街場の現代思想

内田樹 著
文春文庫 う 19, 3、文藝春秋
刊行:2008/04/10、刷:2011/07/05(第7刷)
初出:第1,2章は、ホームページ日記。第3章の一部とあとがきは、「Meets Regional」(京阪神エルマガジン社)2003/09-2004/09
文庫の元になった単行本:2004/07 NTT出版刊
福岡今宿の古本屋フタバ書店図書 GIGA 今宿店で購入
読了:2014/12/20

時々読んでいる内田氏のエッセイ、というか生きるための知恵集である。一種の処世訓だけれど、ただの処世訓よりも考察が深い。 いつものように、楽しめる。

以下、簡単なサマリー

第1章 文化資本主義の時代
文化資本を持っている人々と持っていない人々が階層解離しつつあるということについて。そして、階層化は日本社会には相応しくないということ。
第2章 勝った負けたと騒ぐじゃないよ
酒井順子『負け犬の遠吠え』をめぐって、「勝ち犬」「負け犬」幻想、「負け犬」が文化を担うということについて、「負け犬」の発生要因について。
第3章 街場の常識
『Meets Regional』連載の人生相談集。
第1回 敬語は、災いをもたらすかもしれない人とか権力者と相対するにあたって、直接攻撃をやり過ごすための生存戦略である。
第2回 貨幣ができたので商品ができた。その結果として「人間」ができた。なぜなら、「人間」は、言葉と愛とお金を交換する生物だからである。
第3回 もしも勤務考課が厳密に正しかったら、人は自惚れを破壊され、生きる気力を失うだろう。だから、完全な能力主義社会はあってはならない。
第4回 質の高い仕事をする人は、対価のために仕事をするのではなく、どうでも良いような理由のために仕事をする。 たとえば、「おもしろそうだったから」「暇だったから」「頼まれたから」「人生意気に感じて」とか。
第5回 転職しようかどうしようかと人に相談するような人は、転職しても成功の確率は低い。 今の職が良くないのならば、まず、自分がその職に就くという間違った決断を過去にしたことを反省すべし。
第6回 「社内改革が可能か?」などという質問をしているようでは、社内改革が行われる可能性は低い。 社内改革について検討するには、すでに社内改革にコミットしていなければならない。
第7回 今や非正規職員が日本経済を支えているのに、フリーターが批判されるのはなぜか?たしかにこれは矛盾である。 フリーターは経営者にとって便利である一方、貧乏なので消費に寄与しない。さらに、結婚できないので人口が減る。 さらに、孤独死する人が増えて、祟りが増える。
第8回 結婚は不快なものである。先方の親族がついてきて嫌な思いをする。子供だって不快なものだ。 不快に耐えて、それを快楽と読み替える自己詐術の能力こそが人間を人間たらしめる。
第9回 結婚とは、理解も共感もできなくても、なお人間は他者と共生できるということを教えるための制度である。
第10回 離婚する人は、無意識的かもしれないが、離婚することを始めから望んでいる。
第11回 男女関係においては、相手が示す「理解不能」なふるまいについて、最悪の解釈を採用する傾向にある。 「私にはわからないけれど好き」というふうに考えられる人だけが愛の主体になれる。
第12回 贈与は、災いを未然に防止するために行われる。だから、「義理チョコ」こそが正しい贈与のあり方である。
第13回 大学の役割は、知らないこととの出会いである。知っていること(たとえば、英会話スキル)を増強することではない。
第14回 学歴はどうでも良い。学歴詐称は、学歴を貴重な情報だと思っているという点で良くない。
第15回 倫理は、共同体の中で合理的に生きて行くための方法である。ある戦略が、長期的に継続しても合理的か、 一定数以上の個体が採択しても合理的か、といったことを考えないといけない。
あとがき
生きるためには、死ぬことの意味を考えることが重要である。