超巨大地震に迫る 日本列島で何が起きているのか

大木聖子・纐纈一起著
NHK 出版新書 352、NHK 出版
刊行:2011/06/10
九大生協で購入
読了:2011/07/03
1年生相手の教養の講義に役に立つかもしれないと思って読んでみた。 あとがきによると、第4章の地震学の多少詳しい話を纐纈氏が書き、残りは大木氏が書いたものである。 大木氏の執筆分のうち地震学の部分は、非常に標準的というか、固体地球物理を学んだ者は たいてい知っている内容で、逆に言えば、学生向け講義には参考になる内容であった。 大木氏に執筆分のうちで、私から見て興味深かったのは、大木氏の現在の本職である 防災の教育活動が書かれている第5章であった。その場に応じた臨機応変の対応が できるようにすることが大切というのはその通りだと思って、そのための取り組みが 非常に興味深かった。小学生相手、あるいは一般人相手にどう伝えるかというのは 難しいところだけれども、いろいろ努力しておられることがわかる。 第4章の纐纈氏の執筆部分は、日本海溝沿いで M9 の地震を想定していなかった理由の解説である。

著者の大木氏のホームページがここにある。ここから地震研アウトリーチのページにリンクが貼られている。

以下、3カ所についての雑然とした感想を述べる。

序章では、大木氏が体験した東北地方太平洋沖地震の揺れのようすが書かれている。 実は、そのとき私も同じ建物(東大地震研究所1号館)にいた。ある研究会に出ていたのであった。 そのときの感想からすると、「身の危険を感じた」というのはちょっと大袈裟だと思う。 この建物は免震だったので、そう大きくは揺れなかった。 もちろん、免震だという割には大きな揺れだなと思ったのは確かだし、ひどく長く続いたので、 大地震であろうということはすぐにわかった。でも、窓の外を見ると、周囲の建物の倒壊は 無いことがわかり、それほど近くで起きたものではないことも想像できた。その研究会は 地震後も引き続いて行われた。そのうち、インターネットを見ていた誰かが宮城県沖が 震源だということを言って、しばらくして起こった余震が茨城県沖だということがわかったので、 震源域が極めて大きいことがわかった。そのうち、USGS が M9 に近いという結果を出したので 超巨大地震だったことが分かった。そして、私は帰宅難民になった。

第4章を読んで、金森博雄先生(カリフォルニア工科大学名誉教授)の偉大さがよくわかった。 金森先生の論文がいろいろ引用されていて、日本の地震学はある意味で 金森先生に振り回されていることになっている。 まず、日本海溝で M9 クラスの地震を想定していなかったのは、比較沈み込み学だとか それに関連したアスペリティの考え方によるのだが、これは金森先生の周辺で始まった。 本書で引用されているのは Lay, Kanamori, and Ruff (1982) Earthquake Prediction Research, 1, 3-71 という論文である [私はこの論文をネット上で見つけられなかった。見つけられたものとしては Lay and Kanamori (1981) in "Earthquake Prediction: an international review" (eds. Simpson and Richards), AGU, pp.579-592 がある]。それ以外にも、比較沈み込み学の嚆矢として知られる Uyeda and Kanamori (1979) J Geophys Res, 84, 1049-1061 やら、比較沈み込み学の観点から地震の大きさを論じた Ruff and Kamanori (1980) Phys Earth Planet Inter, 23, 240-252 などとも相俟って、日本海溝のようなところでは M9 クラスの地震が起こらないだろうという 「常識」が作られた。 ところが、最近では、その当の金森先生が、ここに引用されている Kanamori, Miyazawa, and Mori (2006) Earth Planets Space, 58, 1533-1541 の中で、日本海溝で超巨大地震が起こる可能性にも言及している (最後にちょこっと書いてあるだけだが)。 そんなわけで、日本の地震学は金森先生になかなか追い付けないというわけである。

第5章の防災のところでとくに参考になるのは、以下の2点だと思う。
(1) 避難訓練で大事なのは判断力を養うことである。いつも机の下に隠れられるかどうか わからないし、全校放送など期待できないからである。
(2) 学校の防災訓練で大事なのは、児童の安全を守るだけでなく、避難所の設営運営もあること。 とくに学校に教職員がいない時間の方がいる時間よりも多いことに留意して、地域住民との 連携を図らなければならない。