本書では、謎解きは最後にあまり理屈もなく一気になされてしまうので、 謎解きを楽しむという感じのものではない。解かれてみるとなるほどと思うけれど、どうして 急に結論が得られたのかはいまひとつはっきりしない。楽しむべきものは謎解きというよりは、 料理あり色恋沙汰あり友情ありのストーリー展開である。めまぐるしくいろいろなことが次々に起こるので 引き込まれる。 2つの殺人があるものの、殺されるのはかなりの悪者と怒りっぽい人なので、後味の悪さもあまりない。
長編らしく、事件の真相は入り組ませてある。大きく言えば、2つのストーリーをからませてある。 一つは、メインの事件で、2つの殺人とその周辺の出来事である。もう一つは、半年前に死んだと思われていた サンディー・ブリスベーンをめぐるストーリーである。後者は目くらまし用である。 サンディーの登場が劇的で、なおかつ主人公はサンディーのことをずっと気にしているので、 推理小説としては、サンディーが殺人犯だと当たり前すぎて面白くない。なので、サンディーが 目くらましだということは読んでいて想像できたものの、真犯人はうまく隠されていて、種明かしを されるまでわからなかった。最初のうちは、主人公は真犯人を犯人ではないと確信しているので、読者も それに惑わされるようになっている。しかし、種を明かされてみると、この真犯人の周りで起きていたことには いろいろつじつまの合わないことがあったと思い返される。