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著者細川博昭
シリーズサイエンスアイ新書 SIS-106
発行所ソフトバンククリエイティブ
電子書籍
刊行2009/03/24(初版第1刷)
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読了2016/10/03

科学の話題で新聞によく出てくるものを取り上げてまとめてある本。幅広い話題を取り上げており、著者は幅広くよく勉強しているようだ。

全体として地球惑星科学に関する話題が多いのが印象的であった。第1章「宇宙探査・宇宙開発」の7割くらい、第2章「地球環境・地球科学」の全部がそうなので、本全体で言っても6割くらいが地球惑星科学の話題である。高校理科では地学教育がほとんど行われていないのに、新聞からトピックをピックアップすると地学関係がこんなにも多いものかと驚く。ただし、そのせいで「地球温暖化」がけっこうなページ数を占めており、科学全体からするとバランスが悪いのではないかとも思う。でも確かに世の中ではよく話題になるけれど。ともかく地学関係の話が多いので、私は軽くさっさと読めた。

以下、気になったことをメモしておく。当然ながら、私の専門に近い部分で気になる点が多い。とはいえ、全体的にはそつなくまとまっていると思う。

p.124 大気の大循環:東西の流れのイメージ
中低緯度の海流(亜熱帯循環)が北半球では時計回り、南半球では反時計回りというのは良いのだが、それに対応して、大気の循環が北半球で時計回り、南半球で反時計回りというのは変である。海の場合は岸があるので循環が閉じるのだが、大気の場合は基本的には東西流が地球を一周という意味で、基本的なところが違う。
p.142 古来より「災害」として認識されてきた地震がいま、「地球の内部構造の解明を手伝ってくれる有能な助手的存在」として多くの研究者から注目され始めています。
地震を地球内部構造の研究で使うのは、19 世紀終わりか 20 世紀始めあたりから始まっていることなので「いま~注目され始めています」というのはおかしくて、「100 年以上前から使われています」が正しい。
p.147 両社
誤字:(正)両者
p.148 圧力というかたちのストレス
「ストレス」は専門用語としては「応力」というちゃんとした定義も訳語もある言葉で、圧力はその一部だから、正確に言葉を使いたい。ここは正確に言おうとすると、その前から含めて書き直さないといけない。たとえば、「プレートが生まれる場所では相対運動の方向に引っ張り応力、プレート同士がぶつかり合う場所やプレートが他のプレートの下に沈みこんでいる場所では相対運動の方向に圧縮応力がはたらくことが多い。」といった感じが正しい。とはいえ、これでは一般向けにはちょっとわかりづらい。「応力」をちゃんと説明するのは難しいので、専門家も一般向けの話などでは「ストレス」と言ってごまかしている(専門家は正しく受け取ってくれるだろうし、一般人は雰囲気だけ感じてくれるだろうということで)ことも多い。
p.152 ゆっくり地震の中であまりに長い時間をかけて動くため、地震計や人間の感覚では地震として捉えられないものをサイレント地震や沈黙地震と呼ぶこともあります。
「ゆっくり地震」と「サイレント地震」のことばの使い分けは難しい。歴史的に使い方が変わってきていると思う。GPS 時代以前は、地震計で捉えられるが長周期成分が卓越するものを「ゆっくり地震」、地震計で捉えられないほどゆっくりすべる現象を「サイレント地震」と言ったと思う。GPS 時代以前は「サイレント地震」はそんなにちゃんと観測されていない現象だった。しかし、GPS 時代になって地震計では捉えられないが GPS では捉えられるような断層のゆっくりした動きが多く観測されるようになり、それを「ゆっくりすべり」などと言うようになった。それに伴って「ゆっくり地震」が「ゆっくりすべり」や「サイレント地震」も含むような広義の使い方も出てきたと思う。実際、ここの説明でも、その前では数日から数ヶ月かけてゆっくりずれる運動を「ゆっくり地震」と定義している。それだけゆっくりだと地震計では捉えられないので、この定義では「サイレント地震」と同義になってしまう。そういうわけなので、著者が混乱しているのもむべなるかなではある。
pp.156-157 日本で起こる地震に最適化した独自の「気象庁マグニチュード」
「最適化した」と言われるとちょっとひっかかる。マグニチュードはいろいろな歴史的事情があって決まっているものなので「最適化」されているわけではない。そもそも何が「最適」かといわれると困る。
p.174 種が絶滅に瀕する要因としては、次のような理由が存在しています。1. 人間による乱獲や駆除 2. 外来生物による捕食や病気の感染 3. 遺伝子汚染による種の消滅 4. 地球温暖化などによる環境の変化
これに、人間による生息環境の破壊が書かれていないのに違和感がある。4 に入れるつもりなのかもしれないが、トキの絶滅の理由を 1 にしているところからみて、そうでもないだろう。しかし、トキの絶滅の原因は、乱獲よりも生息場所が無くなったことの方が大きいと思うのだが。