温暖化論のホンネ 「脅威論」と「懐疑論」を超えて

枝廣淳子・江守正多・武田邦彦著
tanQ ブックス 6、技術評論社
刊行:2010/01/15
名大生協で購入
読了:2010/01/18
江守氏と武田氏を含む鼎談ならば実りがあるだろうと思って買ってみたら、 果たしてだいたい予想通りのもので、温暖化の議論の本質がよくわかるようになっている。 鼎談なので、あまり難しいところはなくて読みやすく、買った日に読み終わってしまった。

江守氏も武田氏も賢い人だから(直接話したことはほとんどないが、講演は何度か聴いている)、 まあそこそこの合意が得られるだろうと思って読んでみると、果たしてその通りである。 武田氏は、よく温暖化懐疑論者と呼ばれているが、書いているものを読んでみると、 基本的に IPCC 報告に則っているし、したがって温暖化それ自体を疑っているわけではない。 なので、基本的な認識においては二人の間に差はない。 ただし、武田氏の書いた物にはいろいろ認識が粗いところはある。 そこを江守氏が指摘するだろうと思っていたら、果たしてその通りで、 武田氏もその点は認めていた。武田氏は賢いので、そんなに 専門家の指摘にケチは付けない (主として第1部)。

第2部では、科学者と社会との関わり方という難しい問題が武田氏から提起されている。 ここはなかなか結論がでないところだけれども、3者それぞれの立場から興味深い発言が なされている。

基本的に問題となるのは、温暖化の影響の評価とその対応をどうするかということである (主として第3部)。 江守氏はモデリングの専門家で、やっぱり賢いので専門外のことにそれほど口出しはせず、 その問題にあまり深入りはしない。そこで、ここは武田氏の独壇場である。 枝廣氏が武田氏の見方に抵抗しているが、まああまり効果的な抵抗はできていない。 本気で抵抗する気なら、武田氏の書いたもの(山ほどある!)を予め読んで 抵抗するための議論の筋をよく考えておかないと難しいはずなのだが、 そうはしていなかったようだ。とはいえ、社会のグランドデザインが重要だ、という 結論で3者は一応一致し、めでたしめでたしということになっている。でも、本当は 一致していないことがあとがきで明らかになっている。枝廣氏は

「温暖化対策にグランドデザインが必要」については3人の意見が一致しました。
と書いているが、武田氏は「温暖化対策に」という部分には納得しないはずである。 武田氏が言っていることは、「温暖化とは切り離して、 将来心豊かな生活を送れるようにするために」であるはずだからだ。この点、 枝廣氏はまだ武田氏の論点を良く理解していないことが分かる。

武田氏の議論の中で印象深い発言を3つ引用しておく:

枝廣:CO2 を減らすために何ができるのか問われたら、何と答えられますか? 産業構造を変えるとか、政治に働きかけるのとは別に、自分たちの生活の中で。 何もできないのでしょうか?
武田:残念ながら何もできないと思います。(p.173)
そうは言っても、江守さんの指摘にもあったように、 世界的な変化による間接的影響は受けるでしょう。 それに対しては、食料の自給率や森林の利用率を上げること。原子力も少し増やして エネルギー自給率を高めること。そして移民などの影響に備えて軍事力を高めること。 この3つに力を入れるべきだと思います。(p.182)
生活スタイルを改めること、自然や物を大切にする心を養うことは大切だと思います。 ただ、そのために温暖化を利用するなと言いたい。 そこに、私は一番引っ掛かっているのだということが、今回の鼎談を通してわかりました。(p.185)