「科学的思考」のレッスン 学校で教えてくれないサイエンス

戸田山和久 著、斎藤哲也 第一次草稿作成
NHK 出版新書 365、NHK 出版
刊行:2011/11/10
著者から頂戴した
読了:2011/12/15
科学技術の発達した現代に生きるには科学リテラシーが必要で、それはメタ科学であるというのが 著者の考えである。その考え方に基づき、科学哲学や科学技術社会論の重要な考え方が解説されている。 著者らしく非常に分かりやすい。基本的な考え方にも賛同できる。

ただし、科学哲学の部分(第I部)は、著者の専門だけに非常に良くまとまっているのに対し、 科学技術社会論の部分(第II部)は、少し雑然とした印象を受ける。

各章にはまとめが書かれているので、それを見てゆくと何が書かれているのかが復習できる。 そこのところをおおざっぱに抜粋してみて復習とする。

第1章 「理論」と「事実」はどう違うの?
理論と事実、仮説と真理といった二分法は誤りであり、有害である。
第2章 「よりよい仮説/理論」って何だろう?
よりよい仮説/理論の基準は (1) より多くの新しい予言をする (2) ad hoc な要素をなるべく含まない (3) より多くの事柄を同じやり方で説明する、の3つである。
第3章 「説明する」ってどういうこと?
説明には3種類ある。 (1) 原因突き止め型(因果的説明) (2) 一般的理論からの演繹 (3) 正体突き止め型。
第4章 理論や仮説はどのようにして立てられるの?どのようにして確かめられるの?
推論には、演繹的推論と非演繹的推論がある。演繹的推論は正しいが情報は増えない。非演繹的推論は間違っているかもしれないが情報が増える。非演繹的推論には、帰納法、投射、類比 (analogy)、abduction がある。この両者を組み合わせた「仮説演繹法」は、科学の重要な方法論の一つである。
第5章 仮説を検証するためには、どういう実験・観察をしたらいいの?
仮説の検証のためには、反証条件をはっきりさせることが重要。反証を受け付けないのは非科学的。
第6章 なぜ実験はコントロールされていなければいけないの?
対照群を置いたコントロールされた実験をすることが重要。2つの量の相関は重要だが、相関は必ずしも直接的な因果関係を意味しない。
第7章 科学者でない私がなぜ科学リテラシーを学ばなければならないの?
科学技術だけでは解決できない問題が3つある。(1) 科学技術自体が希少資源なので、誰がその恩恵に浴するべきか?(たとえば、次の世代に残すべき価値は何か?) (2) トランスサイエンスの問題(政治や社会に関係した問題で、不確実性や価値判断などと関わる) (3) 科学技術自体の問題(新技術が倫理の空白地帯に入ることや、技術がいつも不完全であることに関わる)。こういった問題は、市民が考えていかなければならない。
第8章 「市民の科学リテラシー」って具体的にはどういうこと?
福島原発事故による放射能問題を例にして、科学リテラシーを考える。
終章 「市民」って誰のこと?
脱パターナリズム

京大の科学哲学の伊勢田氏による専門的なツッコミ(とくに科学史的な事実関係に関して)がある。
ちなみに、編集に関わった斎藤哲也氏の web pagetwitter