ダイヤモンドは超音速で地底を移動する
入舩徹男 著
メディアファクトリー新書 061、メディアファクトリー [電子書籍]
刊行:2012/11/30(電子書籍版 Ver.1.0.0)
電子書籍書店 BOOK☆WALKER で購入
読了:2014/04/03
地球内部物質の超高圧実験で世界的に知られた入舩氏の著書である。地球内部研究の素人向けの紹介(第1,3,4章)と同時に、
第2章では最近ちょっとした流行になっている超深部ダイヤモンドの話、第5章では著者らが作った「ヒメダイヤ」の話が書かれている。
ヒメダイヤは微細な結晶が集合した多結晶ダイヤモンドで、きわめて硬い。地球内部研究者である私としては、第2章、第5章が読みどころである。
著者の研究として重要なことは、とくに第3章と第5章にある。
第3章には、著者と Ringwood の研究で有名な「メガリス」の概念が説明されている。
第5章のヒメダイヤは、著者が 15-25 GPa、2300℃以上の高温高圧下で合成した多結晶ダイヤモンドである。
多結晶体であるために劈開面のようなものが無くて、割れにくくて硬い。さらに、単結晶ダイヤモンドよりも熱伝導度が低い。
これらの性質は、超高圧アンビルの材料として好ましい。
以下は、私のメモである。私がこれまで良く知らなかったことや、関連文献を調べたものをメモしておく。
第2章、第5章のダイヤモンド関係が主体。第1,3,4章は知っていることが多いのであまりメモしない。
- 地下掘削の歴史 (第1章 pp.20-26)
- 1960 年代 「モホール」計画。アメリカの計画で、海洋地殻を貫通しようとした。しかし、183 m までしか掘れなかった。
- 1985 年以降の ODP, IODP などの海底掘削。現在では地下 2km まで掘られている。
- 1970 -- 1992 年 「コラ半島超深度掘削」(旧ソ連)。陸の近くを掘る。地下 12 km まで掘られた。
- キンバーライトの噴出条件 (第2章 pp.50-53)
- キンバーライトの多くは、クラトンで噴出している。超大陸ができたときに、超大陸の下が暖まって融けたのであろう、
- ダイヤモンドの噴出速度 (第2章 pp.54-56)
- マントル深部での移動速度は、約 60 km/h [Nishi et al. (2010) GRL, 37(9), doi:10.1029/2010GL042706]。
- kimberlite の噴出速度は 2000~5000 km/h [Wilson and Head (2007) Nature, 447, 53-57; 450, E22]。
- 超深部ダイヤモンドの発見 (第2章 pp.56-62)
- 1980 年代半ば R.O. Moore らがダイヤモンドの包有物から majorite を発見。
地下 500 km を超える深さからダイヤモンドが来たことがわかった。1986 年に国際会議で発表するも論文にならず
[Moore and Gurney (1985) Nature, 318, 553-555]。
- 1986 年の国際会議では、B. Scott-Smith もダイヤモンドの包有物中に magnesiowustite を報告した
[Scott-Smith et al. (1984) Proceedings of the Third International Kimberlite Conference, pp.121-142]
- [吉田注:会議の年は、本文には 1986 年と書いてあるが、上記の proceedings の発行年だとすると 1984 年。
どちらグループの研究も論文にならなかったと本文には書かれているが、Moore のは一応は上記のように論文になっているようだ。
本文にはダイヤモンドはオーストラリア産と書いてあるが、南ア産のようだ。]
- B. Harte らがブラジル産ダイヤモンドから pv, mw, Ca-pv の組合せの包有物を発見したことで、
下部マントルから来たという考えが一挙に支持を得るようになった。
[Harte and Harris (1994) Mineral. Mag. 58A, 384-385;
Harte et al. (1999) Mantle Petrology, Special Publication No.6, The Geochemical Society, 125-153;
これらには電子版は存在しないようだ]
- McCammon らは、下部マントル起源のダイヤモンド包有物中の鉄が3価のものに富むことを示した。
[McCammon et al. (1997) Science, 278, 434-436]
- ヒメダイヤの誕生 (第5章 p.150)
- 第1報は nature の brief communication [Irifune et al., (2003) 421,599-600; 421, 806]
- ヒメダイヤの性質 (第5章 pp.152-153)
- ヌープ硬度 130-145 (天然だと 60-120、焼結ダイヤだと 50-70)
- 1200 ℃を超える高温でも強度を保つ
- 微量な窒素のため少し黄色がかっている。ただし、空気を除去すれば無色透明にもできるだろう。
- ナノ多結晶スティショバイトの合成 (第5章 p.171)
- 15 GPa、1200℃付近でナノ多結晶スティショバイト (NPS) の合成ができた。
硬くて粘り強い物質であることが分かった。