チョムスキーの言う言語の生得的な機能に関してはずっと議論が続いているらしい。 最近の Nature でも関連記事 [Nature ダイジェスト 2011 年 7 月号 pp.3-4 (doi:10.1038/ndigest.2011.110703)。その元は、Nature 2011-04-13 (doi:10.1038/news.2011.231)] を読んだ。
この本には新書にしては珍しく索引がきちんと付いているのが良い。 途中で専門用語がわからなくなったとき、初出の部分の説明にすぐに戻ることができる。
名称 | Brodmann 領野番号(脳の中の位置) | 役割 |
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Broca 野 | 44,45(左脳の前頭葉の下前頭回腹側部) | 発話 |
Wernicke 野 | 22(左脳の側頭葉上部の側頭平面から上側頭回後部) | 話し言葉の理解、発話時の言葉の選択 |
角回・縁上回 | 39,40(左脳の頭頂葉) | Wernicke 野と Broca 野の中継、文字などの視覚情報を受け取る |
小脳 | 候補となる答えを予想するような「認知的予測」(よくわかっていない) | |
大脳基底核 | 大脳皮質の奥深く | 文法を体で覚えることと関係しているらしい(よくわかっていない) |
視床 | 大脳皮質の機能の協調(よくわかっていない) |
いろいろなタイプの失語症がある。それから脳の機能が少しずつ分かる。
名称 | 損傷のある部位 | 症状 |
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Broca 失語 | Broca 野 | 発話の障害 |
Wernicke 失語 | Wernicke 野 | 話し言葉の理解の障害、発話時の言葉の選択の障害 |
全失語 (global aphasia) | Broca 野と Wernicke 野 | 言葉の理解と発話の障害 |
伝導失語 (conduction aphasia) | 弓状束(Broca 野と Wernicke 野を結びつけるとされる神経線維;直接的には確かめられていない) | 言葉の選択や復唱の障害 |
超皮質性失語 (transcortical aphasia) | 言語野と弓状束が大脳皮質から孤立している | 復唱はできるが、その他は全失語と同じ |
失読失書 | 角回、側頭葉後下部 | 文字の読み書きの障害。角回の障害で仮名の失読失書、側頭葉後下部の障害で感じの失読失書が起こるらしい |
読字障害 (dyslexia) | 不明。すばやく変化する刺激に対する処理が問題らしい | 一つ一つの文字は読めるが、文章が正確に読めない |
脳機能イメージングによる言語研究は、従来、単語単位の研究が多かったが、著者らは文の理解の研究も行った。 それによると、左脳の下前頭回腹側部(Brodmann 45, 47 野)が文レベルの処理を専門で扱っているようだ。
英語はイタリア語に比べて綴り字と発音の関係が複雑である。それに応じて、脳の活動部分も異なっている。 単語を音読するとき、イタリア人は左脳の上側頭回の活動が強かったのに対して、イギリス人では左脳の下側頭回と下前頭回に強い活動が見られる。
著者らは、文法処理が主に Broca 野(Brodmann 44,45 野)で行われていることを突き止めた。
手話の脳科学は始まったばかりである。基本的には音声言語と同様、左脳で処理されているようだが、 少し違いもあるらしい。
母語の母音の特徴の識別は、生後6ヶ月までにできるようになる。さらに、生後12ヶ月経つと、 母語に特化した識別だけが可能になる。16ヶ月から18ヶ月の幼児で、すでに母語の 語順にしたがった理解がなされているという実験結果がある。
左脳と右脳の機能分化の発達過程の研究も行われているが、まだ結論は出ていない。
バイリンガルは、巧みに複数の言語を使いこなす。言語発達の途中段階では、 語彙と文法の混在があるが、まず語彙の混在が減り、次に文法の混在が減るという過程で 二つの言語が分離してゆく。
バイリンガルの人が失語症になると通常は両方の言語に障害を受ける。 しかし、稀に、日ごとあるいは週ごと程度の時間単位で、 失語症となる言語が入れ替わる例が報告されている。