みんなの放射線測定入門
小豆川勝見 著
岩波科学ライブラリー 224、岩波書店
刊行:2014/03/12、刷:2014/03/12(第1刷)
九大生協で購入
読了:2014/04/16
私は、雑誌「科学」における著者の連載「コラム 放射線測定の現場から」を愛読している。
私は、おかげでだいぶん放射線測定に関する知識が得られた。本書はその基礎編といったところで、まとまって書かれているのがありがたい。
記述も非常に分かりやすくて、測定の原理とそのむずかしさがよくわかる。
逆に、測定がむずかしいとわかったので、世の中で放射能測定がまともに行われているのかどうか、たいへん不安になる。
福島原発事故以来、不幸にして、放射線測定に「みんなの」がつくほど、誰もが放射線の基礎知識を持たなければならなくなった。
今後このくらいのことは常識として知っておきたいものである。
以下、内容のメモ。私の関心に依存しているので、サマリーというわけではない。
- 1 Bq は、1秒間に1個の原子が崩壊するということを表す単位で、放射線と直接の関係は無い。
- Bq は小さな単位で、131I の場合は、1 万 (=104) Bq で 2×10-12 g、
千兆 (=1015) Bq でようやく 0.2 g に相当する。つまりは、ごくごく微量でたいへんに危険ということである。
- 福島第一原発で放出された放射性物質の量は、政府発表によると、
133Xe が最多で 1100 京 (=1.1×1019) Bq である。
おなじみの 137Cs は 1.5 京 (=1.5×1016) Bq である。
- 原発事故によって放出された放射性物質には、核分裂生成物以外に放射化生成物がある。
たとえば、134Cs は、核分裂生成物 133Cs に中性子が当たってできる。
- 放射線のうち、測定が容易なのはγ線である。まっすぐ飛ぶからである。β線は、途中でいろいろ曲がったりするので、
測定位置を良く考えないといけないし、最初のエネルギーの推定も難しい。γ線測定装置には、NaI(Tl) シンチレーションカウンタとか
ゲルマニウム半導体検出器がある。前者の方が安価で取り扱いやすい。後者は高価だがエネルギー分解能が高い。
- 放射性ストロンチウムはγ線を出さないのでβ線を測定しないといけない。ところが、セシウムや鉛などもβ線を出すので、
89Sr や 90Sr をあらかじめ分離精製しておいてからβ線を測らないといけない。
そこで、放射性ストロンチウムの測定には、消耗品費だけで1試料に数万円かかる。
- Bq の値の測定をするには結構準備が大変である。前準備として (1) 容器から検出器への立体角を測って検出効率を求めておく
(2) 試料を粉砕するなどして一様にする (3) 自己吸収比を求めておく (4) 検出器の検出効率を求めておく
(5) 遮蔽によってバックグラウンドを減らす (6) 1 Bq につきどのくらい放射線が出るかという放出率を調べておく、
といったことがある。
- Cs は土壌粒子に強く吸着するので、だいたい土とともに移動する。
- 放射性物質は濃集する場所があるので、放射能のマッピングが大切。
- 簡便な測定器で放射能を測定する場合は、きちんと較正されているわけではないので、同じ場所同じ条件で時間変化を
見てゆくことが大切。そうすると、放射性物質の移動がわかる。