ダーウィン 種の起源

著者長谷川眞理子
シリーズNHK 100 分de名著 2015 年 8 月
発行所NHK 出版
電子書籍
刊行2015/08/01(発売:2015/07/25)
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読了2015/08/31

『種の起源』はそのうち読みたいと思いつつも、まだ読まずじまい。とりあえず「100 分de名著」で概論をつかむ。 といっても、こういう話は概論だと単に進化論の説明になってしまう部分も多く、ダーウィンらしさをよく玩味するには やっぱり元の本まで当たらないといけないのかなとも思った次第。ま、それはそのうちということで。

「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー

第1回 「種」とは何か?

ダーウィン以前
18 世紀半ば、リンネが生物の分類体系を作る。彼は、二名法を考案した。
生物は神様が作ったのだからうまくデザインされているのは当然だ、という考え方を「デザイン論」という。 この考え方の中心人物が、19 世紀初頭のウィリアム・ペイリーである。ペイリーは時計職人の比喩を使った。
チャールズ・ダーウィン(1809-1882)
裕福な医者の家に生まれる。
19歳でエジンバラ大学に入学し、医師を目指すも、血を見るのが苦手で挫折。
23歳で、ケンブリッジ大学で牧師を目指すことにするが、神学に興味が持てず、博物学や地質学にのめり込む。
ビーグル号(測量船)で博物学者を募集していたので、乗ることにして、5年間(1831-1836)の航海に同行した。そこで博物学の研究をした。
この航海で進化論を思いつく。地震を経験したり、化石を発掘したりした経験が役に立ったと言われている。もちろんガラパゴス諸島での観察も有名。
アルフレッド・ラッセル・ウォレスも進化論を思いついたことを知ったので、それに押される形で50歳の時に「種の起源」を出版。飛ぶように売れた。大論争を引き起こす。
第1章:品種改良の例
ハトには多くの品種がある。いかに多様であっても、共通の性質がある。祖先はカワラバトであると推察される。実際、白いファンテールと黒いバーブを掛け合わせてみた。すると、孫の世代でカワラバトが生まれた。
このように、生き物の姿形は変わりうるものである。このような変化が重なることによって、種は変わると推察される。
第2章:種とは何か?
種というカテゴリーはあいまいで、中間的なものがいろいろある。

第2回 進化の原動力を解き明かす

第3章:生存競争
自然界で種の変化を促すものは、生存競争である。
すべての生物は、子孫を高率で増加させようとする。種が無制限に増えるのを抑えるメカニズムがある。それは食べ物が限られているということである。
生き物は、足りない食べ物をめぐって常に競争を繰り広げている。これが、生存競争である。そこで、生存競争によって淘汰が起こる。
生存競争が最も熾烈なのは、同種の個体間である。似た生物の間ほど、競争が激しい。逆に、似ていない生物の間には競争がないので、 生物には多様性が生まれてくるのだろう。
第4章:自然淘汰
生存競争だけでなく何らかの競争があれば、自然淘汰が起こる。自然淘汰とは、有利な変異は保存され、不利な変異が排除される過程である。
ライチョウの羽根の色は、周囲の環境の色に似ている。これは捕食者に食べられないようになるための適応である。
1994 年に、グラント夫妻は、ガラパゴス・フィンチの一種の「フォルティス」に起こった自然淘汰の例を発表した。 フォルティスが住んでいる島でひどい旱魃が起こり、ふだんは食べない堅い木の実を食べられる嘴の厚い個体が選択的に生き残った。
進化は、世代を経て起こる。個体群に起こる変化である。
生態系の複雑さ
ダーウィンは、荒れ地の生態系の変化に注目した。人間がアカマツを植えたところと、人の手が入っていないところとで、生物種がだいぶん変わっていた。このようなことは、進化にも影響を及ぼすであろう。ちょっとしたことで生存競争の条件が変わって、進化の方向が変わるかもしれない。
ダーウィンは、生態系という言葉がない時代に、すでに生態系の存在に気づいていたといえる。
生態系は、現在では、単なる食物連鎖ではなく、「食物網」という考え方になっている。
中立進化説と自然淘汰説
分子レベルの変異は有利でも不利でもない中立的なものがほとんどである(木村資生の中立進化説)。そうすると、 たまたま運の良かったものが生き残るということになる。一方で、形態レベルでの進化には自然淘汰も働いている。 中立進化と自然淘汰の組み合わせで進化が起こる。
第5章:変異とはなぜ起こるのか
当時は遺伝子が知られていなかったので、今となっては読まなくても良い。

第3回 「不都合な真実」から目をそらさない

第6章から第13章において、ダーウィンは、予想される反論に対する反論を考えている。
【問題1】中間的な種が見つからないのはなぜか [第6章:学説の難題]
【反論1】中間種は絶滅してしまった。似た種は、生存競争のため滅ぼされてしまう。
【反論2】化石が見つからないのは、化石は残りにくいからだ。地質学の記録は不完全なものである。
のちに、ウマに関しては、中間種の化石が見つかり始めた。
【問題2a】眼のような複雑な器官がどうやって生まれるのか [第6章:学説の難題]
【反論】基本構造も完成度も異なるいろいろな段階の目を持った生物がいる。
【問題2b】高度な本能は進化で説明できるのか [第7章:生物の本能はいかにして生じるか」
【反論】ミツバチの巣は六角形の美しいものだが、ミツバチの仲間にはさまざまな形の巣を作るものがいて、六角形にいたる途中の移行形だと解釈することが出来る。
【問題3】海で隔てられ遠く離れた地域に同じ種の生物が存在しているのはなぜか [第11~12章]
【反論1】今は海でも昔は陸地だったかもしれない。哺乳類も、氷河期に陸地伝いに遠くまで行くことができる。
【反論2】植物が海を渡る可能性もある。植物については、種はけっこう強い。海の中、あるいは鳥の素嚢(そのう)の中でも長い間死なないでいられる。
今では、大陸移動説による説明もかなりある。
ガラパゴス諸島には、鳥類や爬虫類はいるが、哺乳類や両生類はいない。これは今では説明されていて、 哺乳類や両生類が海を渡ることが出来ないことによる。爬虫類は、休眠可能な上に塩分に強いから、木の枝などに乗って海を渡ることが出来る。

第4回 進化論の「今」と「未来」

今回は進化論の影響を考える。最近注目を集めているのは、進化を医学に応用する「進化医学」である。
進化を応用してものごとを説明する例
(1) 飢餓を経験した地域には節約遺伝子を持つ人が増えたかもしれない。ただし、まだ具体的に節約遺伝子は見つかってはいない。[進化医学の例]
(2) ほとんどの哺乳類はビタミンCを作れるのに、昼行性の霊長類は作れない。昼行性の霊長類は果物や葉を大量に食べているので、ビタミンCが作れなくなった。
(3) なぜ、霊長類にはこんな大きな脳があるのか?複雑な社会関係の中で生きてゆくため。[社会脳仮説]
ダーウィンの偉大さ
生態学や心理学の源もダーウィンにある。
進化論の悪用
貧富の差、民族差別、奴隷差別などの正当化に用いられた。強者は勝って当たり前だということの正当化に使った。ひとつの頂点はナチス・ドイツの「優生主義」。
ダーウィン自身は、生物に優劣はないと考えていた。人間の差別にも反対していた。
人間とは
「基本的には雑食で、適度の運動と娯楽を必要とし、共同作業によって生計をたてて、公正・平等をよしとし、好奇心が強く、 他者と密接なコミュニケーションをとり、共同で子育てをする社会的な生き物である」