固体表面の濡れ性

中島章 著
化学の要点シリーズ 12、共立出版
刊行:2014/12/10(初版第 1 刷)
九大生協で購入
読了:2015/01/30
表面張力関係第2弾として読んでみた。 この本の主たるテーマは、表面をどう加工すると親水性や撥水性が得られるかということである。著者の周辺で得られた新しい成果も盛り込みながら説明されている。 薄い本なので、そんなに詳しいことはわからないけれど、ざっと研究を概観するのには良い。 著者の周辺の研究結果はかなり詳しく書いてあるので、「濡れ」というのが、いろいろな要素がからんだ複雑な現象であるということがよくわかる。

今やっている研究と関係するところでいえば、最後の第7章「液滴の制御」がおもしろかった。いろいろな現象を羅列しているだけではあるが、 水滴を自発的に移動させてみたり、空中に浮かせてみたり、表面張力を使うといろいろなことができるものである。

2.3 の熱力学の記述が雑なのが気になった。いろいろ問題があるが、たとえば (2.18) から (2.19) に行くときに∂S/∂Aを単位面積当たりのエントロピーに置き換えるのは2重の意味で正当化されない。 第1に、単位面積当たりのエントロピーと言うときには、表面エントロピーを定義しておかないといけないはずだが、何も書かれていない。 第2に、表面エントロピーだとしても∂S/∂Aを単位面積当たりのエントロピーに置き換えるというのは、通常の(表面がかかわらない)熱力学でいえば、∂S/∂VをS/Vに等しいと置くようなもので、これは理想気体で考えても誤りである。 最近、表面張力に関する文献などもいろいろ見ているが、熱力学が誤りなくきちんと展開されているものは、意外に少ない。

ミスプリもいくつかあった。とくに目立つのは、表紙口絵5が「超親水性/水界面」と書いてあるのに、 本文 p.101 のそれに対応する所が「超撥水/水界面」となっていることである。 本文の記述からすると、後者が正しい。