知的文章とプレゼンテーション 日本語の場合、英語の場合

黒木登志夫著
中公新書 2109、中央公論新社
刊行:2011/04/25
福岡博多の丸善博多店で購入
読了:2011/04/25
大学1年生向けのプレゼンテーションの授業を受け持っているので、それに役に立つかと思って 買って読んでみた。しかし、実際は、それにはあまりふさわしくなかった。 著者は、大学の学長とか日本学術振興会学術システム研究センターの副所長をやるような人なので、 いろいろな学術計画書の審査経験が豊富な人で、そういうような立場の人が 普通の研究者に対して書類書きやプレゼンテーションのアドバイスをしたものと見るべきである。 内容はそれほど目新しくない感じがするけれども、そういった審査関係の話が読みどころである。
多少問題があるかなと思う記述を以下に挙げておく(本筋とは関係のない些細なことではあるが)。
p.60 に、「a priori は「理論に基づいた」、a posteriori は「経験、観測に基づいた」という意味で、」という説明が与えられている。
a priori のこの説明には少し抵抗がある。「先験的」などと訳されることが多いように、経験によらずに予め与えられているということがポイントで、理論の有無とは別の話。
p.61 では、小泉政治を要素還元主義の典型として挙げてある。
小泉政治は要素還元主義ではなくて、要素に還元して分析するようなこともせず、単にワンフレーズに押し付けているだけ。要素還元主義の説明としては不適切。
pp.78-79 :野口悠紀雄は、Cavendish が「地球の重さを測る」というタイトルの論文を書いたと書いているが、Wikipedia によるとタイトルは「Experiments to determine the density of the Earth」である。
これはその通りのようである。ただし、より詳しくいえば、当該論文は
Henry Cavendish
Experiments to Determine the Density of the Earth. By Henry Cavendish, Esq. F. R. S. and A. S.
Phil. Trans. R. Soc. Lond. January 1, 1798 88:469-526; doi:10.1098/rstl.1798.0022
で、Philosophical Transactions の web page から確認できる。また、 Cavendish Experiment を説明した web page とそこで引用されている Cavendish の伝記 によると、Cavendish が weighing the world という表現を使っていることがわかるのは、 1783 年の Cavendish から Michell への手紙が最初のようである。 その weighing the world という表現はインパクトがあるので、その後いろいろなところで使われている(ネット検索するとたくさん出てくる)。 それで、野口悠紀雄は weighing the world が論文のタイトルだと勘違いしたのであろう。