暁斎にはしばらく前から関心があったので、本屋で見かけて買いたくなって読んでみた。 超多作で何でも描ける万能絵師だったということがわかる。 水墨画も動物もお化けも美人画も春画も、ほとんどあらゆる絵が描けて上手いとしか言いようがない。 特集の中にある山口晃のインタビュー記事によれば「彼は筆の力もすごい。天才肌というより腕力がある。そしてなにより、暁斎の絵には内発性があると感じました。」とのこと。 小さいころから何でも描かずにはいられなかったようで、9歳の時には生首の写生をして大騒ぎになったというエピソードが残っている。
とくにプロ絵師らしさが現れていると思うのは、暁斎が常に骨格を意識して人や動物を描いていたことと、単なる写生とは違う絵らしい描き方の作法を意識していたということだ。骨格に関しては、河鍋楠美と養老孟司の対談の中の河鍋氏の言葉によれば、
人物の描きかたを指導するときに、暁斎はまず弟子に骨を描かせてから肉付けして、それから着物を着せるように描かせるんです。そのうち、いちいち描かなくても頭の中で衣の下の人体が中身のあるものとして組み立てられるようになる。だから着物姿でも正しく皺が寄るんです。ということだそうである。絵の描き方の作法については、山口晃のインタビューによれば
また同書には「筆意」についても多く書かれています。狩野派のみならず、四条派、雪舟、応挙、北斎、中国絵画の筆意についても言及している。このような筆の使い方をするとそれぞれの流派の絵のようになると、実際に暁斎が筆で描いた例を挙げているのですが、私なんかが見てもほとんど違いがわからない。でも少なくとも暁斎はそれらの筆意をすべて体得していたんですね。ここに挙げたのは、狩野派の筆意の例です。現実の足を写生しただけの状態が「真」で、それだけでは絵にならない。「絵」にするにはまず筆の入りがあり、抑揚があり、線の太さを変化させたり、きゅっと止めたり、あるいはデフォルメを加えたりという筆意を以って描かなければならないのです。ということだそうで、日本に伝わる伝統的な描画法をすべてマスターし、意識的に使い分けられていたことがわかる。
特集があるということは、展覧会をやっているということで、三菱一号館美術館の「画鬼・暁斎―KYOSAI」展に行ってみた。 ちょちょっと書いた絵日記から、入念に描いて弟子のコンドルに贈った「大和美人図屏風」まで、どれを取ってもすばらしい。