ドラッカー マネジメント

上田惇生著
NHK 100分de名著 2011 年 6 月、NHK 出版
刊行:2011/06/01(発売:2011/05/25)
東京品川のブックエキスプレスエキュート品川サウス店で購入
読了:2011/06/22
最近流行のドラッカーの紹介。 私は、本屋の経営コーナーは今までだいたい素通りしていたので、ドラッカーもまるで知らなかった。 この番組で初めて知った次第。ドラッカーが、経営のハウツーを書いているのではなくて、 理想の社会を目指してマネジメントを考えているということがわかった。

やや疑問なこともある。ドラッカーの理想が高くてそれがすばらしいと言うことはよく分かったものの、 一般向け解説のせいか、ドラッカーの著作がどの程度学問的なものか(事実に基づいているのか)が よくわからなかった。さらに、この本を読む限りにおいては、論理性がどの程度あるのかもよくわからなかった。 実際、この解説書ではあまり論理のつながりがわからない部分も多い。 そういったことによって「マネジメント」が本当の名著かどうかが決まると思うのだが。

放送で気になったのは、紹介者である著者が、あまりにもドラッカー信者でありすぎるということだ。 何事もドラッカーの言ったことにしたがって考えるというのは、翻訳者としては素晴らしいと思うのだが、 こういう番組の紹介者としてはもう少し醒めたところも必要な気がした。とはいえ、 一方で、ドラッカーが人間的にも魅力的な人だったのだろうということは良く分かった。

以下、本のサマリーと放送時のメモ


以下、本のサマリー

[第1回 感動のDNA]

初期の著作―政治三部作

「「経済人」の終わり―全体主義はなぜ生まれたか」
資本主義も社会主義のどちらも人間を幸せにしない。それは、どちらも経済を中心とした経済至上主義だからだ。 しかし、かといって「脱経済至上主義」に向かった国家社会主義も人間を幸せにしなかった。
「産業人の未来―改革の原理としての保守主義」
現代社会において、人はほとんどの場合組織の中で働かなければならない。組織の運営、すなわちマネジメントが、 社会を良くするのに重要である。
「企業とは何か」
GM の現地調査に基づいて組織のあり方を研究。
このように、ドラッカーにとってマネジメントとは、人を幸せにして社会を良くするためのものであった。

[第2回 何のための企業か]

マネジメントの役割
1. 自らの組織に特有の使命を果たす:誠実に本業を行う。仕事に喜びを感じてワクワクドキドキする事業を行う。
2. 仕事を通じて働く人たちを生かす:責任ある仕事を与える。安心して仕事ができるようにする。従業員の学習を促す。
3. 社会の問題について貢献する:会社は社会のためにある。
企業を評価するための物差し
1. マーケティング:顧客が求めているものを追求することで、自然に市場におけるシェアが上がる。
2. イノベーション:世の中の変化とともに企業も変わる。
3. 経営資源:人、モノ、金
4. 生産性:肉体労働の場合は、作業を単位動作に分けて組み直す。サービス労働の場合は、一生懸命やるところにアウトソーシング。 知的労働の場合は、やらなくてよいことをやらせない。
5. 社会的責任:世の中に害を与えない。
利益は目標ではない。利益は企業が存続していくための条件にすぎない。
プロフェッショナルとしての倫理:知りながら害をなすな。

[第3回 誰もがマネージャーになれる]

マネージャーとは、オーケストラにおける指揮者のようなものである。
マネージャーに必要とされるのは真摯さ (integrity) である。
マネジメントに必要なスキル
1. 意思決定:異なる意見の対話の中からの選択
2. コミュニケーション:受け手が理解できるように語る
3. 管理:成果を測定し、問題点を修正する
4. 経営科学:科学的データに基づく経営
成果を上げる方法
1. 時間管理
2. 貢献:仕事と社会とのかかわりを意識する
3. 強み:得意なことを伸ばす
4. 集中
5. 意思決定
何をもって憶えられたいかを考えよう。

[第4回 日本よ!]

ドラッカーの時代認識
現代 (1970 年頃から 2030 年頃まで) は、時代の転換期。これを「ポスト資本主義社会」と呼ぶ。 これを過ぎると「知識社会」がやってくる。知識社会とは、知識労働者が中心となる社会である。 IT 革命などがその変化の原動力になっている。
ポストモダンを生きるための作法
1. 全体を見ること
2. 分かったものを使う:すでに起こったことをしっかり観察すれば、おのずと次に起こることが見える
3. 基本と原則を使う:補助としての基本と原則
4. 欠けたものを探す:ギャップを探してニーズを見つける
5. 自らを陳腐化させる:常に変化を先導する
6. 仕掛けを作る:目標達成のためのアクションプランを作る
7. モダンの手法を使う:論理と分析も重要
日本はすでにポストモダン
日本社会は、すでに感覚を大事にして、人を大事にしている

以下、放送時メモ

[第1回 感動のDNA]

前書きに志の高さが出ている。
構成:使命、方法、戦略の3部から成る。
目的から始まっているのが特徴。
「組織をして高度の成果をあげさせることが、自由と尊厳を守る唯一の方策である。」
組織の一人一人がマネージャー
ちゃんとマネジメントをしないと全体主義に陥る
処女作「経済人の終わり」
経済至上主義でもなく、全体主義でもなく
一人一人の強みを生かす
長所を伸ばして生き生きと仕事を
企業の目的は顧客の創造である
「企業の目的は、それぞれの企業の外にある。企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。 企業の目的の定義は一つしかない。それは、顧客を創造することである。」
非顧客は大きな変化をもたらしうる。社会全体に目を向けよう。

[第2回 何のための企業か]

ドキドキワクワクする仕事だけをせよ
仕事でドキドキしていないのは、顧客に対して失礼
社会的責任
環境汚染などが起こらないようにする
「企業の内部にあっては、自らがあたかも真空に独立して存在するものと考えてしまう。 しかし、社会や経済は、いかなる企業をも一夜にして消滅させる力を持つ。 企業は、社会や経済の許しがあって存在しているのであり、社会と経済が、その企業が有用かつ生産的な仕事をしていると見なす限りにおいて、その存続を許されているにすぎない。」
プロフェッショナルの倫理
知りながら害をなしてはならない
マーケティング
市場において目指すべき地位は最大ではなく最適である
イノベーション
社会に役に立つものを生み出す
生産性の目標
仕事の種類によって生産性の高め方が違う
サービス労働の生産性向上の秘訣はアウトソーシング
知的労働者の場合は、必要のないことをやらせない
バランス
利益とのバランス:利益はありすぎても無くてもいけない
近い将来と遠い将来とのバランス
他の目標とのバランス:目標に優先順位を付けてみる

[第3回 誰もがマネージャーになれる]

誰かと何かをやろうとすると、誰でも必ずマネジメントの問題に直面する。
良いマネージャーとは:
人的資源のあらゆる強みを発揮させる。
近い将来と遠い将来の目標を調和させる。
マネジャーの良くある6つの職務設計の間違い
1. 職務が狭く成長できない:マネジャー自身の裁量の範囲を狭めてはいけない。 マニュアルで縛りをかけすぎてはいけない。
2. 責任がない補佐役は有害である:補佐役は勝手なことばかり言うだけ。
3. 自らも現場で仕事をしないと堕落する
4. 会議や出張が多すぎる
5. 仕事の不足をポストで補う:名前だけで形骸化するポストはいけない。
6. 歴代の担当者が倒れる:仕事がきつすぎて倒れてしまう
マネジャーは、自らの責任で自分の仕事を主体的に設計して成果を提案する。
マネジャーが成果を挙げるための5つの条件:集中することが重要
1. 何に自分の時間が取られているかを知る:時間は貴重な資源なので、きちんと記録して管理する
2. 外の世界に対する貢献に焦点を合わせる:仕事は世の中のため。何のためにやるのかを問う
3. 強みを基盤にする:得意なやり方でやる
4. 優れた仕事が際立った成果を挙げる領域に力を集中する
5. 成果を挙げるよう意思決定を行う:いろいろな意見を聞いて決定する
自分の強みを知る方法
1. どういう結果を出したいかメモしておいて、9ヵ月後に比較する。 思ったよりも良い成果が上がったものが強み。
2. 身近な人に自分の強みは何かを聞いてみる。

[第4回 日本よ!]

もしドラの作者岩崎夏海さんと考える。

日本の行き詰まりについて
1960 年代のシステムが行き詰まっている。新たなシステムの開発(イノベーション)が必要。
イノベーション
イノベーションの戦略の一歩は、死につつあるもの、陳腐化したものを捨てること。 捨ててこそ新しいものを生み出すことができる。
あらゆるものが陳腐化する。
変化ではなく沈滞に対して抵抗する組織を作ることこそ、マネジメントの最大の課題である。 これからの時代はイノベーションの時代だからである。
リーダーに必要な資質とは
根本的な資質は、真摯さ (integrity) である。
誰が正しいかを考え何が正しいのかを考えないのかは、真摯ではない。
失敗をしない人を信用してはいけない。失敗をしない人は何もしない人である。
カリスマ的なリーダーは危険である。普通の人が文明を築いてゆく。
真摯さとは信念を貫くこと。
ドラッカー自身が真摯な人であった。