マキャベリ 君主論

武田好 著
NHK 100分de名著 2011 年 10 月、NHK 出版
刊行:2011/10/01(発売:2011/09/23)
福岡天神の積文館書店新天町本店で購入
読了:2011/10/26
マキャベリズムというとあまり良い印象の言葉ではないから、「君主論」もあんまり読む気がしないものである。しかし、このテキストと放送を通してだいぶん印象が変わった。当時のイタリアは小国に分かれて群雄割拠状態であった。ということは、日本でいえば戦国時代を想定して読まなければならないのである。信長、秀吉、家康といった人物を想定しながら読むと、マキャベリの言葉はなるほどと思えてくる。戦国武将たちは、倫理的には「悪い」ことをたくさんしているけれども、時代を考えると一概にダメとはいえない。成功する戦国大名の資質を正直に書くならば、この「君主論」のようなことになるのではあるまいか。ということは、マキャベリは、正直な人だったということなのではないだろうか。

以下、テキストと放送のメモ


テキストのメモ

第1回 自立した人間として生きろ

「君主論」が書かれた背景の説明。

マキャベリが生まれた15世紀後半のイタリアは、多くの小国に分かれていた。そのうちで大きかったのは「教皇領」「ミラノ公国」「ナポリ王国」「ヴェネツィア共和国」「フィレンツェ共和国」の5つであった。

マキャベリはフィレンツェに生まれた。マキャベリの幼少期から青年期までは、フィレンツェはメディチ家が支配していた。ところが、フランス軍のナポリ攻略の影響で、メディチ家の支配が崩れ、修道士ジローラモ・サヴォラーナがリーダーとなる。しかし、サヴォラーナは、教皇を批判したために糾弾され、1498 年火刑に処された。その後は貴族出身のピエロ・ソデリーニが実権を握る。マキャベリは、このソデリーニ政権で外交官を務めた。小国が分立するイタリアでは、外交は重要で、マキャベリはきわめて有能だったようだ。1511 年、フランスのヴェネツィア侵攻をきっかけに動乱が起き、1512 年にはフィレンツェはスペインに攻め込まれてメディチ家が復権する。同時に、マキャベリは失職する。この失業中のマキャベリが、再就職運動のために書いたのが「君主論」であった。

第2回 リーダーの条件とは

マキャベリの「君主論」は、政治と倫理とを分離した点が画期的であった。人間には善悪両面があることを直視して、それに現実的に対応するべきだとした。

理想の君主のモデルとして出てくるのが、チェーザレ・ボルジアである。チェーザレは、教皇アレクサンデル6世の子で、教皇軍総指令官であった。彼は、冷酷な謀略を用いてロマーニャ地方を平定した。冷酷な方が、社会の秩序を保つことができるということで、マキャベリはチェーザレを評価した。

もっとも、マキャベリはチェーザレを全面的に評価していたわけでもなさそうだ。というのは、アレクサンデル6世が死んで、ユリウス2世が後継になると、策略によって失脚してしまうからだ。ただし、このことは「君主論」には書かれていない。

「君主論」の根底には、祖国を平和に維持してゆく、ということがある。

国を維持するためには、信義に反したり、慈悲にそむいたり、人間味を失ったり、宗教に背く行為もたびたびやらねばならないことを、あなたには知っておいてほしい。したがって運命の風向きと、事態の変化の命じるがままに、変幻自在の心がまえをもつ必要がある。そして前述のとおり、なるべくならばよいことから離れずに、必要にせまられれば、悪に踏み込んでいくことも心得ておかなければいけない。

第3回 人間関係の極意

部下の使い方

イエスマンではない賢い少数の側近を持つべきだ。側近は手厚く処遇することで下克上を起こさないようにする。側近には、問いかけたこと以外のことに関しては助言をさせない。判断は、君主が行って、ブレないようにする。

中立を守ってはならない

争いがあるときは、旗幟を鮮明にしないといけない。どっちつかずの態度は、双方から信頼されない。

傭兵

当時一般的だった傭兵は、いざというときに頼りにならないから自国軍をもつべき。

運命と力量

運命は抗いがたいが、半分くらいは人間の力で何とかなる。時代の流れにあわせて果断に進むべし。
「君主論」は、不運にも失職してしまったマキャベリが自分を鼓舞するために書いたものだとも見ることができる。

第4回 賢い交渉のツボ

「君主論」は、「マキャベリ自身のための政治実践の書」であるといえる。最近、「使節報告書」や「書簡集」の研究が進んで、マキャベリの人物像もだんだんわかってきた。

放送のメモ

第1回 自立した人間として生きろ

君主論は、政治と宗教を切り離して政治を論じたという意味で、近代政治学の祖と言われている。 君主になるための実践と思想が書かれている。

書かれている内容

これ以前の君主論は、倫理的だった。例: わけへだてのない領民への正義、慈愛こそが大切(ペトラルカ)。 これに対し、マキャベリは現実主義者で、現実的な君主論を書いた。

マキャベリが生まれた頃、フィレンツェを支配していたのはロレンツォ・デ・メディチであった。彼の統治下で、ルネサンス文化が花開いていた。しかし、彼の死後、動乱の時代に入る。マキャベリは15年間外交官を務めた。その経験を生かして「君主論」が書かれた。

マキャベリは有能な外交官だった。彼は歴史に学ぶことを重要視した。

君主は歴史書に親しみ読書をとおして英傑のしとげた行いを考察することが肝心である。

マキャベリは、44 歳の時に失脚して、山荘暮らしを余儀なくされる。このとき、自分のボスのソデリーニの優柔不断をみてしまう。

全面的に運命に依存してしう君主は運命が変われば滅びるということ。また時勢とともに自分のやり方を一致させた人は成功し、逆に時代と自分の行き方がかみ合わない者は不幸になるということ。
人は慎重であるよりはむしろ果断に進む方がよい。

「君主論」は就職のための論文だった。自分がいかに政治の世界で役に立つかをアピールするために書いたもの。

第2回 リーダーの条件とは

マキャベリが生きていた時代のリーダーたち

(1) ロレンツォ・デ・メディチ
ルネサンス期の名君。芸術家を支援して、人心を掌握。
(2) 修道士サヴォナローラ
預言者を名乗った指導者。しかし、やがて人心が離れる。
(3) ピエロ・ソデリーニ
マキャベリの上司。法を守る公正な人物。
(4) チェーザレ・ボルジア
マキャベリから見た理想の君主。勇猛果敢。冷酷な策略家。自分の部下を切り捨て、民衆の不満を取り除いた。しかし、やがて運命に見放された。

君主に必要な資質

すべては、祖国が平和を保つために必要なこと

[1] 冷酷さ

冷酷さと憐れみぶかさ、恐れられるのと愛されるのと、さてどちらがよいか。

あまりに憐れみぶかくて混乱を招き、やがては殺戮や略奪をほしいままにする君主に比べれば、冷酷な君主の方は、ごくたまの見せしめの残酷さを示すだけで、ずっと憐れみぶかい人物になるからだ。

[2] 恐れられること
恐れられることはコントロールできる。愛されるのは勝手。人々の愛情などは変わりやすいものだ。

[3] ケチ
君主はケチであるべき。節約によって、国民に無駄な負担をかけない。

[4] 悪に踏み込む勇気
君主は良い人であるように見せることが大切。民衆は遠くからしか見ていないから、外見や結果しか見ていない。
君主は、時流を見て変幻自在であれ。場合によっては、悪に踏み込まなければならない。
マキャベリは、次代の若者のために、「君主論」に次いで「政略論」を書いた。「政略論」では、古代ローマ史をもとに国家経営を説いた。書いていることは、「君主論」にも重なる。国家にとって重大な決断をするに当たっては、倫理を考える必要はないといったことが書いてある。

[5] ライオンの力とキツネの知恵
君主に必要なのは、ライオンの力とキツネの知恵

第3回 人間関係の極意

マキャベリに人心掌握術を学ぶ。戦乱の世に領民の心をいかにつかむか?

◎部下を使う

身にあまる栄誉を与えてもうそれ以上の名誉を望まないようにすること。
そのようにして、部下が現状の変化を望まないようにする。
側近が有能であれば、君主がすぐれていると見てよい。

◎中立の立場を選んではいけない
勝った場合でも負けた場合でも絆が深まる。
中立だと両方から敵と見られる。
はっきりした態度を示すことが人々の尊敬を集める。

◎君主は軽蔑されてはいけない

軽蔑される原因
気が変わりやすい
軽薄
臆病
決断力がない
つまり、態度をはっきりさせないと軽蔑される

◎人心掌握術
征服した土地では、住民たちの法律や税制に手を付けない(相手の文化やルールを尊重する)
君主は恩恵を与える役をして、憎まれ役は他人に請け負わせる(人の恨みや憎しみを受けることを避ける)
加害行為は一気にやる、恩恵は人に味わってもらうように小出しにする(賞罰をタイミング良く与える)
祭りや催しものの開催
褒賞の用意
各部署と交流を図る

◎注意すべきこと
へつらう者を遠ざける
賢人を選んで相談相手にする
君主が自分で決断しなければならない

第4回 賢い交渉のツボ

ゲストに元外交官の東郷和彦を迎えて

[東郷] 君主論には、力を感じる。
[東郷] 君主論では、チャンスだと思ったら即時に行動せよと言っている。これは気に入った。
[マキャベリ] フランスとの交渉が初仕事だった。ピサをめぐる敗戦処理をした。なかなか本国からの返事が来ない中で難しい交渉をした。
[東郷] 外交においては、交渉の前半は相手国との交渉、後半は自国との交渉。
[武田] マキャベリは、ときにはスパイを使って情報を得ていた。
[マキャベリ、東郷] 情報交換には、人間としての信頼関係が重要
[東郷] 祖父東郷茂徳は、「51対49の精神」と言っていた。相手に 51 を譲り、こちらが 49 を取るという気持ちが必要。
[マキャベリ] 運命について:半分は運命だとしても、自由意志で変えられる部分が半分ある。
[東郷] 時の流れではない部分がある。人間の自由がある。責任がある。
[マキャベリ] 新君主に、新しい国づくりの役に立ちたいとアピールしている。
[東郷] 君主論には、力強さを感じるだけでなく、マキャベリの人間性を感じる。