フランクル 夜と霧

諸富祥彦 著
NHK 100分de名著 2012 年 8 月、NHK 出版
刊行:2012/08/01(発売:2012/07/25)
福岡姪浜の金文堂書店姪浜南店で購入
読了:2012/09/06
「夜と霧」は、ユダヤ人強制収容所で辛酸を甞めた心理学者による思索の書である。 大震災の後、「夜と霧」が売れているのだそうだ。極限状況で生きるということが、人々の共感を得ているのだろう。

驚いたことには、テキストには、著者(諸富氏)が若いころ、三日三晩飲まず食わず寝ずで人生の本当の意味と目的を求めようと考えた経験が語られている。 そのような経験をして初めて、フランクルの考えが初めてよく分かったのだそうだ。つまり、これはある種の悟りのようなものだということだろう。

ところで、amazon を検索して驚いたのは、この著者(諸富氏)は実にたくさん本を書いている。いったいどうやって書いているのだろうか?


テキストのメモ

第1回 絶望の中で見つけた希望

「夜と霧」の原題は、「強制収容所におけるある心理学者の体験」で、ウィーンの精神科医であったヴィクトール・エミール・フランクルの 強制収容所体験を綴ったものである。フランクルは 1942 年 9 月に収容所に送られる。まず、テレージエンシュタットで2年を過ごし、 アウシュヴィッツに3泊した後ダッハウに移され半年を過ごし、最後にテュルクハイム病人収容所に移って1月して解放される。 一緒に収容所に入れられた家族である両親、妻、兄は皆収容所で亡くなった。妹は亡命して難を逃れた。 「夜と霧」は、アウシュヴィッツ到着から終戦による解放までの半年間を描いている。

収容所で気付いたこととして以下のようなことが書かれている。

第2回 どんな人生にも意味がある

フランクルの思想の根幹は、以下のようなことである。自分が生きる意味とか自分の幸福とかを追求すると、それは永遠に得られないから不幸になる。 他者や世界が自分に求めていることに応えようとひたむきに生きることが大事で、そうすれば自ずから幸福がやってくる。

以下、「夜と霧」からの引用。

ここで必要なのは生命の意味についての問いの観点変更なのである。すなわち人生から何をわれわれはまだ期待できるかが問題なのではなくて、 むしろ人生が何をわれわれから期待しているかが問題なのである。そのことをわれわれは学ばねばならず、また絶望している人間に教えなければならないのである。 哲学的に誇張して言えば、ここではコペルニクス的転回が問題なのであると云えよう。すなわちわれわれが人生の意味を問うのではなくて、われわれ自身が 問われた者として体験されるのである。
各個人がもっている、他人によってとりかえられ得ないという性質、かけがえないということは、――意識されれば――人間が彼の生活や 生き続けることにおいて担っている責任の大きさを明らかにするものなのである。待っている仕事、あるいは待っている愛する人間、 に対してもっている責任を意識した人間は、彼の生命を放棄することが決してできないのである。

第3回 運命と向き合って生きる

人生の意味を見つけてゆく手がかりとして3つの価値がある。
  1. 創造価値:創造活動や仕事を通して実現される価値
  2. 体験価値:何かや誰かとの出会いによってもたらされる価値
  3. 態度価値:自分では変えることのできない状況下で、どのような態度を取るかによって実現される価値。 強制収容所のような劣悪な状況でも、仲間を励ましたり助けたりする人がいた。
    強制収容所の人間からは一切が奪われていたが、与えられた状況の下で取りうる態度という最後の自由は奪われえなかった。

フランクルのインタビューにおける言葉:

私は、他の人々が人生の意味を見出すのを助けることに、自分の人生の意味を見出してきました。

第4回 苦悩の先にこそ光がある

人間は、苦悩する存在である。意味のある苦悩は、何かのため、誰かのための苦悩だ。

放送のメモ

第1回 2012/08/01

どんな絶望的な状況の中でも必ず希望を見出すことができる。

本の基本情報
1946 年 ウィーンで出版
20 以上の言語で翻訳される。アメリカではベストセラー。
フランクルの置かれた状況
1942 年、強制収容所に入れられた。その後 2 年半、収容所を転々とした。仲間たちは殺され、あらゆる財産は没収され、過酷な労働が課された。
収容所でフランクルが観察したもの

第2回 2012/08/08

生きる意味の答えがフランクルの言葉の中にある。

フランクルは、生きる意味を見出すことが大切だと考えていた。収容所で、フランクルは死にたいと告げにきた2人の人に対してある言葉をかけた。

それでも、「人生」はあなた方からあるものを期待しています。あなたたちを「待っている」何かがあるはずです。 それが何かを考えてください。
一人の人は「愛してやまない子供が外国で待っている」と答えた。もう一人の人は「科学の研究書をまだ書き終えていない」と答えた。 このようにして2人は自殺を思いとどまった。

フランクルは、人間は人生から問われている存在だ、とした。ふつう、人は人生を問う。そうではなくて、人生が人間を問うているのだ。 人生に何かを求めていると、欲求不満が常に生じる。誰かのために、世界のためにできることは何か、と問うべきだ。 あなたの内側を見つめるのは止めよう。どんな人生にも「使命」がある。欲望中心の生き方では、欲望は満たされない。 フランクルは死刑囚に対しても、今からでも人生に意味を見つけることはできる、と言った。

第3回 2012/08/15

運命と向き合って生きるときの価値を3つに分類している。
創造価値
フランクルは、アウシュヴィッツ強制収容所では、書きかけの論文原稿を没収処分された。それでも、フランクルは絶望せず、紙の切れ端と鉛筆で原稿の復元を試みた。 収容所でフランクルを支えたのは、この原稿の存在だった。フランクルは、人が何かの作品を作ったり、自分の仕事を通じて生まれる価値を「創造価値」と言った。 創造価値は、仕事の大小には関係が無い。人は、仕事を通じて他人の喜びを作ってゆく。
体験価値
収容所で、労働で疲れ果てていたとき、見事な夕焼けを見た。一人の囚人がつぶやいた「世界はどうしてこんなに美しいんだ」。 そのとき、つらい生活を一瞬でも忘れることができた。フランクルは「あなたが経験したことは、この世のどんな力も奪えない」と書いている。 体験することによる感動がある。心が打ち震える体験がある。
早朝、極寒の中で作業場に言った。そのとき隣の男がつぶやいた「女房がわれわれの状態を少しも知らないと良いんだが」。 フランクルは書いている「私の目の前には妻の面影が立ったのであった。私は彼女の励まし、勇気づけるまなざしを見る。彼女のまなざしが私を照らすのだった」。
フランクルは、妻を失った男にこう言っていた。あなたが今つらい体験をしている。でも、奥様はそのようなつらい体験をせずに済んだ。 あなたはそのために生きている。
態度価値
収容所で、フランクルは医師の仕事を任されていた。チフスにかかった死にかかっている女性がいた。 彼女は快活に言った「あそこにある木は、一人ぼっちの私のただ一つのお友達。木は、こう申しました。私はここにいる、と。私は永遠の命だ、と」。
人間は、どんなときもある態度を取ることができる。人生があと数時間しかないとしても、その態度で人生を意味のあるものにできる。

諸富「すぐに変わることが無くても、いつかフランクルの言葉が生きてくるときがあるはずだ。フッと答えが湧きあがってくることがあるだろう。」

第4回 2012/08/22

「苦しみ」の意味とは?

ゲスト:姜尚中(かんさんじゅん)

姜「悩むことは、ネガティブなことではない。」

苦しみや死に意味があるのか?フランクルは、苦しみや死に向き合うことが意味があると考えた。

苦悩とそして死があってこそ人間という存在ははじめて完全なものになるのだ。

姜「苦悩は人間の本性だ。苦悩は、人間性の最高の価値だ。」
諸富「苦悩のための苦悩は意味がない。何かのため、誰かのために悩むことが大事。」
姜「真面目に答えること。他者との対応の中ではじめて苦悩に対する回答もでてくる。」
諸富「自分探しは、本来の苦悩とは違う。」
姜「他の人と苦しみの量を比べたりすると、ルサンチマンになる。 なぜ私だけが苦しいのか?などと考えずに、苦悩の中に人間の尊厳があると考えて、真面目に苦しむこと。」

苦しみの中身は人によって違う。ここに意味があるのだとフランクルは考える。

誰もその人の身代わりになって苦しみをとことん苦しむことはできない。 この運命を引き当てたその人自身がこの苦しみを引き受けることに、ふたつとないなにかをなしとげるたった一度の可能性はあるのだ。
運命は天の賜物だとフランクルは考えていた。

姜「運命は神様から贈られたもの。運命はその人だけにしか与えられていない。」
諸富「現代人は、失敗か成功かだけの軸で考える。これでは厚みが足りない。意味と絶望という軸で厚みを取り戻すことが重要。」
姜「意味を問うことが市場経済では失われる。」

現代には豊かさゆえの苦悩もある。フランクルの講演より:

意味の喪失感は今日増えてきている。とりわけ若者の間に。しばしば空虚感を伴っている。 昔のように伝統的価値は何をすべきかを教えてくれない。今や人々は基本的に何をしたいのかわからなくなってきている。

姜「われわれは自由になった。どう行動するかは自分で決められる。しかし、自分を見つめるほど矛盾の中に入り込む。」
諸富「フランクルは、今の時代にはストレス、プレッシャー、緊張感が足りないと言っている。すると、ちょっとしたストレスで折れてしまう。」
姜「今の我々は、欲望を極大化させている。見たいものだけを見るということが閉塞感を作り出している。」

フランクルは、人生を砂時計にたとえた。未来は現在を通過して過去になる。苦悩から逃げないで生きたとき、過去は財産になる。 体験したすべてのこと、愛したすべてのこと、成し遂げたすべてのこと、味わったすべての苦しみ、これらは忘れ去ることができない。 過去は、すべてのことを永遠にしまってくれる金庫のようなもの。

諸富「フランクルは、生き抜かれた時間は永遠に刻み込まれる、と言っている。」
諸富「フランクルが言っている大事な言葉を復習しよう。 (1) 人間は人生から問いかけられている。(2) どんなに人生に絶望しようとも人生があなたに絶望することは決してない。」
姜「ユダヤ人が、それでも人生にイエスと言う、と考えたことに意味がある。」

強制収容所で歌われた歌の歌詞の一節:

それでも人生にイエスと言う
trotzdem ja zum Leben sagen