今やっている研究と関係するところでいえば、最後の第7章「液滴の制御」がおもしろかった。いろいろな現象を羅列しているだけではあるが、 水滴を自発的に移動させてみたり、空中に浮かせてみたり、表面張力を使うといろいろなことができるものである。
2.3 の熱力学の記述が雑なのが気になった。いろいろ問題があるが、たとえば (2.18) から (2.19) に行くときに∂S/∂Aを単位面積当たりのエントロピーに置き換えるのは2重の意味で正当化されない。 第1に、単位面積当たりのエントロピーと言うときには、表面エントロピーを定義しておかないといけないはずだが、何も書かれていない。 第2に、表面エントロピーだとしても∂S/∂Aを単位面積当たりのエントロピーに置き換えるというのは、通常の(表面がかかわらない)熱力学でいえば、∂S/∂VをS/Vに等しいと置くようなもので、これは理想気体で考えても誤りである。 最近、表面張力に関する文献などもいろいろ見ているが、熱力学が誤りなくきちんと展開されているものは、意外に少ない。
ミスプリもいくつかあった。とくに目立つのは、表紙口絵5が「超親水性/水界面」と書いてあるのに、 本文 p.101 のそれに対応する所が「超撥水/水界面」となっていることである。 本文の記述からすると、後者が正しい。