ブレイクスルーの科学者たち

竹内薫著
PHP 新書 659、PHP 研究所
刊行:2010/04/01
名大生協で購入
読了:2010/04/18
日本人の科学者11名にインタビューして紹介するという企画で、軽く読める本である。 その反面、食い足りない意味もある。

ひっかかったことが2つ。

まず、最初は特許にかかわることである。第6章で紹介されている山根公高氏はあまり特許を取らないとのこと。

「だって、僕なんかの技術って、みんなのためにあるんです。特許をとって、一人が儲ける? まあ、研究費は欲しいですよ。だけど、そんな狭いこと…」
これは良く理解できる。特許は、基本的に情報の流通を妨げるものなので、こうやってオープンな考えで いられるならば、それに越したことはない。まったく立派なお考えである。ところが、一方で、 第4章で紹介されている新津洋司郎氏のところでは、特許を取りそこなったので薬として流通しないという話が出てくる。
「特許をとれないということは、薬として流通しないということを意味します。どんなにいい発見でも、 製薬会社は儲からないものをつくりませんから。」
これはどういうことなのだろう?疑問その1は、特許を取ったとして儲かるのは新津氏であって、 製薬会社ではないはずなのに、どうして製薬会社の儲けと結びつくのであろうか?疑問その2は、 最近はジェネリック医薬品などもあるのに、特許がないと製薬会社が作らないということにどうしてなるのだろうか? よくわからない話である。

次は、第11章で紹介されている田中宏幸氏の出自に関することである。 彼は、もともと原子核の専門家で、地球科学分野に進出したという話になっている。 でも、それは少し正しくない。なにしろ、少なくとも形式的には 彼は私たちの講座の出身なのだから。 田中君は、自分自身は根っからの物理屋であるかのような言い方をよくするから、 もともと原子核の専門家ということになってしまうのは理解できる。とはいっても、 彼の進んだ道に少しは影響を与えたはずの私としては、ちょっとさびしいわけで。もちろん、 彼を実質的に指導したのは物理の先生なので、偉そうなことは言えないけれど。