期間を長くしないこと、第二に多数の支配を徹底すること。 アメリカは、少数の賢者よりも多数の愚者の方を選んだ。
第5章 成功の蹉跌―戦争経験の話
アメリカは、歴史的に見て戦死者が少ない。そこで、少しでも被害を受けると、 被害者意識が過大になる傾向がある。アメリカが戦争を起こすパターンの一つとして、 自国民の被害に対する報復というのがあるのは、そのためであろう。 アメリカが戦争をしたがる理由のもう一つに、戦争をやって負かした国が同盟国になる という成功体験がある。ドイツと日本がその最も成功した例である。 そんなわけでアメリカは戦争を作り出してゆく。
第6章 子供嫌いの文化―児童虐待の話
日本と違って、欧米文化では、子供は「矯正し訓育すべき野性」である。さらに、 アメリカ文化には、自己実現の妨害者を自力で暴力で排除して良いという考え方がある。 アメリカにおける児童虐待にはそのような精神的背景がある。
第7章 コピーキャッツ―シリアル・キラーの話
アメリカの子供たちは、前章で述べたような子供嫌いの文化の下で育つ。 そこで、子供の側には、母の死を願う心が生まれる。しかし、その心は無意識の中に 抑圧され、悪霊という形で発現しシリアル・キラーを生む。これが、アメリカで 連続殺人事件が多い原因であろう。
第8章 アメリカン・ボディ―アメリカ人の身体と性
アメリカ人の考え方の奥底には、体と心を切り離す心身二元論がある。であればこそ、 一方で筋肉隆々の人がいるかと思えば、一方で肥満した人が多い。 どちらも身体を大事にしていない。肥満には、一方で、低所得者の記号という意味がある。 太った人は、自制心が無いのではなく、身体を記号として使っているのだ。
第9章 福音の呪い―キリスト教の話
アメリカは、きわめて宗教的な国である。開拓時代にさかんになった福音主義は、 開拓時代の荒れた人々に対する宗教運動である。そこで、説教は熱狂的なパフォーマンスとなり、 宗教は反知性的になった。
第10章 メンバーズ・オンリー―社会関係資本の話
社会関係資本とは、人脈のことである。中世ヨーロッパのフリーメーソンとか、 古代中国の墨家が典型例である。最近では、ネット上でも人的ネットワークがあるけど、 完全にネットワーク上だけでは無理で、やっぱり身体が必要なのではないか。
第11章 涙の訴訟社会―裁判の話
陪審員制度は、巧みな議論に引きずられやすいという点で問題ではないだろうか? 裁判が多いのは、常に責任を人になすり付けるという点で幼児的なのではないだろうか?