シャーロック・ホームズ全集 第5巻 ボヘミアの醜聞
Sir Arthur Conan Doyle 著、William S. Baring-Gould 解説・注、小池滋 監訳、日暮雅通 訳
東京書籍
刊行:1982/08/20、刷:1988/09/20(第4刷)
原題:The Four Novels and the Fifty-Six Short Stories Complete by Sir Arthur Conan Doyle
原出版社:Clarkson N. Potter Inc., New York
原著刊行:1967
ずっと以前にどこかの古本屋 BOOK OFF で購入(忘れた)
読了:2011/11/05
ずっと昔に買ってあったものを取り出して読んだ。
シャーロック・ホームズの物語を、
事件が起こったと推定される日時順に並べ替えて全集にしたもののうちの一冊。
丁寧な注釈と解説論文付きでホームズを読むというもの。
この巻に収録されている解説では、ワトソンの結婚歴に関する考察がある。
コナン・ドイルもそんなに細かいところまで気を使って書いたわけではないだろうから、
いろいろ矛盾もあったりするようである。
それでもめげずに結婚歴みたいなものまでできる限り整合的になるようにするやり方を研究するのがシャーロキアンであって、いろいろな説が出されているようである。
解説者(Baring-Gould)は、ワトソンが3回結婚しているという考えである。
- 1886/11--1887/12or1988/01 サンフランシスコで開業医時代に会った娘と結婚し、ケンジントンで開業。死別。
- 1889/05--1892/06 「四つの署名」のメアリー・モースタンと結婚し、パディントンで開業。死別。
- 1902/10-- 結婚して、クイーン・アン街で開業。
この考察で面白いところは、あたかもドイルなどおらず、ワトソンが物語を書いているような
書きぶりをしていることである。たとえば、
なぜワトソンは初期の少なくとも4編の中で、故意に読者をまどわそうとしたのか。
その発表年代を考えてみれば、答はたちまちわかってしまう。
(中略)
1891 年の 7 月から 11 月までワトソンはメアリー・モースタン・ワトソンと一緒の結婚生活を送っていた。
もし彼女が、自分はワトソンの愛情の中でいつも「もう一人」の次に位置するという事実を、絶えず
活字で人目にされされていたら、彼女はどんな気持ちになったであろうか。
などと書いている (pp.76-77)。シャーロキアンは、このようにワトソンを実在の人物であるかのように語るものらしい。
この巻には3編の短編が収められている。最初の結婚の前後の 1986 年から 1987 年までの事件で、
「第二のしみ」「ライゲイトの地主」「ボヘミアの醜聞」である。
元はそれぞれ別の短編集に収録されていたものである
- 第二のしみ
- The Return of Sherlock Holmes の最後の作品。
- ライゲイトの地主
- The Memoirs of Sherlock Holmes の中にある。
- ボヘミアの醜聞
- The Adventures of Sherlock Holmes の第1作。
これらの事件が起こった時(年月日)を特定するというのが、注のポイントのひとつである。
小説の中に明示的に書かれていなくても、状況から推理している。
- 第二のしみ
- 外務大臣と総理大臣を別々の人物が務めているということから、1886 年であると推定している(注7)。
ただし、年には他の説もあることも書かれている。
秋であることは、本文中に書かれている。さらに、ほかの事件と重ならず、かつ事件前日の月曜日の晩に
雨が降っていなかったということから、事件が始まったのは 10 月 11 日火曜日であると断定している(注21)。
- ライゲイトの地主
- 1887 年の春であることは本文中に書かれている。4 月 14 日に電報を受け取ったことから
事件が始まったことも本文に書かれている。というわけで、日付にあまり疑問点はない。
- ボヘミアの醜聞
- 本文中には 1888 年 3 月 20 日に事件が始まったと書いてある。ところが、この日が火曜日であるのに対し、
本文のほかの部分から、事件が始まったのは水、木、金のどれかでなければならない(注32)。
さらに、午後 6 時 15 分に薄暗かったということと、March が May のミスプリである可能性もあるということから、
事件が始まったのは 5 月 20 日であると推測している(注51)。そして、その前の木曜日に雨が降ったことから、
事件の始まりは 1987 年 5 月 20 日金曜日であるとしている(注9,32,51)。
この日であれば、事件が 1989 年 7 月以前でなければならないという条件も満たしている(注25)。
「ボヘミアの醜聞」の年月日では、本文にみられる矛盾も訂正しているわけで、ご苦労なことである。
矛盾があることを指摘するだけでは終わらないところがすごい。
本当のところは、本文の年月日のほうが合っていて、注 32 のあたりの曜日等の方が書き間違えということも
あると思うのだが、わざわざ問題を難しくしているところが、推理好きなところである。
3つの事件(ホームズの小説)の方は、奇しくもいずれも名士に関係する文書やら写真やらを探し出すということが
ポイントになっている。
- 第二のしみ
- 外国の君主から英国総理へ送られた親書を取り戻す。ホームズは、その手紙を今持っているのが
ヨーロッパ問題相夫人であることを見抜いて、夫人を説得し手紙を取り戻す。
- ライゲイト事件
- 殺害された者が切れ端を握っていた紙片の残りを探し出す。犯人である地元の名士が隠していた。
ホームズは、紙片の残りは犯人の化粧着のポケットにあるはずだと推測して手に入れる。
- ボヘミアの醜聞
- ボヘミア国王が昔の恋人と撮った写真を取り戻す。
ホームズは、火事騒ぎを起こして隠し場所を見つけるが、国王の昔の恋人が間一髪気づいて取り戻しそこなった。
しかし、同時に状況が変わって取り戻す必要が無くなった。