メアリ・シェリー フランケンシュタイン
廣野由美子 著
NHK 100分de名著 2015 年 2 月、NHK 出版 [電子書籍]
刊行:2015/02/01(発売:2015/01/25)
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読了:2015/02/26
『フランケンシュタイン』は、名前は有名だからもちろん知っているものの、原作を読んだことは無い。
この番組の解説によって、これが優れた小説であることを初めて知った。
フランケンシュタインが怪物の名前ではなく、怪物を作った人の名前であることも初めて知った
(このことは、多くの人が誤解しているということで有名らしい)。
『フランケンシュタイン』は、SF のはしりであるという考えもある。その意味でポイントになると思ったことが2つあった。
- 人間であって人間ではない怪物を登場人物とすることで、人間性に対する深い洞察を書いている。
- 異形の人が艱難辛苦に遭うと人間はどうなるかという問題を扱っている。怪物は、凶悪な殺人鬼になる。
これと対比したいのが手塚治虫の『ブラック・ジャック』である。ブラック・ジャックは、異形の人となるも、天才外科医になる。
この差は、洋の東西の気質の違いに依るのかもしれない。
放送時のメモと放送テキストのサマリー
第1回 「怪物」の誕生
- はじめに
- フランケンシュタインは、この物語に出てくる怪物の事だと思っている人が多いが、実は、怪物には名前がない。
怪物を作った科学者がヴィクター・フランケンシュタインという名前なのである。
- 意外なことに、怪物は、読書家で雄弁である。
- この小説は、本当は、美しい文学で、詩情豊かな描写も豊富だという一面も持っている。
- 作者について
- 作者はメアリー・シェリーという女性である。彼女は、母を出産直後に亡くし、継母とは折り合いが悪かった。
- 16歳でロマン派詩人パーシー・シェリーと駆け落ちし、19歳で「フランケンシュタイン」を書いた。
- 創作の前後に、周辺の人々が多く亡くなっている。
- 小説の体裁
- 語り手は3人いる。それは、ウォルトン、ヴィクター、怪物である。
- 最初は、ヴィクター・フランケンシュタインが身の上話を北極体験の途上にあるウォルトンに語るという体裁を取る。
- 身の上話の中で、怪物がヴィクターに語る部分もある。
- 物語の始まり
- ヴィクター・フランケンシュタインはジュネーブの名家の生まれであった。
- 少年時代から自然科学に興味があり、ドイツの大学で学ぶ。
- ヴィクターは、死体を集めて人造人間を作ることに成功する。これが、怪物の誕生である。しかし、その怪物の顔の恐ろしさに耐えかねて、ヴィクターは逃げ出す。怪物が創造主に疎まれて誕生したことが悲劇を招く。
第2回 疎外が邪悪を生み出す
- 怪物の成長:怪物は何も知らない状態からいろいろ学んでゆく
- 怪物は、森の小屋で暮らすド・ラセー一家をこっそり観察しながら、いろいろなことを学ぶ。
- 怪物は、経験はないけれど知的な存在としてえがかれている。それが外界から知識を得て学習してゆく過程が描かれる。
メアリー・シェリーは、ジョン・ロックの経験論やルソーの自然人の概念から影響を受けているようである。
- 怪物は、身の回りの事柄をいろいろ発見してゆく。読者は、怪物の目を通して、身の回りのことを新鮮な目で見ることができるようになる。
これを、「異化 defamiliarization」という。
- 怪物は(不自然ではあるが)森で拾った鞄の中にあったいろいろな本を読む。とくに、ゲーテの「若きウェルテルの悩み」に感動する。
- 疎外感に苦しめられる怪物
- 怪物は、実験室から出るときに持ち出した服のポケットからフランケンシュタインの日記を発見し、自らの出生の秘密を知る。
- 怪物は、ド・ラセー一家と仲良くなろうとするが、その容姿ゆえに追い出された。
- 怪物は世間とのつながりを断たれていることに苦しんだ結果、創造主であるフランケンシュタインへの怒りが募ってくる。
- 怪物はヴィクターの弟のウィリアムに出会うが、醜いと罵られ、殺してしまう。
- 怪物は、ヴィクターに女の怪物を作ってくれと頼むが、完成間近になった時、ヴィクターは恐れからその女の怪物を壊してしまう。
そこで、怪物は復讐の鬼と化す。
- 復讐の鬼となる怪物 [放送では第3回]
- 召使いのジャスティーヌは、ウィリアム殺しの濡れ衣を着せられ処刑される。
- ヴィクターは、心を癒すためにアルプスをさまよう。そこに怪物が追ってきて、ヴィクターに女の怪物を作ってくれと頼む。願いを叶えてくれたら、二度と姿を見せないと誓う。
- ヴィクターは、不承不承女の怪物を作り始める。しかし、完成間近になって、ヴィクターは怖くなってその女の怪物を壊す。そして、怪物は復讐の鬼と化す。
第3回 科学者の「罪」と「罰」
- ヴィクター・フランケンシュタインの人物像
- ジュネーブの名家に生まれ、幸せな子供時代を送る。
- 自然を知りたいという探究心が強い。
- 感情が激しく、野心家。英雄的な行為にのぼせ上がりやすい。
- 登場人物の性格
- 小説の中では、登場人物の性格が一人一人丁寧に描かれている。作者は、性格が人の運命を大きく左右すると考えている。
- 北極探検をしているウォルトンも、野心家である。ヴィクターは、ウォルトンの性格に自分と共通するものを感じて、自分の失敗談を語る。しかし、それでも、ウォルトンが北極行きをあきらめそうになると、ヴィクターは北極に行くのだと檄を飛ばす。
- 科学の罪ー現代のプロメテウス
- 小説の副題は「あるいは、現代のプロメテウス」である。科学が神の領域に踏み込んだ時、何が起こるか?
- ヴィクターは、女の怪物を作るときに、怪物に子孫が出来たらどうなるのかという恐れを感じる。
- 現代の問題としても、代理母の問題や、クローン人間の問題にもつながる。
- 科学が進歩した時の倫理の問題に迫っているという意味で、この小説はSFの草分けとも言える。
第4回 「怪物」とは何か?
- 『フランケンシュタイン』の結末
- 怪物は、ヴィクターの親友クラヴァルを殺し、ヴィクターが愛するエリザベスも結婚したばかりで殺す。
- 怪物は、ヴィクターは殺さず、次々に周囲の人々を殺す。失意のヴィクターはさすらう。
- 船上でヴィクターが衰弱死したあと、怪物は船から飛び降りて死ぬ。「いまは死ぬことだけが、おれの慰めなのだ」
- いろいろな怪物の読み解き方
- 人間よりも、人間ならざる怪物の方が、生きるということを深く考えている。映画『ブレード・ランナー』にも通じるものがある。
- 精神分析批評によれば、ヴィクターのペルソナ(仮面)は両家のお坊ちゃんで、「影」を象徴するものが怪物ということになる。
ヴィクターが死ぬと、影である怪物も死ななければならなくなった。
- マルクス主義批評によれば、フランス革命の巨大な力や産業革命による機械化を擬人化したものが怪物だということになる。
- フェミニズム批評によれば、小説の登場人物が男性優位であるのに対して、怪物は嫌悪されて楽園を追われたイブの姿ということになる。
- ミルトン『失楽園』との関連
- 『フランケンシュタイン』には『失楽園』が引用されている。怪物はアダムに相当する。怪物は、創造主たるヴィクターに嫌われ、反逆してゆくことになる。
- 親子関係の問題とも関連させて議論できる。怪物は虐待された子供に比すことができるかもしれない。
あるいは、ヴィクターのように親の愛情をふんだんに注がれて育っても不幸になるかもしれない。