津波災害 減災社会を築く
河田惠昭著
岩波新書 新赤 1286、岩波書店
刊行:2010/12/17
九大生協で購入
読了:2011/04/上旬(本ページは 2011/04/22 に一回書いて、その後 2011/07/11 になって書き直した)
防災の専門家が、先月のの東北地方太平洋沖地震を予期したかのように昨年末に出版した本。「まえがき」によれば、この本は、2010 年のチリ沖自身津波がきっかけとなって書いたものだそうで、津波の時の住民の避難率が低いことに危機感を感じていたとのこと。その危機感は、不幸にして先月の東北地震津波で当たってしまった。
津波がおそろしいということは、紙の上の知識だけではなかなかわかりづらい。百聞は一見に如かず、私自身、どうおそろしいのかがよくわかったのは、2004 年のスマトラ沖地震の時に多くの映像が出てきてからであり、先月の東北地震津波で再びその猛威をテレビで目の当たりにすることになった。
反面、津波は、適切に逃げれば命は助かる。先月の東北地震津波でも、釜石の小中学校では防災教育が適切に行われていたために大部分の児童が助かったそうである。とはいえ、ハザードマップで予想されていた浸水域よりもさらに津波は奥まで到達しており、訓練だけではない柔軟な対応をしたことが良かったことがわかっている。ハザードマップの適切な使い方についても考えさせられる材料である。
気象庁の津波警報が 2m を超えると出され、3m を超えると大津波警報にしてある理由を本書で初めて知った。2m を超えると犠牲者が出始め、3m を超えると犠牲者が格段に増えるからだそうである(p.119、図3-2)。
本書では、津波のメカニズムから防災上の注意までをコンパクトにまとめてある。私としては、大学1年生向け講義の題材向けに買って読んでみた。内容の簡単なサマリーは以下の通り。
- 第1章:津波のどういう点が怖いかということ(たとえば、津波は「速い流れ」であること、津波が複数の波に分かれてやってくること)。過去の大津波の例。
- 第2章:津波の物理(たとえば、津波と高潮の違い)。過去の津波の起こり方。津波常襲地帯。
- 第3章:津波情報とその活用のしかた、避難の仕方。
- 第4章:首都圏を津波が襲った場合の想定。被害予測。過去の教訓。
- 終章:これからの防災対策へ向けて。
気付いた細かい点
- p.54
- 津波の「総移動距離」の定義が不明。何のことだか分からない。
- p.62
- 水粒子が往復運動をする距離の計算がよくわからない。単純に計算すると、この距離は H−(3/4) (H は水深)に比例するので、水深 200 m で 250 m だとすれば、水深 10 m なら 2400 m くらいになるはず。しかし、答えは 800 m としているところを見ると、これは減衰なども入ったちゃんとした計算の結果ということかもしれない。