暗号舞踏人の謎

著者Arthur Conan Doyle
訳者三上 於菟吉
電子書籍青空文庫
作成2005/06/20
底本平凡社「世界探偵小説全集 第四巻 シャーロック・ホームズの帰還」1929/10/05
原題The Advencure of the Dancing Men
原著刊行1905 in "The Return of Sherlock Holmes"
初出1903/12 "The Strand Magazine"
読了2015/12/27
web page青空文庫

ついうっかり読み始めたら、最後まで一気に行った。言わずと知れた「踊る人形」の昔の訳である。昔の訳なので、言葉遣いが古風なのに加え、いろいろ問題も多い。三上於菟吉といえば、有名作家だったらしいが、この時代ではまだ翻訳が難しかったのであろう。それでも、元が面白いので、最後まで一気に読めた。

内容については有名だし、子供のころだいぶん何度も読んだ気がするので(もちろん忘れていたが)、いまさらコメントを書く気がしない。そこで、ここでは翻訳の問題点についてだけメモしておく。

すぐに気づく問題は、人名や地名のカタカナ表記がかなりおかしいことである。以下にチェックした結果をリストする。昔は英語の音韻教育がなっていなかったということかもしれない。

英語三上訳私訳備考
Ridling Thorpe Manorリドリング公領/リドリング地方/リドリング村リドリング・ソープ荘園英語版では最初に出てくるときは Ridling ではなく Riding になっているが、その後出てくるときは Ridling なので、こっちが正しいのだろう。
Russell Squareランセル街ラッセル広場地区square は四角い広場のことである。
Norwichノーアウィッチ/ノーアウッドノリッヂ辞書をみると、最後は濁らない場合もあるようだから、ノリッチやノーリッチでも良い。
Saundersサウンダーソーンダーズ
Abe Slaneyアベー・スラネーエイブ・スレイニーAbe は Abraham(エイブラハム)の短縮形だからエイブ。しかし、日本語ではAbrahamはアブラハムと読むのが普通だから、その短縮でアブと訳するのもありうると思う。

なお、Hilton Cubitt が私が見た青空文庫版ではヒルトン・キューットになっていたが、今改めて青空文庫を見ると、ヒルトン・キューットに直っているから、途中で訂正されたのだろう。

そのほかにも、肝心なところで訳が変なところがある。原文を全部チェックしたわけではなく、肝心なところで意味が通じないところの英語をチェックしただけだが、果たして日本語訳が変だった。はからずも、以下の三例とも仮定法がらみの部分である。仮定法を上手に訳するのは翻訳家の腕の見せ所だが、三上訳では間違っている。

あとから大久保ゆうによる改訳が青空文庫にあることに気付いた。カタカナ表記は直っている。しかし、上の仮定法の訳し方は少し直っているが、まだいまひとつ。