子どもにとっての絵本をどう考えるかはやはり難しい。芸術性が高くて訳の分からないものを 評価するのも確かに一理あると思うけれども、教育的な絵本もある程度は必要だと思う。 その点は、大人向けの本でも小説もあれば啓蒙書も専門書もあるということと同じだろう。 子どもの教育にはいろいろな側面があって当然である。
「あとがき」によると、この本は、小野明が五味太郎にインタビューしたものを 小野明が整理したものだそうだ。 全体が口語調でまとめられており、小野明の軽妙な間の手がはさまっているのも面白い。
13冊の絵本が取り上げられている。
最初の「うさこちゃんとうみ」の書評では、著者は絵本を俳句と対比している。 そうそう、絵本にはそういう俳句とか俳画の感覚はある。絵本では、文章は短いし、 絵もシンプルでないといけない。そのためには表現を削って研ぎ澄ましていかないといけない。 良い絵本には、そういう味わいのものがある。
本書で唯一2冊取り上げられている作家がいる。アーノルド・ローベルだ。 「ふたりはともだち」と「ふくろうくん」の2冊が取り上げられている(訳はどちらも三木卓)。 しかも2冊の書評で80ページというのも他に比べてだいぶん多い。著者の力の入れようがわかる。 さてこの2冊の絵本、どちらもちょっと変てこりんなところがある。 読み方によっては病的だったり哲学的だったりする。 こういう一癖ある絵本に魅力を感じるのは、著者らしいところだろう。 読み終わっても何か引っかかるところがあってもう一度読んでみたくなる― もう一度読むとますますひっかかる―著者はそういうところに惹かれているのだろう。
ちょっと違和感を感じたのは、「よわむしハリー」の書評。 絵本が弱虫を否定的にとらえていることを批判しているところには共感するけれども、 個性だとか自閉症だとかのとらえかたが最近の私の知識やとらえ方と違う。 30÷5がわからなくてもよいと書くのは、私はちょっと行き過ぎだと思うし、 ある先生が自閉症は「自衛です」と語ったというのは、その先生の言っていることが誤りだと思う。