光触媒とはなにか

佐藤しんり著
ブルーバックス B-1456、講談社
刊行:2004/10/20
名大生協で購入
読了:2010/06/08

著者による「サトシンの光触媒のページ」


車の抗菌・防臭にチタニアなるものが使われていて、それが何かわからなかったのだが、 どうやら光触媒というものらしいということがわかったので、買ってきて読んでみた。 説明はわりと明快で読みやすいし、基本的なところからかかれている。 索引がきちんとついているのも良い。途中で単語がわからなくなったときに復習するのに 便利であった。読んでみた結果、酸化チタンというものが、 怪しげなものではないことがわかった。人体への悪影響もそれほどなさそうである。 とはいえ、酸化チタン自体は人体への悪影響がないとしても、周辺で使われている物質が どうかまではわからないが。

商品の広告だけだとキーワードとして活性酸素などと書いてあって、 それだけだと怪しげな感じがするのだが、本書には活性酸素という単語が 指すものが具体的に書かれている。 その活性酸素に関して世間で広まっている誤解についても解説がなされている。


以下、サマリー。
第1章 身近になった光触媒
光触媒の酸化チタン(TiO2)が最近よく使われている。 光を当てると有機物を分解する性質を活かして抗菌・消臭に使うとか、 光を当てると超親水性になることを活かして汚れ防止・曇り止めに使ったりされる。
第2章 化学反応と触媒の働き
触媒の働きの基礎的なことがら。とくに、活性酸素というのがどういうものかの 説明がなされている。活性酸素というのは、原子状酸素(O-)とか、 それに酸素がくっついた O3- とか、反応性が高い状態の酸素である。
第3章 光があたると何がおきるか
固体のエネルギーバンドの考え方、光励起の考え方など、固体物理の基本的なことの説明。
第4章 光触媒反応の仕組み
光触媒は酸化チタンに限らない。たとえば、光合成におけるクロロフィルがそう。
光触媒の活性の表現法としては、量子効率を用いるのがよい。ただし、定義が一意的でないことに注意する。
第5章 酸化チタン単独の光触媒
本題の、酸化チタンが光触媒としてはたらくしくみの解説。 活性酸素が作られるところがポイントである。光によって酸化チタンに電子や正孔ができる。 酸素が酸化チタン表面に吸着すると、電子と正孔が相次いで作用することで 原子状酸素(O-)に分解される。 これに酸素分子がくっついた O3- も作られる。 これらが主な活性酸素であり、触媒表面上に吸着している。 この活性酸素による酸化反応が光触媒反応の主なものである。 活性酸素としてそのほかのもの(・OH や O2-)を 挙げている解説書もあるが、誤りである。
カルボン酸は酸化チタンを光還元する。すなわち、カルボン酸は、活性酸素がなくても、 格子酸素によって光酸化される。もちろん活性酸素があれば、もっと速く反応が進む。
光による超親水性は、水の光吸着によるものらしい。 光を当てていないと、水が酸素によって追い出される。
第6章 ホンダ・フジシマ効果
ホンダ・フジシマ効果とは、光による水の電気分解である。 光が、酸化チタンの電子を励起して、電子・正孔ペアを作り、その正孔が酸化反応、 電子が還元反応を起こす。 電子の電位が十分に低く、正孔の電位が十分に高ければ、電気分解ができる。
似た原理で、光によって電池を作ることも出来る。これを湿式太陽電池という。
第7章 白金つき酸化チタン光触媒
水の光分解では、酸化チタンが陽極で白金が陰極であった。 では、これら2つの物質をくっつけたらどうなるだろうか? 電気分解にはあまり役に立たない。なぜなら逆反応がすぐに起こるからである。
白金つき酸化チタン光触媒は、水蒸気中で強い光酸化作用を示す。 その理由の一つは、水蒸気が酸素よりもずっと良く酸化チタン表面に吸着するせいである。 水は、正孔によって酸化されて活性酸素となり、余った水素は、白金の上で電子によって還元されて水素ガスになる。 もう一つの理由は、正孔と電子が別の場所で働く(電荷分離)ため、正孔と電子が再結合しづらいためである。
酸化されやすい物質を含む水溶液中では、白金つき酸化チタン触媒に光を当てると、水が還元されて水素が発生する。これを光水素発生反応と呼ぶ。
還元されやすい物質を含む水溶液中では、酸化チタン単独でも、光が当たると、水が酸化されて酸素が発生する。この場合は、電子と正孔は、別の場所で反応する。これを光酸素発生反応と呼ぶ。
第8章 酸化チタンの取り扱い方
酸化チタン粉末の作り方など。