小泉八雲 日本の面影

著者池田雅之
シリーズNHK 100 分de名著 2015 年 7 月
発行所NHK 出版
電子書籍
刊行2015/07/01(発売:2015/06/25)
入手電子書籍書店 honto で購入
読了2015/07/23

『日本の面影』は昔読んだ気がして、本棚を漁ってみたら、それは角川文庫の田代訳版で、これは八雲の全著作から23編を選んだものであった。いわゆる「古き良き日本」が書いてあったように思う。

「100 分 de 名著」で扱われているのは、"Glimpse of Unfamiliar Japan" (1984) である。田代訳版では『知られぬ日本の面影』という書名で紹介されている。講師の池田氏は、これから 20 編を選んで訳したものを角川ソフィア文庫から『新編 日本の面影』『新編 日本の面影II』として出している。番組では、古き良き日本の話やお化けの話を手っ取り早く楽しむことができた。

「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー

第1回 原点を訪ねる旅

本書を読むときの全体のポイント
(1) 近代化以前の日本の姿を見ることで、日本がどう変わったのかを考える。
(2) ハーンの異文化理解のしかたに学ぶ。
ラフカディオ・ハーンの生い立ち
父親がアイルランド人、母親がギリシャ人のイギリス人。
ギリシャで生まれ、アイルランドで育つ。両親は離婚し、大叔母の下で育つ。13 歳でイギリスの神学校で教育を受ける。16 歳のとき、遊具が左目に当たって左目を失明。
19歳でアメリカに渡ってどん底生活を送る。24歳で新聞記者になる。
1890年日本に来る。島根県で英語教師になり、節子と結婚。以後、亡くなるまで日本で過ごす。
『日本の面影』基本情報
1894 年 アメリカで出版された。来日して 4 年後のことであった。実質的にはほぼ 2 年で書き上げている。
扱っているのは、来日した 1890 年 4 月から、松江を去る 1891 年 11 月まで。
27の主題に分かれている。
「はじめに」で書かれている本書の趣旨
(1) 日本の知識人批判。西洋ばかり見ている。
(2) 日本人の良さは庶民の中にある。
(3) 人間は幻想や想像力に頼る生き物。迷信の心地良さ。
(4) 西洋近代文明批判。合理主義批判。旅への衝動を Ghost が蠢いたと表現している。
最初の体験「東洋の第一日目」
1890年4月、横浜港に到着。
庶民の中思いやりのある眼差しに感動する。桜にも感動する。

第2回 古きよき日本を求めて

松江に赴任する途中の鳥取県上市にて「盆踊り」
鳥取では、盆踊りに魅了される。感情に響くものを感じた。「感情とは、(中略)万物の喜びや悲しみに共振するものではないだろうか」
キーワード ghostly
ghostly とは、八雲にとっては、人間の魂の中にある共鳴器のようなもの。
お化け体験「夢魔の感触」(『さまよえる魂のうた』所収)
八雲は、子供の頃、大叔母の家に泊まっていたカズン・ジェーンに説教され、ちょっと神に疑問を呈したら激しく罵倒された。 その後、ある秋、ジェーンを見つけて呼びかけたら、振り返ったのはのっぺらぼうだった。
出雲大社「杵築―日本最古の神社」
八雲は、本殿に参拝を許された初めての西洋人だったと言われている。
宮司の千家氏の姿に畏怖の念を感じる。
「神道の真髄は国民の心の中に生きている。最高の信仰心の表れなのである。」

第3回 異文化の声に耳をすます

今回のテーマ:八雲の日本文化の受け止め方
日本の文化を五感で受け止める。とくに音に耳を済ませる。
相手の立場に立って受け止める。
音を受け止める「神々の国の首都」
松江で目を覚ますと、杵の音が聞こえる。→日本文化の根幹に米があることも示している。
柏手を打つ音が聞こえる。人々は、太陽や杵築大社(出雲大社)に向かって拝んでいる。
夜になると、梵鐘の音や物売りの声などが聞こえる。
「日本人の微笑」
イギリス人には、日本人の微笑が軽々しく、嘘をついているようにも見える。
しかし、日本人の微笑は礼儀であり教養でもある。好意を持ってくれる人に心配をかけまいとする態度である。 さらに、克己の道徳観も反映している。
日本庭園「日本の庭にて」
八雲が暮らした武家屋敷の庭の観察。
日本庭園では石が使われる。石は自然石であり、石が愛でられている。
譲葉(ゆずりは)は、新しい葉が育つまで古い葉が落ちないことから、息子が一人前になるまでに父親が死なないようにという願いを象徴する。 松は、常緑なので、不屈の志や精力的な老年の象徴であるとされる。
日本庭園は小宇宙。
「英語教師の日記から」
日本の中学生の英作文には個性が少ない。「一般的に言って、日本の生徒たちは、想像力という点では、ほとんど独創性を示すことはない。 彼らの想像力は、もう何世紀も前から、一部は中国で、もう一部は日本で作られたものなのである。」

第4回 心の扉を開く

「水飴を買う女」
松江の中原町に伝わる話。
飴屋で毎日水飴を買う女。女は毎日墓地に帰るのだった。女は飴屋の主人を墓地に連れ出すと、ある墓の前で姿を消す。 その墓には、女の亡骸があり、赤ん坊がいた。
母親の愛情を描いてある。八雲は、生き別れた母親を慕っていたのではないか。
「子捨ての話」
貧しい夫婦がいて、子供ができると次々に捨てていた。そのうち暮らし向きが良くなって子供を育てることにした。 その赤ちゃんがある夜、父親に向かって大人の口調で捨てられた子供の恨みを語る。
八雲の自分を捨てた父親への恨みを反映しているのかもしれない。
『怪談』
『怪談』は、八雲の内面の記録でもある。妻の小泉節子が怪談を八雲に聞かせた。
「青柳ものがたり」in『怪談』
能登に住んでいた友忠は、京都に向かう途中、吹雪の中、藁葺きの屋根の家に入れてもらって一夜を過ごした。そこの娘の青柳と結婚する。 青柳は木の精で、木が切り倒されるとき死んでしまった。その後、友忠は仏門に入り、諸国行脚した。 藁葺きの家のあったところに行ってみると、柳の切り株があった。
松江と出雲
八雲は、松江には1年3ヶ月しかいない。しかし、松江や出雲は生涯にわたって想像力の源泉になった。
八雲が遺したもの
open mind : 五感を解き放つ、暖かいまなざし、他者への共感
multi-identity : アイデンティティの多様性