気候が文明を変える
安田喜憲著
岩波科学ライブラリー 7、岩波書店
刊行:1993/12/20
名古屋新瑞橋の古本屋 BOOK OFF 新瑞橋駅前店で購入
読了:2010/04/13
著者は、花粉分析という地味な分野の専門家でありながら、気候と文明の盛衰という壮大な物語を
語ってみせるのが面白い。
本書のテーマは、3200 年前 (1200 BC) 頃の気候変動の話である。
以下、サマリー。
3200 年前頃、ミケーネ文明が崩壊した。その原因は2つあって、文明による森林破壊と、
気候の寒冷化の影響で雨が増えて湿地が増えたことである。
文明が弱った後、さらに寒冷化の影響で、ヨーロッパ全体で民族移動が起こり、
ギリシャ地域では、北からドーリア人やフリギア人がやってくる。
さらに、同じ頃ヒッタイト帝国が崩壊したので、帝国が独占していた鉄の技術が流出し、
鉄器時代が始まった。
3200 年前頃から始まる寒冷化は世界的なものであった。
そこで、世界中で同様の変化が起こっている。
- 民族移動:ヨーロッパでも起こっているし、東アジアでも起こっている。
中国で、周王朝が興り、さらにその後春秋・戦国時代の動乱期に入るのは、
民族移動が関係しているであろう。
日本には、大陸から難民がやってきて、ソバやイネの栽培を行い、弥生時代が始まった。
- 天候神の強大化
- シリアのフェニキア人の間に、バール神信仰が広がった。
バール神は天候神であり、海竜ヤムや死神モートと闘う。
バールの妹であり妻でもあるアナトがバールを助ける。
- 気候の悪化に伴い、モーゼがエジプトを脱出した。
モーゼは、乾燥化したシナイ半島をさまよい、天候神ヤハウェを信仰する。
- 日本で嵐の神のスサノヲ伝説が成立したのもこのころではなかろうか?
スサノヲは、大蛇ヤマタノヲロチを退治して、クシナダ姫を助ける。
この神話の原型は大陸にあり、難民とともに日本にやってきたもののようだ。