Neptune (Miner and Wessen)

サマリー

第1章 海王星の発見

1.1 天王星の発見

William Herschel (1738-1822) が天王星を発見。当初は彗星だと思っていた。しかし、後に、尾がないこと、黄道に沿って動くこと、定常的に光っていることなどから惑星だということがわかってきた。

1.2 天王星の軌道のゆらぎ

天王星の軌道がちゃんと決められないということが、1788 年くらいまでにわかり、19 世紀前半まで謎であった。

1.3 Urbain Jean Joseph Le Verrier (1811-1877)

1840 年、Le Verrier は、惑星の運動を解くための革新的な手法を発明した。1845 年から、François Arago の勧めに従い、天王星の研究を始めた。

1.4 John Couch Adams (1819-1892)

Adams は 1841 年から天王星の運動の問題に興味を持ち、1843 年から本格的に天王星の運動を乱していると考えられる未知の惑星の軌道を決める研究を開始する。未知の惑星の軌道半径は Titius-Bode の法則に従っていると仮定した。問題は 1845 年 9 月に解けた。

1.5 探索

Adams は、自分の研究を Airy に知らせたが、ちゃんとあしらってもらえなかった。一方、Le Verrier は、1845 年11 月と 1846 年 1 月とに論文を発表して未知の惑星の軌道を予言した。フランスでは惑星を探してくれると言う人がいなかったが、ベルリンの Johann Gottfried Galle と Heinrich Louis d'Arrest が、1846 年 9 月、予想された位置に惑星を発見した。

1.6 共同発見者

新惑星は海王星と名付けられ、10 月には衛星トリトンも発見された。海王星の発見者は、Adams か Le Verrier か?それはなかなか簡単にはわからない謎である。

第2章 太陽系における海王星の位置

2.1 最後の巨大惑星

海王星の太陽からの平均距離は 30 AU。最後の巨大惑星である。

2.2 地球型惑星と巨大惑星

太陽系には、地球型惑星と巨大惑星とがある。冥王星は Kuiper Belt 天体の一つかもしれない。

2.3 海王星の起源

近年では系外惑星がたくさん見つかってきている。検出方法には、中心星の transverse shifts を使うものと Doppler shifts を使うものとがある。

外惑星の起源には、以下の2つの考え方がある。

第3章 海王星の環に関する考察

3.1 環の探索のための遠方の星

環の探索には、(a) 後方散乱による直接観測、(b) 掩蔽の2つの方法がありうる。とくに、環を構成する粒子が小さい場合は、掩蔽を使うしかない。

3.2 Villanova のチームによる観測

Villanova 大学のチームが 1968 年の観測結果を 1981 年になって見直したら、海王星による掩蔽の直後に星の減光を観測していたことがわかった。環かもしれないと考えられた。

3.3 環によるもっとはっきりした掩蔽

その後、何度も掩蔽観測が行われたが、なかなかはっきりした結果が出なかった。ring arc のような可能性も考えられたが、力学的には考えづらい。

第4章 Voyager 以前の他の海王星の観測

4.1 海王星の内部

惑星内部構造を制約するためのデータとしては以下のようなものがある:質量、半径、衛星の軌道変化、太陽の反射光、赤外放射、電波放射、磁場関連現象(オーロラ、電波、シンクロトロン放射)、扁平率、自転角速度、太陽系形成モデル(もちろん内部構造ともたれ合う部分もある)

4.1.1 Voyager 以前のモデル

内部構造に関係する重要な問い4つ
(1) バルク組成は? (2) 大気組成は?それと内部組成の関係は? (3) 内部はどのくらい分化しているか? (4) 内部からどのくらい熱が来ているのか?
元素の太陽存在度
数の多い方から10個挙げると、H, He, O, C, Ne, N, Mg, Si, Fe, S
惑星内部の元素存在度
多くの内部構造モデルでは、元素を3つのカテゴリに分ける
海王星内部での I 成分と R 成分の中での相対存在度は太陽と同じと仮定されることが多い。
I/R 比
I/R 比は、最大で 3.5(太陽存在度)、最小で 0.6(C が CO になってしまうために H2O が少なくなる場合。N は N2 になると考える)くらい。
D/H 比問題
D/H 比は I 成分が凝縮するときに I 成分で上がる。海王星ができた後で、I 成分と G 成分で同位体のやりとりがあれば、大気中でも D/H 比が高くなるはず。ところがそうはなっていない。I 成分が凝結するときに平衡にならなかったか、G 成分と I 成分の間が平衡にならなかったか、G 成分のある部分が後で失われたか。
内部構造モデル
G, I, R 3層モデルではうまくいかない。Zharkov and Trubitsyn は、I 成分と R 成分が一様に混ざった2層モデルの方が良いとした。

4.1.2 自転周期

地上観測による自転速度の観測法

星の左右での Doppler shift の差を測る
星が小さいので観測困難。Moore and Menzel (1928) によると 15.8±1 hours。Hayes and Belton (1977) によると 22±4 hours。
光度変化を用いる(大気の雲によると解釈)
雲は変化するので解釈が難しい。Brown et al (1981) によると 17.95 hours。
雲の動きを直接見る
CCD が出てきて可能になった。

4.1.3 形状の扁平率 (polar flattening)

地上観測では、掩蔽を用いる。それでも正確に決めるのは難しい。

4.1.4 内部熱

内部からどのくらい熱が出ているかを知るために測定しないといけないこと:
  1. bolometric Bond albedo:地球から観測すると、ほとんど太陽の方向からしか見ていないことになるので、geometric albedo しかわからない。Harris (1961) の理論によると、(Bond albedo)/(geometric albedo) = 1.65 (for visual wavelengths)。これを用いると、visual Bond albedo = 0.84 for Neptune, 0.93 for Uranus。
  2. 惑星からの赤外放射:地球からの遠赤外の観測は困難。

困難はあるものの、観測の結果、内部から来る熱は、太陽から受け取る熱の 2-4 倍に達することがわかってきた。内部で重力分化が起こっているのかもしれない。

4.2 海王星の大気

最初、海王星の大気は天王星と似ていると考えられた。

4.2.1 化学組成

H2, He が多いのはもちろんだが、その他には methane が多いことがわかる [Adel and Slipher (1934)]。Voyager 以前にわかっていたことは Table 4.2 の通り。

4.2.2 温度

大気の温度の1次元構造を知る方法:
(1) 掩蔽観測
掩蔽からは、直接的には密度の高度分布がわかる。温度が高いと密度の高度依存性が緩くなるはずだし、温度が低いと密度が高度にしたがって急に減少するはず。これを利用して温度を推定する。わかるのは 1 microbar レベルのあたりで、温度は 120-160 K であることがわかった。
(2) 海王星からの放射の波長依存性
複雑なモデリングが必要。Voyger 以前のモデルでは、0.2 bar level で温度が極小で 53-55 K、それより下では深くなるにつれ温度が増加し、1 bar では 70-80 K (Fig. 4.3)。

以下で議論するように、haze や clouds があると話が変わる。

4.2.3 エアロゾル

haze の影響は限定的だろうという期待があった。

光化学反応でメタンからエタンやアセチレンができて、それが凝縮して haze になることが期待される。1-100 mbar レベルでそれが起きてよさそう。

4.2.4 雲とその運動

雲は ice 成分が凝結したもので、haze より深い場所でできる。上から methane, ammonia, water の雲ができると期待されている (Fig.4.5)。

1970 年代後半から、地表観測でも雲が見えるようになってきて、いろいろな変化があることがわかってきた。1日の長さが約 18 時間であることがわかり (Fig.4.6)、帯状風の速さが少なくとも 109 m/s であることがわかった。

約10年周期の変化もあるみたいで、太陽周期と逆相関しているかもしれない。

近赤外で数ヶ月続く outbursts も観測された。これは、高い高度での雲の形成によると解釈された。

4.3 トリトンの大気と表面

Voyager が行くまで、質量、大きさ、反射率などよくわかっていなかった。

1988 年以前は、メタンと窒素の薄い大気があると思われていた(近赤外の観測と熱力学計算から)。

Voyager 以前の観測から推定されたトリトン表面のイメージのひとつ:液体窒素の湖があって、メタンや水の氷が浮いている。

4.4 海王星の磁気圏

Voyager が行く前は、そもそも海王星内部で磁場ができているのかどうかもわかっていなかった。

4.4.1 海王星の距離での太陽風

Pioneer 10, 11 の観測からの外挿では、海王星あたりでの太陽風の速さは 400 km/s 程度、陽子の数密度は 0.013 cm-3 程度、温度は 10,000 K 程度。

4.4.2 磁気ボーデの法則の海王星への応用

磁気ボーデの法則に従えば、海王星磁場の磁気モーメントは、地球と土星の中間 (Fig.4.10)。

第5章 Voyager の冒険譚

5.1 カリフォルニア工科大学ジェット推進研究所 (JPL)

Caltech は 1891 年、Amos G. Troop が教育機関を作ったのに始まる。1907 年から科学技術大学に特化す ることにして、1920 年に California Institute of Technology と改名した。

宇宙工学は、ロシアの Konstantin E. Tsiolkovsky (1857-1935) に始まる。アメリカでは Robert H. Goddard (1882-1945) が続く。さらに、Caltech では Theodore von Kármán が宇宙工学をはじめた。やがて 彼の研究所は Jet Propulsion Laboratory (JPL) と名付けられる。戦後、アメリカのロケット開発は、Werner von Braun (1912-1977) が率いた。JPL は Caltech が運営しているが、1958 年からは NASA の一機関という位置づけも与えられる。以後、アメリカの宇宙探査の中心となる。

5.2 外惑星へのグランドツアーの提案

惑星に行く軌道で燃料の節約になるものとして Hohmann 軌道というものが考えられた。これは地球の公転と同じ方向に飛び出して、惑星の公転と同じ方向に到着するというものである(図5.3)。1961 年になると、Michael A. Minovich (1936-) が、惑星の重力を使って探査機を加速する方法に気付いた。Gary A. Flandro は、さらにその仕事を進めて、1976-1978 年の間に出発すれば、木星、土星、天王星、海王星と回れることを示した。

5.3 NASA の予算に合わせるためにスケールダウンして Voyager ミッションに

予算が足りなかったので、木星と土星だけに行く2機の探査機の Mariner Jupiter-Saturn (MJS) mission が考えられた。Pioneers 10 と 11 の結果を見て、計画に変更が加えられた。1977 年頃までに、計画の名前が MJS から Voyager に変更された。Voyager 1 の土星観測がうまくいけば、Voyager 2 に天王星まで行かせることも可能だということがわかった。天王星の観測をするために、IRIS (Infrared Interferometer Spectrometer and Radiometer) を改良して MIRIS (modified IRIS) にする作業も始まった。

5.4 Voyagers 1 と 2 の打ち上げ

Voyager には知的生物へのメッセージも載せられた。Voyager 2 は 1977 年 8 月 20 日に打ち上げられ、Voyger 1 は 9 月 5 日に打ち上げられた。MIRIS 搭載は間に合わなかった。

5.5 途中で発生したトラブル

航行途中でもいろいろな障害が発生したが、乗り越えてきた。 たとえば、Voyager 2 の受信機のうち一つは完全に故障し、ひとつは周波数の自動調節回路が故障した。これは何とか地球から送る電波の周波数を微調整することで乗り越え、科学に悪影響を及ぼすことは無かった。赤外装置の不具合は、だましだましヒーターを使うことで解決した。

5.6 ボイジャーのチーム

ボイジャーの運用組織の説明。Science Steering Group の Chairman は、ずっと Edward C. Stone が務めた。Voyager Project Manager は、9人の人に受け継がれた。初代は Harris M. Schurmeier、海王星のときは七代目の Norman R. Haynes であった。

5.7 ボイジャーの目と耳

ボイジャーが搭載している11の科学観測機器の紹介。

名称内容海王星での科学的目的
RSS (Radio Science Subsystem) 直径 3.66 m のパラボラアンテナ。地球との通信に用いる。 科学観測にも用いる。 X-band (波長 3.6 cm) と S-band (波長 13 cm)。 掩蔽によって、大気や電離層を調べる。掩蔽や散乱で環を調べる。 重力を調べる。
ISS (Imaging Science Subsystem) slow-scan vidicon camera。高分解能 narrow-angle camera と 低分解能 wide-angle caera。800×800 pixels。 大気の組成と風。環の分布。衛星表面と自転。他の機器の調整。
IRIS (InfraRed Interferometer Spectrometer and radiometer) 中間赤外 (55-4μm) のマイケルソン干渉計と可視・近赤外 (2-0.33μm) の放射計。視野角 0.25° 大気の鉛直温度構造。H,He の存在度。エネルギー収支。
UVS (UltraViolet Spectrometry) 波長 0.05-0.17μm。回折格子で波長分解。 下層大気の散乱。大気組成の鉛直分布。水素コロナの分布。夜の airglow とオーロラ。環による散乱と光学深さ。環からの放射。
PPS (PhotoPolarimetry Subsystem) カセグレン式望遠鏡に光電 photometer を付けたもの。開口が4通り、色フィルタを3通り、偏光フィルタを4通りに変えられる(本当は8通りずつ変えられるはずだったが、海王星に着いたときにはこれしかできなくなっていた)。 雲粒子の鉛直分布。雲粒子とリング粒子の散乱・偏光特性。大気の光学的深さ。Bond albedo の決定。掩蔽を使って環の光学的特性を決定。
PRA (Planetary Radio Astronomy) 10 m のアンテナ2本。低周波バンド 1.2-1228 kHz (波長 250-0.24 km)、高周波バンド 1.228-40.5504 MHz (波長 240-7.4 m)。 デカメートルからキロメートル帯での電波放射。磁場に関係した電波放射の検出。電波放射と衛星との関係。プラズマ共鳴。雷。
PWS (Plasma Wave Subsystem) PRA と同じアンテナを 7 m のダイポールアンテナとして用いる。スペクトル分析器と広帯域波形受信機からなる。 粒子・波動相互作用。磁場と衛星の相互作用。プラズマ流による電場の測定。プラズマ密度の測定。雷による低周波電波。
MAG (MAGnetometer) 高磁場磁力計 (HFM) 2つと低磁場磁力計 (LFM) 2つ。LFM は探査機から離した腕の先で測定。HFM は ±5 Oe と ±20 Oe の2つのレンジ。LFM は ±8.8×10-5 Oe から ± 6400×10-5 Oe までの8つのレンジ。 磁場計測。磁気圏の構造とダイナミクス。太陽風の磁気圏の相互作用。衛星と磁気圏の相互作用。太陽風。
PLS (PLasma Subsystem) Faraday cup プラズマ検出器2つ。地球向きセンサーにはさらに3つの開口がある。10-5950 eV の1価の粒子を検出する。 太陽風中の高エネルギー粒子。磁気圏内の荷電粒子の組成や源など。荷電粒子と環、衛星との相互作用。銀河宇宙線の証拠。
LECP (Low Energy Charged Particle) 2列の検出器からなる。1つは LEMPA (Low Energy Magnetospheric Particle Analyzer) で 10-15 keV といった低エネルギー粒子まで観測。もう1つは LEPT (Low Energy Particle Telescope) で、0.1-500 MeV のイオンの電荷とエネルギーの分布を観測。
CRS (Cosmic-Ray Subsystem) 3つの望遠鏡システム。1つ目は、HET (High Energy Telescope) system で、電子とイオンのエネルギーを測定。2つ目は LET (Low Energy Telescope) で、宇宙線粒子の3次元流パターンを測定。HET と LET で 1-500 MeV をカバー。3つ目は TET (The Electron Telescope) で、5-110 MeV の電子のエネルギースペクトルを観測。

第6章 海王星に行く前のボイジャーの成果

6.1 巨大惑星木星

Voyager 1 は 1979/03/05 に、Voyager 2 は 1979/07/09 に木星に最接近。放射線の影響で機器に障害が出た。とくに Voyager 1 の PPS が使えなくなった。しかし、他はおおむね問題がなかった。

6.1.1 木星大気

  1. 雲頂より上の大気は水素とヘリウム。水素 100 g : ヘリウム 26±5 g(今では 23.4±0.5 g)。
  2. 大赤斑と白斑は高気圧性回転。
  3. 帯状風の縞々が大気を特徴付ける。
  4. 帯状風の縞々パターンは極域まで広がっている。
  5. 大赤斑と帯状風の相互作用は複雑。
  6. 雷と、それに起因する whistler 放射。
  7. 成層圏が存在。110mbar で 110K、10mbar で 160K。
  8. 極域に紫外光を吸収する haze がある。
  9. アセチレンとエタンがあって、時間と緯度で量が変化。
  10. 極域夜側で可視と紫外の放射。イオ付近でできた荷電粒子が磁力線に沿って木星に降ってきたのが原因だろう。
  11. 昼側全体から強い紫外放射。スケールハイトが大きいことから、高層の温度は 1000 K を超えていると考えられる。

6.1.2 木星の環

  1. 細かい粒子からなる環の存在。主要部分は雲頂から 51,000-57,000 km 上。
  2. 淡い環の広がりは、雲頂から 20,000-109,000 km 上。
  3. 粒子サイズは典型的には a few ミクロンで、光はだいたい前方に散乱される。

6.1.3 木星の衛星

  1. 新発見の衛星2つ:Metis (~40km) と Adrastea (15-25km)。
  2. Amalthea は不規則形状の衛星で、大きさ 150-270 km、赤い。表面はおそらく Io からの硫黄で汚れている。
  3. Amalthea と Io の軌道の間に Thebe 発見 (~100km)。
  4. Io の9箇所で連続的な火山噴火を発見。4 ヵ月後、Voyager 2 が行ったときも、そのうち少なくとも7箇所で噴火が継続していた。
  5. Io の表面には衝突クレーターが無くて非常に若い。表面には硫黄とその化合物の色が付いている。
  6. Io の表面の少なくとも2箇所に高温のスポットがある。
  7. Io には、SO2 の薄くておそらく一時的な大気がある。
  8. Europa の表面は滑らかであまり衝突クレーターが無い。氷の下には深い海があるかもしれない。
  9. Europa には明暗の交差する縞がある。応力が働いた痕跡だろう。
  10. Ganymede の表面は変化に富む。明暗あり、クレーターの多寡あり。
  11. Ganymede の表面には平行な山谷の組が多く見られる。
  12. Callisto は衝突クレーターで覆われ、地質活動は低調。
  13. 4大衛星の大きさと質量がわかった。木星から離れるにしたがって密度が低下する。

6.1.4 木星の磁気圏

  1. 木星と Io をつなぐ磁束には 100 万アンペアを超える電流が流れている。
  2. Io の軌道のところに S, O イオンを含むトーラスができている。紫外光を放射し、温度は 100,000 K にまでなる。
  3. Io の軌道と木星の間には冷たい(磁場と一緒に回る)プラズマがある。硫黄、二酸化硫黄、酸素は Io 起源。
  4. 太陽側の磁気圏界面の位置は、太陽風の強さに応じて、木星中心から 50-100 RJ くらいの範囲で変わる。
  5. 磁気圏の外側のほうに熱いプラズマがある。H, O, S イオンからなる。
  6. 木星からは低周波の電波が出ている。緯度によって違う。
  7. 磁気圏と Ganymede の間には複雑な相互作用がある。
  8. 惑星の裏側 25 RJ くらいから、磁力線は閉じずに尾を引く。
  9. 磁気圏尾部は土星軌道を越えて伸びていそうだ。

6.2 宝石惑星土星

Voyagers 1, 2 は、それぞれ 1980/11/12, 1981/08/26 に土星に最接近。Voyager 1 のタイタンと環の観測がうまくいったので、Voyager 2 は天王星に向かうことができることになった。途中、Voyager 2 の scan platform が回らなくなる故障があったが、やがて何とか回復した。

6.2.1 土星の大気

  1. 雲頂より上の大気は水素とヘリウム。H 100 g : He 22±4 g。
  2. 太陽からもらうエネルギーの 1.82±0.09 倍のエネルギーを放出している。
  3. 楕円形の雲は高気圧性回転。極から 45°の範囲に限られる。
  4. 明暗の縞の中央あたりで帯状風が極大/極小になる。
  5. 帯状風は南北対称。これは、深い対流があることを示唆している。
  6. 成層圏がある。100 mbar で 80 K、10 mbar で 140 K。
  7. 極域で紫外放射。太陽風粒子起源のオーロラによるもの。
  8. 低緯度でも紫外放射。昼側でしか見られないので dayglow と呼ばれる。ちゃんとした原因はわかっていない。
  9. 水素のスケールハイトが大きいことから、上層大気の温度は 600-800 K。

6.2.2 土星の環

  1. 土星の環の半径方向の構造は複雑。
  2. D ring は、C ring の内縁から雲頂の上 3200 km まで広がっている。
  3. G ring の画像が得られた。Janus と Mimas の軌道の間にある。
  4. F ring には編まれたような構造がある。羊飼い衛星 Prometheus と Pandora との相互作用によるものだろう。
  5. おおむね衛星との軌道共鳴の位置に、楕円形の環や不連続が環が発見された。
  6. B ring の外縁は楕円形で、短軸が Mimas の方を向いている。[吉田注:B ring の外側で A ring との間が Cassini の間隙で、Mimas との共鳴と関係している。]
  7. spiral density waves, spiral bending waves は衛星との相互作用によってできている。
  8. A ring の外縁の厚さは 10 m 以下。一般に環は薄い。
  9. 環の粒子サイズは a few ミクロンから数十メートル以上までに亘る。
  10. B ring の外側半分にはミクロンサイズ粒子による spokes がある。部分的には土星磁場が駆動しているようだ。

6.2.3 土星の衛星

  1. 新衛星4つ発見:Pan, Atlas, Prometheus, Pandora。
  2. 衛星の大きさの決定。そのことにより密度の決定。
  3. Tethys, Rhea, Titan, Iapetus, Mimas, Enceladus の質量がより正確に。
  4. Mimas 上に巨大クレーター Herschel を発見。
  5. Enceladus の表面は他の土星の衛星よりも新しい。
  6. Tethys 上に巨大クレーター Odysseus と 大渓谷 Ithaca Chasma を発見。
  7. Dione の表面は縄のような地形と albedo の明瞭なコントラストで特徴付けられる。[吉田注:縄 (wisps) は、Cassini の観測によって、氷の崖であることがわかった (Wikipedia : Dione(moon) より)]
  8. Rhea の後側半球には、暗い中に明るい縄のような地形が見られる。
  9. Titan の直径は 5,150±4 km。太陽系の中では Ganymede に次いで大きな衛星。
  10. Titan の大気圧は 1.6 bar 表面温度は 95±1 K。
  11. Titan の大気は 90 % が窒素 (N2)、次いでメタン。
  12. Titan の表面の大部分を液体のエタンの海が覆っているらしい。液体メタン、液体窒素もありそう。
  13. main haze layer は高度 200 km まで広がっている。さらにその上にも切れ切れに 500 km にわたって haze layers がある。
  14. main haze layer の粒子の平均径は 1μm。
  15. Hyperion の表面は古くて不規則。Titan との重力相互作用で不規則に回転。
  16. Iapetus の表面は、前側半球が非常に暗い。
  17. Phoebe の自転周期は9時間。たぶん捕獲された小惑星。

6.2.4 土星の磁気圏

  1. キロメートル電波放射が 10.657 h おきに出ている。これはおそらく土星の磁場の自転周期。
  2. 土星の磁場は双極子型で tilt が小さい。表面での強さは 0.21 Oe。
  3. 太陽側の磁気圏の広がりは約 22 RS。太陽風の強さによって変わる。
  4. Rhea 軌道より内側の inner torus は1価の水素と酸素イオンからなる。これらは Dione と Tethys の氷の sputter 起源だろう。
  5. innter torus の外縁付近に hot ion 領域がある。
  6. H, He, C, O イオンの厚いプラズマシートが Titan 軌道付近まで広がっている。

6.3 ぼやけた青いテニスボール天王星

Voyager 2 は、土星と離れてから天王星に近づくまでの4年間、決して暇ではなかった。科学観測もしていたし、天王星観測のための計画を練ったり技術的な改善をしたりしていた。

6.3.1 天王星の大気

  1. 一番上の雲層はメタンで、1.2 bar レベル。
  2. 雲頂より上の大気は水素とヘリウム。H 100 g : He 26.2±4.8 g。
  3. 雲底付近で、メタンが水素に対して太陽存在度の20倍に濃縮している。
  4. 太陽から受ける輻射と放射する輻射がバランスしている。すなわち、内部からの熱がほとんどない(全体の 12% 以下)。
  5. ビデオ画像から、ばらばらの雲は少しだけ。そこから、prograde zonal 風速は南緯20度で 0m/s、南緯60度で 200m/s、南極で 0m/s。
  6. 電波観測から、赤道の風速は retrograde で 100m/s 程度。
  7. 成層圏があって 0.1bar で 52K、0.001bar で 70K。
  8. 大気超高層で水素のスケールハイトは大きく、温度にして 800K。この大気はリング粒子に対して大きな抵抗を及ぼしている。
  9. 昼側から electroglow と呼ばれる紫外放射がある。あまりよく理解されていない。

6.3.2 天王星の環

  1. 細い環の撮像ができた。
  2. Lambda と 1986U2R という2つの環が見つかった。
  3. 環の細かい構造が撮像できた。
  4. Epsilon 環には 1-10 cm サイズの粒子が無いようだ。
  5. リング粒子のアルベドは極めて低い。たぶんメタン氷に高エネルギー陽子が当たったせい。
  6. Voyager 2 が環を通過したときには、1秒間に 40 個の粒子が衝突した。

6.3.3 天王星の衛星

  1. 環と Miranda の軌道の間に10個の新衛星を発見。径は 26-154 km。
  2. 衛星 Cordelia と Puck の表面が観測できた。
  3. 大きな6つの衛星の geometric albedo がわかった。Puck で 0.07、Ariel で 0.40。
  4. Puck は小さい割に丸い。衝突クレーターがある。
  5. Oberon には地質活動の証拠が無い。
  6. Titania は最大の衛星で、表面には割れ目がたくさんある。
  7. Umbriel の表面はだいたい暗い。明るい場所はあまりない。
  8. Ariel には氷が流れた跡があり、多重割れ目がある。
  9. Miranda には coronae と呼ばれる四角い領域がある。内部の不完全な分化によるものかもしれない。

6.3.4 天王星の磁気圏

  1. 17.24±0.01 h 周期の左手偏光の信号。この周期は内部の自転周期を反映しているのであろう。
  2. 磁場の自転軸からの tilt は 58.6°、中心からのずれは 0.3 radii に及ぶ。
  3. 磁気圏の太陽側への広がりは 18 RU
  4. 磁気圏プラズマの大部分は陽子。
  5. 傾いた radiation field と衛星の間に複雑な相互作用がある。

6.4 天王星の後のボイジャー

天王星から離れた直後にハレー彗星探査が来たので、天王星から離れてしばらくはハレー彗星の方に力を集中してボイジャーには手をかけられなかった。

第7章 Voyager 2 の海王星 encounter

7.1 海王星観測へ向けての Voyager 2 の準備

the last picture show へ向けて。

7.1.1 Voyager の弱い信号をとらえる

Voyager が太陽から遠ざかるにつれて信号が弱くなるので、地上での受信機を増強した。

7.1.2 Voyager のコンピュータの再プログラミング

Voyager には3対の計算機がある。Computer Command Subsystem (CCS)、Flight Data Subsystem (FDS)、Attitude and Articulation Control Subsystem (AACS) にそれぞれ1対ずつの計算機がある。これらの計算機のプログラムには、航行中に改良が加えられた。
画像データ圧縮
FDS 計算機の画像データ圧縮が改良されて、天王星のときと同程度の通信速度でデータが送れるようになった。
画像のブレ防止
海王星は太陽から遠いために暗いので露出時間を長く取らないといけない。そのためブレが出やすくなる。ブレを軽減するために、姿勢制御を穏やかにするとか、テープレコーダのオンオフに伴う動きをキャンセルする姿勢制御をするとか、ジャイロのドリフトをキャンセルするとかの工夫がなされた。そのほか、露出時はターゲットを向き、データを地球に送るときは地球にアンテナを向けるよう姿勢制御を繰り返すという工夫がなされた。
データのエンコード
データ転送の誤りを修正するために、誤り防止符号の使用が行われた。Golay もしくは Reed-Solomon encoder が使われた。ただし、エンコードには時間がかかるので、転送速度との兼ね合いにうまく対処する必要があった。また、オーバーヘッドの長さと転送失敗の度合の兼ね合いも考えなければならない。
自動的問題解決
問題が起こったときの対処のためのソフトウェアもたくさん準備されている。たとえば、電波受信機が壊れたときは、地表からの指令を受信しなくても最低限のことができるプログラムを用意してあるとかいったことである。

7.1.3 手順の計画

Voyager 2 は、使いながらプログラムを改良することで、どんどん賢くなっていった。
既知の事柄の整理
Voyager 2 の探査に先立って、1984 年に研究会が開かれて、海王星に関してすでに知られていることがまとめられた。
軌道の選択
軌道の選択に当たって考えないといけないことは、探査機の安全性と、科学的な目的に適しているかどうかということである。

海王星の場合、科学的には、海王星とトリトンによる地球と太陽の掩蔽を観測することによって、大気の構造を調べることができる必要があった。その一方で、大気や環に近づきすぎて探査機が損傷しないようにする必要があった。その結果、Figs.7.4,7.5 のような軌道が選ばれた。

科学目的の選択
大気、環、衛星、磁気圏のそれぞれについて、優先順位をつけて探査の目的が設定された。その最終レポートは 1987 年に出版された。
科学目的と探査船の能力の兼ね合い
観測を時系列に並べて、データ転送速度との兼ね合いなどを検討した。
観測どうしの競合と妥協
とくに海王星の最接近の付近では、いろいろな観測の希望が競合するので、適切な妥協点を見出す必要があった。
指令をボイジャーが読める形にする
観測の手順を、多くの手続きを経て、ボイジャーに送る指令の形まで変換する。最終的には、期待される軌道や到着時間と実際のそれらとのずれに対応するために、ぎりぎりまで指令を送り続ける必要がある。

7.2 海王星との会合

7.2.1 科学活動

科学の活動を探査フェーズの順を追って解説する。
天王星-海王星間の航行
海王星に近づくまでの間に、各種のテストや機器の較正などが行われた。惑星や衛星の画像を使って航行する OPNAV 技術では、新衛星が発見されることを前提にした計画がなされた。
Observatory Phase (OB)
OB は、1989/06/05--1989/08/06。テスト、機器の較正、軌道の修正などが引き続き行われる中、本格的な観測も開始された。
Far Encounter Phase (FE)
FE は 1989/08/06--24。海王星が NA の1視野に収まらなくなってきた。科学観測では以下のようなことがなされた。
Near Encounter Phase (NE)
NE は 1989/08/24--29。重要な観測が目白押しである。8/25 3:56 に海王星に最接近。8/25 9:10 UTC に Triton に最接近。
Post-Encounter Phase (PE)
PE は 1989/08/29--1989/10/02。後処理として重要なのは、テープレコーダの記録を再生して地球に送ることである。そのほか継続している観測には以下のようなものがある。
Voyager Interstellar Mission (VIM)
その後、Voyager は heliosphere の様子を調べ続けている。まず、Terminal Shock を見つける。それは、太陽から 80--90 AU の位置にあるだろうと思われている。次に Heliosheath を調査する。幅はよくわかっていないが、数十 AU あるだろう。そして、Heliopause を過ぎたら、星間物質を調べることになる。

今生きている観測機器は、Voyagers 1, 2 で共通のものが CRS, LECP, MAG, PRA, PWS で Voyager 2 ではさらに PLS が稼働中。時間とともに燃料が減ってきて電力が落ちるので、だんだん観測を縮小しなければならない。2020 年に観測終了予定。

第8章 海王星の内部

8.1 Voyager の結果による制約条件

木星型惑星の比較

木星土星天王星海王星
自転周期9.925h10.657h17.24h16.11h
表面(雲頂)温度165K134K76K73K
表面の色黄色黄色

Voyager 2 の Doppler tracking と ranging から、海王星の M, J2, J4 がわかる。電波放射の周期から惑星内部の自転周期がわかる。可視画像、ならびに Voyager 2 の掩蔽の電波観測から扁平率が求められる。

海王星の自転周期が比較的長い割に扁平なことから、海王星には高密度のコアはなくて、氷と岩石とが混ざっているのではないか。

大気の状態は、電波、赤外、紫外などで観測される。これらの結果は、内部構造を決めるための境界条件になる。マイクロ波による地上観測も大気深部の情報を与えてくれる。内部構造モデルは internal heat とも整合的でなければならない。

今のところ内部構造モデルの決定版は無い。

8.2 Voyager のデータと整合的なモデル

海王星のモデルは、ガス成分(H, He)、氷成分(メタン、アンモニア、水)、岩石成分(Si, Fe)の3成分で通常記述される。

岩石コアは、あるとしても小さくて、全質量の 2% 以下。氷マントルが全質量の約 90% を占める。その密度は一番外で 1g/cm3、一番内側で 5g/cm3 くらい。一番外側の層はガス成分でできており、H, He がほとんど。氷成分も太陽存在度に比べて 30-60 倍濃集している。この外層は全質量の 15% 以下。Fig.8.3 にいろいろなモデルの結果を示す。

中心圧力は 800 万気圧くらい、温度は仮に断熱曲線に沿うとすると、中心で 6000-10000 K くらい。

海王星は、太陽から受ける熱の 2.6 倍の熱を内部から出している。一方で、天王星は internal heat が極めて小さい。このことは説明できていない。

8.3 まとめ

第9章 海王星の大気

9.1 大気の成分

大気の成分で最も多いのは H2、次が He、3番目が CH4。メタンは赤色を吸収するため、海王星は青く見える。大気深部には H2O と NH3 があるだろう。

大気の温度の極小は 100mbar レベルで、55K。1bar では 70K になる。メタンは 80K で凝結を始める。そこで、メタンの雲底は 1bar レベルよりも少し下で、雲頂はもっと高いだろう。その下にはアンモニアの雲があるだろう。その雲底は 3-4bar, 125K あたり。メタンの下の雲は、むしろ H2S かもしれない。その雲底は 5bar, 145K あたり。水が凍るのはもっと深くて 50bar, 275K。そういうわけで、アンモニアや水は、大気上層の外から見えるあたりでは非常に少ないだろう。

9.1.1 He の量

He の質量分率は、太陽大気上層で 0.28(モル分率で 0.16)。太陽では、核融合で He が作られているから、この値は原始太陽系星雲での存在度の上限だろう。木星大気の He の質量分率は 0.234±0.005(モル分率で 0.157±0.003)(Galileo probe による)。土星大気の He の質量分率は、Voyager によると 0.06±0.05(モル分率で 0.03±0.02)(電波と赤外)、しかし Voyager 赤外だけだと 0.22±0.04(モル分率で 0.14±0.03)。

木星と土星の内部では水素が金属になる。すると、He が相分離して液滴になり、沈むであろう。すると、大気中の He が少なくなる。とくに、同じ圧力では、土星の方が低温であるため、その効果が大きいであろう。

天王星、海王星では、金属水素ができないので、He が沈まないから、He の量は原始太陽形成雲の値を反映しているであろう (Fig.9.1)。He/H を変える可能性のあるメカニズムとしては、以下のようなものが考えられるが、たいしたことはないであろう。(1) もともと C や N が多い環境で天王星や海王星ができるために、CH4 や NH3 に食われて H が減り、He/H が増える。(2) 高温高圧でメタンが C と H に分解し、H が大気中に増えて、He/H が減る。

9.1.2 メタンの量

いわゆる「氷」成分のうち、メタンだけが Voyager 2 で観測できる外層に存在する。アンモニアや水は深いところにしか存在しない。

メタンの量は、Voyager 2 が海王星で掩蔽されるときの電波観測で決められた。Fig.9.3 が、電波強度データで、2回大きく電波強度が下がっているのは、雲層に対応。

メタンのモル分率は 0.02-0.04(質量分率で 0.17±0.06)。C のほとんどがメタンだとすると、C/H は太陽存在度の 30-60 倍。天王星でも同程度。

9.1.3 微量成分

Voyager 2 の観測で、下層大気で見つかったのは H, H2, He, CH4 のみ。

上層大気では、アセチレンとエタンがあるようだ。1mbar レベルで、アセチレンとエタンの混合比は、それぞれ 5×10-8、10-6。どちらもメタンの光化学反応の副産物。そのほかにポリアセチレンがあってもよさそう。どれも微量だが、haze を作って、上層大気の温度を上げ、その下の大気の温度を下げる働きがある。

サブミリ波の地表観測では、成層圏に HCN、成層圏と対流圏に CO が確認された。混合比はそれぞれ、10-9、10-6。天王星では観測されない。なぜこんなものがあるのか不思議。CO は対流圏でできたものが上がってきたのかもしれない。HCN は cold trap にひっかかるはずなので、この中の N の源は、外部(たとえば、トリトン)であるか、対流圏からやってきた N2 であろう。

9.1.4 同位体比

D/H は 10-4 程度で、太陽の 2-3 倍。天王星も同程度。隕石や彗星物質が多く持ち込まれていることを示すのかもしれない。

12C/13C は 78±26 で、太陽系の普通の値 90 とだいたい同じ。D/H が隕石や彗星のせいで大きいならば 12C/13C も大きくなってよさそうなのだが、そうでもない。

9.2 全球的なエネルギー分布

海王星は天王星よりも太陽から遠いにもかかわらず、下層大気の温度は同じくらいである。このことは、天王星が内部から熱をほとんど出していないのに対して、海王星がけっこう熱を内部から出していることを反映している。海王星は、太陽から受け取っている熱の倍以上の熱を放出している。

9.2.1 吸収される太陽光

海王星軌道での太陽放射は 1.508±0.002 W/m2。Voyager 2 の encounter のときは、1.497±0.002 W/m2。一方、反射される割合(アルベド)は 0.29±0.07。太陽光のうち吸収される分を 4 で割って惑星表面全体にならすと 0.27±0.03 W/m2。これから平衡温度は 46.6±1.1K。

9.2.2 再放射されるエネルギー量

極・赤道間にエネルギー輸送が無ければ、極・赤道間の温度差は、164 年の公転周期でならすと、少なくとも 3K はあるはず。実際は 1K 以下なので、対流で熱が運ばれているのであろう。

経度方向には温度はあまり変わらないし、帯平均温度は自転周期くらいではほとんど変わらない。

海王星の有効温度は 59.3±0.8K。平均熱放射は 0.70±0.04 W/m2

9.2.3 内部熱源の大きさ

海王星では、内部熱源の寄与が大きい。(energy balance)=(熱放射)/(吸収される太陽光)=2.61±0.28。この値は巨大惑星の中で最も大きい。ただし、内部からの熱流の大きさは木星や土星の方が大きい。

海王星の大気の活動が、天王星よりも盛んに見えるのは、内部からの熱が大きいせいだろう。

9.3 大気の鉛直構造

黒体放射 [Fig.9.4] では、全エネルギー∝T4。実際は、黒体放射ではないので、そこから大気の組成や温度、圧力の鉛直構造を導くことができる。赤外、紫外の観測からは 0.5bar まで、電波の掩蔽観測からは 6.3bar レベルまでの構造がわかる。

9.3.1 異なる高度での温度と圧力

海王星の 1bar レベルは、中心から 24764±20km で、ここを高さの基準にする。Table 9.2 に大気の鉛直構造を示す。He/H2=19/81 に固定してある。これは電波の掩蔽観測に基づく。

9.3.2 温度の緯度変化

電波掩蔽観測は中緯度に限られる。赤外と紫外の観測は緯度+70度より極側以外ではできた。Fig.9.5 に温度の緯度変化を示す。高度 15km では、温度の緯度変化は ±2K 以内、高度 60km では ±5K 以内。中緯度で温度が低く、赤道と高緯度で温度が高い。

海王星は扁平で、(極半径)-(赤道半径)=424km。

9.3.3 雲と靄の層

Voyager 2 以前の知見は以下の通り。高度 200km 付近に薄い靄の層、2bar レベルに比較的透明なメタン氷の雲、3bar レベルに組成の不明な不透明な雲がある。

現在の理解は以下に述べるようにだいぶん変わった。まず観測が及ばない深いところから。 深いところには水か氷の雲が 400bar 付近まで続いているだろう。アンモニアや硫化水素も混ざっているかもしれない。この雲の上端は 40bar あたり。その上に、NH4SH の氷の雲があるだろう。雲底は 37bar あたり。

Voyager 2 の電波掩蔽で観測できた最も深い雲は 3.3bar から 5bar の間で、組成は不明(候補:H2S氷、NH3氷)。赤い光が吸収されるので blue-tinted cloud と呼ばれる。さらに上層のメタンガスや氷も赤い光を吸収するので、海王星は深い青色をしている。

1.5--0.4bar レベルにはメタンの haze layer がある。上昇流があるところは不透明なメタン氷の雲になっている。

成層圏には、1つか複数の層の haze がある。光学的に厚いほうから薄い方に、メタン or エタン、アセチレン、ジアセチレンの氷の haze がありそう [Fig.9.7]。

9.3.4 上層大気

紫外の観測から上層大気の構造がわかる。500km より上では He の相対存在度がぐっと下がる。高度とともに原子状水素の割合が増える。高度 7000km では、1/4 が原子状。

もっと上の exosphere では、原子状水素が主成分になる。750K という高温で外側に広がっているので、リング粒子も抵抗を受ける。

原子状水素は太陽からの紫外光でイオン化している。高度 1400km では、電子密度が 1000--2000/cm3 になって、電離層を作っている。そのほかにも電離層があるかもしれない。

9.4 水平雲と温度構造

天王星の大気は比較的平穏。

海王星の大気は活動的。目立つものには、木星の Great Red Spot (GRS) に似た Great Dark Spot (GDS) がある。GDS も GRS も南緯20度付近にあり高気圧性回転(反時計回り)。GDS の広がりは経度方向に 38°、緯度方向に 15°。GRS の広がりは、経度方向に 30°、緯度方向に 20°。GDS の1回転は 16 日くらいに見えるが、形状の変化の周期は 8 日。GRS の1回転は 7 日。GRS は周囲の大気の運動に大きな影響を与えているが、GDS はそれほどでもない。GRS は木星内部の自転に対して 3m/s で西に動いているが、GDS は海王星内部の自転に対して 300m/s を超える高速で西に動いている。

GDS の寿命は不明。GDS は南の縁に明るい雲を伴う。GDS が「山」の役割をしてできた地形性の雲のように見える。すなわち、GDS という障害物のせいで大気が上昇して雲ができる。その後、HST での観測でこの雲が見えなかったということは、GDS が消えたことを示しているのかもしれない。

9.4.1 ほかの雲の様相

明るいコアを持つ第二の dark spot として D2 というものがある [Fig.9.10(a)]。南緯 55°にある。中心に上昇流があって雲ができているために中心が明るいのだろう。

南緯 71°付近に経度 90°にわたって明るい部分がある。大気の活動がさかんな領域なのだろう。明るさは時間的に大きく変化している。

南緯 42°に Scooter と名付けられた明るい部分がある [Fig.9.10(b)]。他の雲に対し西向きに高速に動いている。ほかの雲と違って、メタンの氷ではなく、メタンの雲層よりも下にあるようだ。

9.4.2 帯状風のプロファイル

すべての巨大惑星では東西風が卓越。だいたい赤道対称で、赤道付近で最大になることが多く、極で0。惑星内部の自転に対して同じ方向に吹く風を prograde、逆方向に吹く風を retrograde と呼ぶ。

赤道の風は、木星と土星では prograde、天王星と海王星では retrograde。海王星のは特に強くて、400m/s に達する。さらに prograde wind は南北 70°で 200m/s を超える。その差 600m/s は太陽系の惑星で一番!

9.4.3 海王星の色

海王星が青いのは、メタンのガスと氷による赤色の吸収に加えて、3bar レベルの blue-tinted cloud のせい。

海王星には、天王星よりもはっきりした帯状構造が見られる(木星ほどではないが)。その原因はよくわかっていない。

第10章 海王星の磁気圏

10.1 磁場の強さと向き

磁場は、ダイナモ作用によって作られている。天王星の磁場は、変てこな方向を向いている。

Voyager 2 が海王星の磁場の存在を始めて検出したのは、電波信号。2000 年の 7 月 26 日、8 月 17 日、28 日、9 月 16 日にバースト信号が観測された。周波数は 700--850 kHz。

磁力計によって、bow shock in(最接近の 13.3h 前)、magnetepause in(9.9--8.3h 前)、magnetopause out(28.4h 後)、bow shock out(64.1--65.1h 後)が観測された [Table10.1]。

海王星の磁場も天王星と同じく変てこな方向を向いている。dipole の tilt が 47.0°、offset が南磁極の方向に半径の 55% [Fig.10.1]。磁場の形は双極子では表せなくて、Connerney et al.(1991) の octupole model でうまく観測をフィットできることがわかっている [Fig.10.2]。

10.2 磁場の tilt と offset から示唆されること

天王星も海王星も磁場の tilt が大きいということは、両方とも逆転の途中だということは考えにくいし、天王星の自転軸の tilt が大きいせいでもないだろう。一つの説明は、磁場が比較的浅いところにある層でできているということだ。

海王星では、磁場の tilt が大きいので、自転と公転に伴って磁場の軸の方向が大きく変わる。太陽と磁場の軸とがなす角は 11.2°にまで小さくなることがある(夏至と冬至のとき)。そういうときは、太陽風粒子の降り込みが激しくなるだろう。磁気圏尾部の形も自転と公転に伴って大きく変化するはずだ。

10.3 海王星のオーロラ(極光)

荷電粒子が極域に降ってきて、大気の原子と衝突し、可視光や紫外光を出すのがオーロラである。

天王星では、磁場の tilt が予想よりかなり大きかったため、ちゃんとオーロラを観測し損なった。しかし、北磁極の夜側でオーロラが観測された。しかし、オーロラ活動の強さが説明できていない。

海王星では、夜側に弱くて広がった紫外放射が観測された。一つは、緯度 100°、経度 60°にわたって広がったもので、もう一つは南磁極付近に局在したものである。いずれも、オーロラであるかどうかははっきりしない。北磁極の付近ではもっと明るいオーロラがあってよさそうだが、Voyager からはちょうど見えづらい位置であった。

海王星のオーロラがどんなものかは予測しがたい。大きな offset のために、磁場の中心の反対側の電子が剥ぎ取られているということも考えられる。

10.4 海王星からの電波放射

Voyager によって、だいたい5種類の放射が観測された [Table10.2]。

一番多くみられるのが、狭帯域 (635--865kHz) のバースト的放射である。惑星磁場と惑星間磁場が結合することによって発生するという証拠が少しある。自転周期で変動する。それは、放射が細いビーム状であるせいか、1日1回放射のオンオフがあるせいなのかよくわかっていない。惑星内部の自転周期 16.108±0.0006h はここから決められた。

他にも2つのタイプの電波放射が観測された。ひとつは、赤道面近くの微粒子に関係するもので、それらの粒子が宇宙船に当たって電波を出したものと考えられている。もうひとつは、雷に伴うもので、ホイッスラー波の特徴がある。ただし、他に雷の観測は無い。雷の活動は弱いのかもしれない。

10.5 海王星のプラズマ環境

海王星の磁気圏のプラズマ密度は、天王星の磁気圏よりも低い。トリトンがプラズマへの物質供給源で、主なイオンは N+ と H+

L shell とは、磁気赤道において双極子からの距離が L となる磁力線が作る面のことである。普通、衛星は、通過する L shells のプラズマ粒子の sink になるのだが、トリトンの場合は source になっている。

Voyager の軌道が磁気圏尾部を通らなかったので、磁気圏尾部は観測されていない。

10.6 海王星における高エネルギー荷電粒子

測定した電子のエネルギー範囲は 22keV--10MeV、イオンのエネルギー範囲は 28keV--数100MeV。

天王星・土星・木星では上流側でイオンが観測されたが、海王星では観測されなかった。バウショックを過ぎてもほとんど高エネルギー粒子が増えていない。磁気圏界面を過ぎてようやく陽子が少し増えたものの、電子密度はほとんど変わらなかった。バウショックと磁気圏界面の間では、電子と陽子が時折下流に流れていくのが見えた。

Voyager が海王星に最接近したあたりで高エネルギー陽子と電子の密度が急減した。これは大気による吸収が原因だと解釈されている。衛星 Proteus も粒子を吸収しているようだ。他にも衛星や環の吸収が原因の dips が見られるが、磁場の構造が複雑なので、はっきりどの衛星や環によるものかはいえない。

Proteus と Triton の間の粒子密度分布はスムーズ。Triton の軌道には中性粒子の torus が出来ていて、磁気圏粒子の供給源になっている。ただし、Triton と磁気圏粒子の関係の詳細はわかっていない。磁気圏尾部からは惑星に向かって粒子が流れてきているようだが、その源はよくわかっていない。

10.7 磁気圏内の波動・粒子相互作用

荷電粒子は、電磁波とエネルギーのやり取りをする。Voyager plasma wave 研究で観測したのは 10-56,200Hz の波。音波で言えばちょうど可聴域。

プラズマ波動帯の電波は荷電粒子と容易に相互作用するので、あまり長い距離は伝わらない。つまり、電波は短距離の相互作用を媒介する。

電波強度は、Voyager 最接近の前後6時間が強かった。プラズマ波動が初めて観測されたのは、最接近の 17h 前。これは、バウショックから出てきた高エネルギー電子が発したものである。それからバウショックまでは電波が観測されたが、マグネトシースの中では電波放射が観測されなかった。他の巨大惑星では同様にマグネトシースの中では電波レベルが低いが、地球型惑星ではそうでもない。その理由は不明。磁気圏界面を入ったところでも電波放射が弱かった。これは、Voyager が cusp 領域に入ったせいかもしれない。次に電波が観測されたのは最接近の 3.5h 前で、Voyager は磁気赤道の近くにいた。

ホイッスラーは雷によるもののようである。その他の種類のプラズマ波動の源はよくわかっていない。

第11章 海王星の環

11.1 環の発見

木星の環は、おそらくシリケイトのダスト粒子。平均粒径は 1μm 程度。粒子の源は、近くの衛星 (Metis, Adrastea, Amaltheea, Thebe) に微小隕石が衝突したときにできた屑だろう。Metis と Adrastea は、細い主リングの粒子供給源だろう。主リングの外に Gossamer リングがあり、Amalthea と Thebe が関係ありそう。主リングの内に形のはっきりしない Halo リングがある。

土星の環は内側から順に、D, C, B, Cassini Division, A, F, G, E。A and B rings が明るく、water ice からできており、粒子径は幅広いが、主に cm サイズ。C, D, F rings の粒子径はわかっていない。G, E rings は μm サイズの粒子だが、組成は不明。土星の環の radial structure は複雑。azimuthal にはあまり構造が無いが、謎の spokes が見つかっている。

天王星の環は暗くて細い。おそらく radiation でやられて黒くなったメタン氷であろう。内側から順に 6, 5, 4, α, β, &eta, γ, δ, λ, ε。名前の由来は以下の通り。環は 1977/03/10 の掩蔽観測で見つかった。第一のグループは、5つ環を見つけて、内から順に α, β, γ, δ, ε と名付けた。第二のグループは、6つ環を見つけて、外から順に 1, 2, 3, 4, 5, 6 と名付けた。このうち、1, 2, 3 は ε, γ, β と同じであることがわかった。その後、第一のグループがデータを再検討して η ring を見つけた。さらに Voyager 2 が淡い λ ring を発見した。

海王星の環は、地表観測でははっきりせず、Voyager 2 が行って初めてわかった。5つの環があり、内側から Galle, Le Verrier, Lassell, Arago, Adams。そのほか、衛星 Galatea の軌道上に部分的な環があるかもしれない。Adams ring の 10% は、光学的に厚い5つの弧から成る。この弧は leading から trailing の方へ、Courage, Liberté, Egalité 1, Egalité 2, Fraternité と名付けられた。

環はそれぞれ特徴があるけれども、どれも、同じ力学法則にしたがっている。中心星からの重力の支配下にあるけれども、近くの衛星やリング粒子からの重力も受け、さらにわずかに減速力を受けて中心星に向かって落ちてゆく。どれも惑星の赤道面付近にあり、惑星よりだいぶん若くて、何らかの維持機構がはたらいている。

11.2 環の構造

木星、土星、天王星の環にあまり azimuthal な構造が無いのに対して、Adams ring には5つの弧がある (Table 11.1)。海王星の環は地球からあまりよく見えないので、他の惑星の環よりもデータが少ない。

11.3 環の物理的性質

電波掩蔽の観測 (3.6, 13 cm) では環が見えないので、光学的厚さは 0.01 以下で、cm サイズよりも大きな粒子があまりないことがわかる。

Voyager 2 からの紫外・偏光計掩蔽観測から以下のことがわかった。紫外で見えたのは Adams ring だけで、光学的厚さは 0.02、幅は 35km。中心の幅 15km の部分はより光学的に厚い。偏光計観測の結果も同様。Le Verrier ring が見えているると解釈すると、光学的厚さは 0.005 で幅は 110km。これら2つの環の粒子サイズは cm よりも小さい。このことは天王星や土星とは大きく異なる。なお、掩蔽観測では他の環は見えなかった。

画像からも、海王星の環の粒子は μm サイズであることが示唆される。天王星の環も海王星の環も、反射率が低いことから、メタンが衝突で壊れて出来た炭素で覆われているのではないかと推測されている。しかし、海王星の環の質量は天王星の環の1万分の一程度。その理由は不明。海王星の環の近くに衛星はたくさんあるので、粒子の源が少ないというわけではない。

11.4 羊飼い衛星との相互作用

天王星の環の領域にある衛星は Cardelia だけだし、他の比較的内側の衛星も小さいものばかりなので、羊飼い衛星の役割を果たせなさそう。したがって、天王星の環が細い理由はよくわかっていない。

海王星の場合、Naiad, Thalassa, Despina, Galatea が環の領域にあり、そこそこ大きく、環の外にある Larissa も直径 200km 近い。そこで天王星の衛星よりも羊飼い衛星になりそうだが、詳細はまだわかっていない。

Adams ring と Galatea は 42:43 共鳴。そこで、Adams ring には 45 個の nodes があってよい。観測される5つの弧は、連続する4領域にちょうど入る。とはいえ、他の領域に弧が無い理由はわからない。さらに、Galatea のせいで Adams ring は広がってしまいそうなのだが、そうなっていない理由もわかっていない。弧の Lagrangian point に未発見の衛星があって、それが弧の安定化に寄与しているのかもしれない。

Le Verrier ring と Despina は 52:53 共鳴。しかし、Le Verrier ring に弧は無い。

見える環の外側にダスト円盤が広がっている可能性も電波観測から示唆されている。Voyager が海王星に接近する途中と離れる途中で、粒子衝突が増えたときがあって、これはその円盤を通過したことを意味しているのだろう。そうだとすると、円盤の軸には 0.4°程度の tilt がある。これは Triton の影響かもしれない。

ダスト粒子の薄い halo が 8 RN くらいまで広がっているようだ。その間ずっと Voyager には 1-10個/秒 の粒子が衝突していた。たぶん μm サイズで、帯電しており磁場の影響を受けている。

11.5 環の年齢と進化

環はたぶんきわめて若い。そうでなければ dust halo は大気の drag で無くなっているだろうし、Adams ring の弧も消えているだろう。弧は少なくとも6年間はあったようだが、その後どうなったかはわからない。

微粒子の衝突によって、供給がなければリング粒子のサイズはどんどん小さくなっていくだろう。Poynting-Robertson 効果で、リング粒子はどんどん落下してゆくだろう。そのような効果で、環は進化してゆくはずである。

第12章 海王星の衛星

12.1 6つの衛星の発見

Voyager 以前には2つの衛星の存在が知られていた。Triton は 1846 年に William Lassell が発見し、Nereid は 1949 年に Gerard Peter Kuiper が発見した。

Voyager は6つの新衛星を発見した。まず、1989 年 6 月中旬に Proteus (1989N1) が見つかった。Triton に比べると大分小さく、内側を回っている。反射率が低くて、かなり暗い。球形からかなりずれている。

次に、1989 年 7 月下旬、Larissa (1989N2)、Galatea (1989N4)、Despina (1989N3) が発見された。Larissa は、その前に地表観測で見つかっていたのだが、ring-arc だと思われていた。いずれも Proteus よりも小さく、内側を回っている。最後に、最接近の数日前に Thalassa と Naiad が発見された。径 100km 以下の小さな衛星である。

12.2 衛星の軌道と物理的性質

6つの新衛星は、惑星に近い方から遠い方に大きさの順で並んでいる。Naiad が最小、Proteus が最大である。ほぼ赤道面を順行で回っている。Naiad の inclination だけが 4.7°と大きめ。

どの新衛星も反射率が低い。4つは water 氷に対する Roche 限界より内側を回っていて、water 氷よりも硬い物質でできているはずである。

新衛星の名前は、ネプチューンや水に関係した神話に出てくる神の名前である。

12.3 Proteus, Larissa, Galatea, Despina, Thalassa and Naiad

6つの新衛星のうち形がわかるのは Proteus と Larissa のみ。他は小さすぎて形も良くわからない。

12.4 Nereid

一番遠くを回っている。軌道の eccentricity が 0.753 と非常に大きい。これだけ eccentric だと自転と公転が同期していなくても良いが、自転速度はよくわかっていない。反射率が 0.18±0.02 と比較的高く、表面は汚れた氷状ではなからおうか。

12.5 Triton

Triton は Kuiper Belt 天体が capture されたものだと考えられている。

12.5.1 Voyager 2 による画像

Fig.12.8 美しい高分解能の画像。Fig.12.9 tectonic map。

12.5.2 地質学的な解釈

多様な表面地形が見られる。cantaloupe terrain というマスクメロンの皮のような地形が見られる。これは、トリトンがかなり深くまで融けて分化した結果だと考えられている。その熱源は capture の過程に関係したものかもしれないし、内部の放射性熱源かもしれない。大きな割れ目もあり、これも capture の過程と関係しているかもしれない。一度融けたために滑らかになっているところもある。

かつて大気があったかもしれないが、今では大部分は凍り付いてしまった。凍るとアルベドが上がるのでますます冷える。現在では表面温度は 38K にすぎない。

表面には N2, CO, CO2, H2O の氷が認められている。アルベドは 0.85 と高い。窒素の plume が観測された (Fig.12.10)。これは、氷の温室効果によって氷層の底が暖められ、窒素の気体か液体ができて噴出してきたものだと考えられている。

12.5.3 物理的、組成的、光学的データ

Triton の直径は 2705.2±4.8km で、太陽系の中で7番目に大きな衛星である。質量は、2.14×1022kg で、密度は 2.1g/cm3 となる。水よりずっと重いので、シリケイトもかなりあるのだろう。

大気はきわめて薄く、0.014mbar。それでも haze や薄い雲がかかる。大気の源は、表面の氷の蒸発で、したがって組成は N2, CH4, CO, CO2, H2O である。このうち、窒素が一番多くて 99% 以上を占める。したがって、窒素の相変化が大気の熱力学にとって重要。

Triton の軌道面は傾いていて、軌道面が才差運動するので、それに伴う複雑な季節変化がある。

12.5.4 Triton の起源に関する問題

Triton は大きな衛星の中で唯一傾いた逆行軌道を持っている。起源は capture が最も有力であるものの、そうでない可能性もある。Kuiper Belt 天体である冥王星とどのくらい似ているのかが興味深い。

第13章 海王星のボイジャー後の観測

13.1 地球からの望遠鏡観測

その後、データ解析技術が進み、木星、土星、天王星には新しい衛星が見つかったが、海王星には見つかっていない。しかし、他の惑星から離れているため、海王星の重力圏は広くて、衛星が存在する可能性のある領域が広いから、まだ発見されていない衛星がたくさんあっても不思議ではない。

地表からの環の観測は、暗いし小さいので難しい。磁気圏や惑星内部のことは、遠隔ではほとんどわからない。

補償光学 (Adaptive Optics) の発展によって、地表からの撮像がぐんと高分解能になって、HST に引けを取らないようになった。HST が有利な点として、地球大気が不透明な波長域でも見えるということは残っているが。AO は近赤外域で最も有効である。

13.2 ハッブル宇宙望遠鏡 (HST) による観測

HST は、1990 年に打ち上げられ、初期不良があったが、1993 年に修復して以来、美しい画像を地球に送り続けている。巨大惑星の撮像能力は Voyager に匹敵する。

海王星の Great Dark Spot は、長期間安定かと思われていたが、1990 年代初頭に消えたことが観測された。その後、北半球に同様の feature が出現した。というわけで、海王星では、公転周期に比べて短い時間スケールで大規模な渦の消長がある。

13.3 海王星への宇宙探査ミッション

NASA は、生命の起源としての有機物質探査、生命誕生前の化学に重点を置いて宇宙探査を進めている。その線で、トリトンも重要なターゲットになるであろう。

冥王星ミッションも計画されているが、冥王星はトリトンと似ている可能性があって興味深い。

第14章 4つの巨大惑星の比較惑星学

14.1 内部構造

巨大惑星は、地球よりずっと大きいけれど、低密度。

木星と土星の大部分は H-He envelope。超臨界状態になるので、気液相転移は無い。 高圧では金属相になり、その中で磁場が作られている。金属相になるのは、木星では浅く(0.9 RJ)、土星では深い(0.5 RJ)。金属層の下には、地球サイズのコアがある。コアは氷と岩石に分化しているかもしれない。

天王星と海王星では、金属水素は無い。H-He envelope は、あまり厚くなくて、半径で表面の 10% くらい。氷層が半径の 80% くらいを占め、岩石コアが中心の 10% くらい。氷層の電気伝導度が高くて磁場が作られているのだろう。。

14.2 大気

巨大惑星の大気は、水素とヘリウムからできている。1bar 付近には雲ができる。雲は、木星と土星では、主にアンモニアの氷で、天王星と海王星では、主にメタンの氷である。雲の下の観測ができたのは、木星の Galileo Probe のみ。

風は、東西風が卓越する。風パターンは、赤道に対しておおむね対称で、数百年間安定している可能性がある。太陽からの光の分布よりも、自転の効果が東西風の分布を決めているようだ。

14.3 環

1970 年代前半までは、環があることが知られていた惑星は土星だけだった。1977 年になって、掩蔽観測から天王星に環があることがわかった。1979 年には、Voyager 1 が木星に環を見つけた。海王星の環は、Voyager 2 が行くまではっきりとはわからなかった。

木星の環は、dusty で、衛星 Metis, Adrastea, Amalthea に隕石が衝突することによってできたのであろう。それらの衛星から惑星側に淡い環が広がっている。主リングは、最も明るくて幅が狭く、幅は 6400km くらい。帯電した粒子が halo を作っているのかもしれない。

土星の環がもちろん一番立派である。1611 年に Galileo が発見したが、ちゃんと環だということがわかったのは Huygens の観測による。Cassini が間隙を見つけて、その外側が A ring、内側が B ring と呼ばれるようになった。20世紀初頭、B ring の内側に C ring が見つかり、さらにその内側に D ring があると言われるようになった(ただし確かめられたのは Voyager による)。その後、だいぶん外側に E ring が見つかり、Pioneer 11 が A ring の外側に F ring、G ring を見つけた。

天王星の環は、10個の細い環からなり、内側から 6, 5, 4, α, β, η, γ, δ, λ, ε。ε が一番目立つもので、一番 eccentric。幅は 20--95km。6 の環の内側に広がった淡い環があるが、名前はまだ無い。Voyager 2 の写真でもっと細かい環が写っているものがあるが [Fig.6.53]、これらにも名前はまだ無い。

海王星の環には、2つの系統がある。細い Adams, Le Verrier, Arago、それから幅広くて淡い Lassell と Galle。Adams 環は5つの弧から成る。

4つの ring system は、サイズ、組成、反射率が異なる。木星の環の粒子は dust size のシリケイトで、反射率は中程度。土星の環の粒子は、数 cm から数十 cm サイズで、水の氷から成り、反射率が高い。天王星と海王星の環の粒子は、dust size で、非常に暗い。放射線のために暗くなったメタンの氷であると考えられている。

14.4 磁気圏

太陽の磁気圏 heliosphere は 100AU 以上も広がっていると考えられている。巨大惑星の磁気圏もけっこう大きい。Pioneers 10, 11, Voyagers 1, 2 が行くまでは巨大惑星の磁気圏のことはほとんどわかっていなかった。

巨大惑星の磁場は、電気伝導性流体の対流のダイナモ作用で作られている。

惑星の周りには磁気圏ができる。magnetopause は、イオンの出入りの障壁にはなるが、通過するイオンもある。太陽風粒子で通過したものは、オーロラを起こす。地球、木星、土星では、極の周りにオーロラ帯ができる。天王星、海王星は、磁場の軸が自転軸と大きくずれているので、様相が大きく異なる。

磁気圏の内部では、低エネルギー粒子がトラップされている。地球だと Van Allen 帯と呼ばれる。巨大惑星にもそれに相当するものがある。

14.5 衛星

2000 年の時点で、太陽系の衛星で知られているものの数は 91 にものぼっている。大衛星、中衛星、小衛星に大別できる。

大衛星は、半径 1000km を超えるもので、7つある [Table14.5]。地球の月、木星のガリレオ衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)、土星のタイタン、海王星のトリトンである。最大のものは、ガニメデ、次がタイタン、3番目がカリストである。密度が 3g/cm3 を超えるものは、月、イオ、エウロパの3つである。

イオでは火山活動が盛んである。100 以上の噴出孔が確認されている。出ているものは、主として硫黄と二酸化硫黄のようだ。高揮発性物質は少ない。

エウロパにはクレーターが少なくて、水の氷の地殻が最近 resurfacing したか、現在まで resurfacing が続いているものと考えられている。たくさんの筋は fracturing の跡であろう。氷地殻の下には深い海があるとも考えられており、生命がいるかもしれない。

ガニメデには内部磁場がある。ということは、金属コアがあるのだろう。表面の大スケールの明暗は、昔地質活動があったことを示す。

カリストは、たくさんのクレーターに覆われ、地質活動の証拠が無い。密度からみて、内部の大部分は氷。深いところには、液体の水があるかもしれない。

タイタンには濃い窒素大気がある。大気に2番目に多い成分はメタンで、表面には液体のメタンやエタンがあるかもしれない。表面温度は 94K(-179℃)。大気上層には hydrocarbon haze があるので、外からは表面が見えない。表面の情報は電波観測から得られる。ただし、2005 年には Cassini ミッションの Huygens Probe で表面に降りる予定。

トリトンは冥王星と似ている。軌道は retrograde で、捕獲によって衛星になった。薄い窒素大気がある。

中衛星は、半径 170--790km のもので [Table14.6]、14個ある。土星に6つ、天王星に5つ、海王星に2つ、冥王星に1つである。どれも氷衛星で prograde 軌道。

海王星の Proteus、Nereid、冥王星の Charon は近くからの観測が無くて、Proteus、Nereid は密度がわかっていない。

土星の Iapetus は forward 半球が黒くて、Phoebe からの物質が堆積していると解釈されている。Enceladus には氷の火山活動があるかもしれなくて、E ring に物質を供給しているようだ。Mimas には大きな断層が走っている。

小衛星はたくさんある [Table14.7]。密度がわかっているのは、火星の Phobos と Deimos だけ。