社会脳からみた認知症 徴候を見抜き、重症化をくい止める

著者伊古田 俊夫
シリーズブルーバックス
発行所講談社
電子書籍
刊行2014/12/01
電子書籍の元になった新書2014/11
入手電子書籍書店 honto で購入
読了2016/10/25

認知症といえば、記憶障害、見当識障害、実行機能障害で特徴付けられるのだと思っていたら、最近では社会脳の障害も中核症状の一つと考えられるようになったのだそうだ。それを紹介している本である。社会脳というのは、他者との関係を築くために必要な様々な社会的認知機能をうけもつ部分で、脳のいろいろな部分に分散して存在している。認知症というのは、脳が縮小するような現象だから、縮小する場所によってさまざまの社会脳機能が損なわれてゆく。ただし、どのような社会的認知機能が損なわれるかは、人によるらしい。このように考えられるようになった背景には SPECT など脳の画像化技術が発達して、脳のいろいろな部分が受け持つ機能がだいぶんわかるようになってきたということがあるようだ。

脳の科学とか精神医学というのは、最近でもわりとよく常識が変化していることに驚く。社会脳と認知症と結びつけるということは、私はこれまで聞いたことがなかった。脳は、それだけ今までよくわかっていなかったということだろうし、これからもまたどんどん見方が変わってゆくのだろうと予想される。

注目すべきことの一つは、著者が脳神経外科医だということだ。認知症といえば、ずっと精神科の領分だったはずだが、最近では脳神経外科からもアプローチしてきているということのようだ。近所にも脳神経外科で認知症に力を入れている病院がある。といっても、治療の仕方は精神科と変わらないようだ。本書の特色としては、SPECT などの脳の画像を多用していることがあるが、これが脳神経外科医としての特色なのかもしれない。

以下、メモをしておきたくなったことがら。

(1) 2013 年の米国精神医学会 DSM-5 においては、以下の6つの認知機能の障害が認知症の中核症状とされるようになった。このうち一つ以上が明確に侵されて、生活に支障を生じれば、認知症と診断される。 [「第2章 「社会脳」とは何か?―社会脳科学の誕生」―③認知症の診断基準としての社会脳―認知症の診断基準に社会脳が登場、診断基準としての社会的認知の障害]

(2) 社会脳は、ネットワークで働いているようで、それには以下のようなものがあるそうだ。 [「第2章 「社会脳」とは何か?―社会脳科学の誕生」―②社会脳の解剖マップ―社会脳は「ネットワーク」が基本] [「第5章 社会脳の障害から認知症を診断する」―「②社会脳の特徴―社会脳は認知症の理解をどう変えるか?」―「前頭葉内側面―社会脳の首都」] [「第5章 社会脳の障害から認知症を診断する」―「②社会脳の特徴―社会脳は認知症の理解をどう変えるか?」―「中枢」と社会脳ネットワークの相違点]

脳の部位としては、とくに前頭葉内側面は、社会脳のネットワークのすべてに関わっている。

社会脳はネットワークとしてはたらくため、一部分が壊れても意外に症状が出ない。認知症では、脳全体が侵されるので症状が出やすい。

(3) 認知症と苦悩について [「第4章 社会脳の視点から認知症をとらえ直す―②より高次な社会脳機能」―③ジレンマと苦悩の脳科学―認知症と苦悩]。認知症では、一般的に苦悩は薄れる。脳科学的な解釈はまだきちんとできていない。