拒否できない日本 アメリカの日本改造が進んでいる

関岡英之著
文春新書 376、文藝春秋
刊行:2004/04/20
東京中目黒の古本屋 BOOK OFF 中目黒駅前店で購入
読了:2010/04/12
アメリカは日本を恫喝して、自分たちに都合の良いように変えようとしている。 それがいわゆる「グローバリゼーション」であり構造改革である。 御用評論家たちが言うようにアメリカの基準が世界の標準かと言えば、そんなことはなくて、 むしろアメリカは世界の異端児であることが解説されている。 アメリカの常識は世界の非常識なのである。 これを読むと、アメリカに対して腹が立ってくるとともに、 政治家が日本の国益(本当はアメリカの国益)と言ったり、 マスコミが日米関係は良好(本当はアメリカの言いなりになっているだけ)と言ったりしているのが、 空虚なのがわかってくる。

以下、内容をまとめてゆく。アメリカは「年次改革要望書」を通して、 アメリカの産業が進出しやすいように着々と日本をアメリカ化している。 これはどう見ても内政干渉なのだが、どういうわけか日本はそれを呑んできている。

国際会計基準は、アングロ・サクソン諸国の主導で変えられてきている。 アメリカの制度が日本の制度より優れているかと言えば、かならずしもそうではない。 エンロン事件が示すように、アメリカの制度にも欠陥があるにもかかわらずである。 会計制度だけではなく、監査制度、商法、公正取引委員会等々、 アメリカの産業の日本進出のための日本改造が進んできている。

司法改革も同様で、アメリカ企業の進出をねらったものである。 裁判員制度も陪審制のまねなのだが、 アメリカにとって都合が悪いかもしれない民事事件には導入されていない。

さらに話は進んで、アメリカという国の体質の話に及ぶ。 アメリカの司法は、そもそも世界的に見ても特異なのである。 三権分立というが、立法、司法、行政の力関係は国によって違う。 日本は行政が強いのに対し、アメリカでは司法が強い。 アメリカの建国からの遺伝子である行政不信がその背景にあるとのこと。

英米がよく世界に対して振り回す御都合主義やらダブルスタンダードの由来の一つが エクィティという英米法独特の制度だというのは興味深かった。 エクィティというのは、いわば「大岡裁き」のことで、大法官による恣意的な判断である。 イギリスでは身分制度が厳しかったので、裕福な人が買収などで 不当な判決を勝ち取ることが少なくなく、これを是正する仕組みとしてエクィティができたとのこと。 英米以外からは理解しがたい制度である。

最後の章では、フリードマンに代表される経済の自由主義の根源が、 アングロサクソンの伝統の個人主義に根ざしていることが解説されている。 アメリカは、アナーキズムと言って良いほど自由放任を是とする国であり、 裏返すと、競争による個人の利益追求を是とする国である。 これは、世界的にみても、ほぼアングロサクソンの国にしかみられない特徴である。

以下、最後の方からの引用:

ヨーロッパ大陸でも、イスラーム圏でも、地球にはいま、怨嗟の声が満ち満ちている。
あこぎな競争に躍起となり、ひたすら勝つことばかりに血眼になっている浅ましきアメリカ人よ。 いまよりもっと贅沢をしたいのか。これ以上いったい何を望むのか。もう、充分ではないか。 わたしたちはつき合いきれない、放っておいてくれ。 頼むからこの小さな惑星の静謐を掻き乱さないでくれ。