電子書籍の時代は本当に来るのか
歌田明弘著
ちくま新書 871、筑摩書房
刊行:2010/10/10
東京駒場の古本屋河野書店で購入
読了:2011/09/19
電子書籍元年と言われた 2010 年、その動向を展望するという本。
著者は、キンドルの成功のようなことが日本で起こることには懐疑的である。
だいたい1年経った今見てもそういう状況のようだ。実際、シャープのガラパゴスは、
10.8 型、5.5 型の生産を止め、今年9月自社販売を止めた。iPad を始めとする
汎用タブレット端末に押されたとのこと。
著者が普及に懐疑的な理由の分析の一つは、なるほどと思った。アメリカで成功したキンドルは、
本をたくさん読む人のための端末である。日本ではこのような売り方をしていない。
読書家には、目が疲れない電子ペーパーが良い。ソニーはそのような端末を売ってはいるが、
電子書籍書店の品揃えが読書家向きではない。私も本を読む方だと思うが、
売れ筋の本はそんなに読まないので、売れ筋中心の品揃えでは買う気が起こらない。
欲しいのは、絶版になった専門書などで、そういうのが電子化されると買う気が起こるかもしれない。
そこで、電子書籍のニーズはいくつかの種類があると見るべきで、ターゲットを絞らないと
売れないということだろう。
- (1) 読書家、専門家:端末は電子ペーパー方式、品揃えは絶版になった専門書など
あまり売れない本も含まなければならない。本の延長として使う。
- (2) コミックス:現在の日本ではこれが主。携帯電話やスマートフォンなど小型の端末で
手軽に読めることが重要だろう。
- (3) 新聞、雑誌:読んだら捨てるようなものだから、電子書籍として持っておきたいという
ニーズがあるだろう。カラーや動画などで電子書籍らしさを出すこともできる。
端末は、カラーや動画が再生できないといけないから、汎用タブレット型が主になるのでは
ないだろうか。
現状では、(3) が有望という感じがする。たとえば、朝日新聞では、本書でも紹介されている
「ウェブ新書」を発売し、その後「朝日新聞デジタル」が始まった。
新聞雑誌のような次々に消費される情報は、オンラインになってゆくのが自然だと思う。
本書では、グーグルの話も柱の一つである。グーグルの理想は高く、利用者としては
歓迎なのだが、当然ながらいろいろな障害もあるようで、日本でこれからどうなるかは
何とも言えないようだ。