日本の国境問題 ―尖閣・竹島・北方領土
孫崎享著
ちくま新書 905、筑摩書房
刊行:2011/05/10
九大生協で購入
読了:2011/05/19
日本には、尖閣・竹島・北方領土という3つの領土問題を抱えていて、
よくナショナリズムを煽るのに使われるけれども、もっと冷静に平和的な解決を考えましょうということが書いてある。
「平和的」と書くと、一見空想的左翼に見えるけれども、冷静に考えればそんなことはない。
日本は、ロシア、中国という強大な軍事国家に囲まれているので、勇ましいことを言ったって戦争をすれば負けるに決まっている。
したがって、平和的解決の方法を探ることこそが現実的な道なのである。
韓国の軍事力も決して弱くはない。
今まで、日本は周辺諸国よりも経済力があったから交渉で有利な立場にも立てたけれども、これからはそうではない。
平和的方法もこれからはどんどん状況が悪くなる。
実際、この本を読むと、問題は、日本側に道理のあるものでは必ずしもないことがわかる。
以下、書いてあることをまとめる。
- まず、北方領土に関しては、日本はポツダム宣言受諾とサンフランシスコ平和条約で放棄したと
解釈すべきだから、返還はまず望めない。
日ソ共同宣言で歯舞色丹を返すと言っているのは、当時のフルシチョフの譲歩であった。
それでも日本が北方四島の返還と言っているのは、日本とソ連が仲良くならないように、
アメリカが圧力をかけたせいである。
- 次に、竹島は、歴史的には日韓双方それぞれの言い分があり微妙である。
ただし、現在アメリカは韓国領と認めていることが重要である。
アメリカは単なる第三国ではない。アメリカはポツダム宣言の当事者なので、
アメリカがどのように考えているかがサンフランシスコ平和条約で認められた日本の領土の範囲の
解釈にとって決定的に重要である。
これに関して、2008 年、町村官房長官は決定的なミスを犯した。アメリカが
竹島を韓国領としたことに抗議しなかったのである。
- 尖閣諸島は、歴史的には、日本領となったのは 1872 年以降である。
それ以前は、琉球は日本ではなかったからである。それやこれやいろいろ考えても、
中国側の主張がもっともなところもある。
重要なのは、日中国交回復に当たって、周恩来や鄧小平が尖閣問題を「棚上げ」にしてくれたことである。
これは、中国側が大人の知恵で譲歩してくれたということであり、日本に有利な条件だと言うべきである。
このことはその後も何度も日中間で確認されている。
2010 年、菅直人政権は中国漁船を逮捕した。これは「棚上げ」を無視したものである。
マスコミは船長の釈放を非難したが、それより以前に逮捕したことが問題である。
「棚上げ」が崩れると、喜ぶのはむしろ中国軍部である。武力で実質支配権を
奪取する口実ができるからである。それと、尖閣問題は、アメリカが煽っている部分もある。
これは、北方領土問題と同様、日本と中国が仲良くするのを阻止するための謀略であると見られる。
さらに、重要なのは、これらの領土問題に関して、
アメリカは日米安保条約では守ってくれないと予想されるということだ。
実際、北方領土や竹島は日本の管轄下にないので、日米安保条約の対象にならない。
尖閣は微妙である。今は日本の管轄下にあるので、日米安保条約の対象ではある。
しかし、中国が攻めてきて、素早く自国の管轄下に置いてしまえば、日米安保条約の対象から外れる。
さらに、条約の対象であっても、北大西洋条約とは異なり、
議会の承認がなければ武力攻撃は行わない。
したがって、おそらく米軍は尖閣諸島を守ってはくれない。
そんなわけで、著者は国際司法裁判所に訴えることをひとつの解決法として勧めている。
確かに、私もそれですっぱりあきらめを付けるのが良いような気がする。
領土で意地を張るよりも、実り豊かな友好関係である。