アドラー 人生の意味の心理学

著者岸見一郎
シリーズNHK 100分de名著 2016 年 2 月
発行所NHK 出版
電子書籍
刊行2016/02/01(発売:2016/01/25)
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読了2016/02/25

アドラーは、フロイトやユングと並ぶ心理学の巨人だそうな。フロイトやユングよりずいぶん明朗な心理学だということを始めて知った。トラウマだとか後ろ向きのことを言わず、前向きにどう生きるかが書かれていて力強い。著者(岸見氏)の『嫌われる勇気』はベストセラーになって、最近日本でも広く認知されるようになったようである。

放送を聴いてみると、普段から漠然とそういうことだろうと思っていたことが明確で尖鋭な形で述べられていて、まさにその通りだと思った。自分に当てはめてみるとそうである。私も若いころは劣等感に悩まされていた。年をとってくると、自分にある程度の自信も持てるし、自分の居場所もわかってくるので、心が安定してくるけれど、そうなる前はやはり悩みが多く、まさにアドラーが言っているようなことを漠然とわかるようになりながら、大人になってきたと思う。

しかし、やや疑問なのは、精神的にかなり問題を抱えているような学生に接するときである。そのような学生にアドラーのような厳しい考え方をそのまま押し付けてよいのかどうか、悩ましい。心理カウンセラーのような人は、どちらかといえば、ポイントに正面からぶつからないように、少しずつソフトにソフトに接することを勧めることが多いように思う。

あとは、子育ての問題も難しい。アドラーは、褒めず叱らず、と言っていて、これは実は半分くらいは良くわかる。学生を見ていても、褒められたり叱られたりしないと行動ができなくなっている例があり、これは今まで褒められすぎたり叱られすぎたりしたのだなということがわかる。しかし、一方で我が子を見ると、褒めたり叱ったりしないとしょうがないなと思うこともあり、難しいものである。なお、学生に対しては、私は比較的褒めず叱らずである。でも、それが合わない学生もやはりいる。

「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー

第1回 人生を変える「逆転の発想」

アドラーの「個人心理学」
アドラーは、人をタイプ分けしない。個人がどうすると幸せになるかを考える。
個人心理学=分割できない全体としての人間を考察する心理学
アドラーの生い立ち
裕福なユダヤ人の家に生まれる。幼いころにくる病を患い、健康な兄にライバル心を抱く。
医学を志し、やがて内科医になる。そこで、患者の軽業師や大道芸人が幼いころに体の弱さに苦しんでいたことを知り、劣等感に注目するようになる。
フロイトの『夢判断』を読んだことをきっかけ精神医学に関心が移り、フロイトの勉強会にも参加する。
アドラーとフロイト
フロイトがリビドー(性的欲求)をパーソナリティの基礎においたのに対し、アドラーは劣等感に注目した。劣等感は人生に立ち向かう力。
第一次大戦を通じて、フロイトが人間には攻撃欲求があると考えるようになったのに対し、アドラーは人間は仲間だと考えるようになった。
主観的な世界の意味づけ
人は主観的な世界に住んでいる。
世界の意味づけを変えれば、未来は変えられる。
過去に原因を求めない。目的に目を向ける。原因論ではなくて、目的論を取る。
怒鳴るのは相手が悪いことをしたからではなく、相手に謝らせたいからだ。悲しむのは悲しい出来事があったからではなく、相手の同情を引きたいからだ。
世界についての意味づけを変えれば、過去の記憶も変わる。
ライフスタイル
ライフスタイル=自己認識、世界像、自己理想
人は未知の世界に踏み出すことを怖れている。
そこで、人はライフスタイルを変えないでおこう無意識に考える。それを変えよう。勇気があれば変えられる。
ライフスタイルを変える要因は、遺伝と環境(兄弟関係、親子関係、文化など)。アドラーは、遺伝は重要視しない。

第2回 自分を苦しめているものの正体

劣等感
自分を苦しめているものは、劣等感。
劣等感とうまくつきあうことが重要。
ありのままの自分から始めよう。
優越性の追求
人は誰でも無力さから抜け出し、優れたものになろうとする。これを優越性の追求という。これは努力の源泉である。
優越性の追求と対になる感情が劣等感である。劣等感は文化を作り出す原動力でもある。
優越性の追求は、やり方を誤ると、苦しみの源になる。
人は対人関係で傷つくことを怖れている。対人関係に踏み込むことを怖れて、劣等感を持ってしまう。しかし、人との関わりなくしては、生きる喜びを得られない。
劣等コンプレックスと優越コンプレックス
他者との比較で生じる悪い劣等感を劣等コンプレックスという。「○○だから△△できない」というのは不健全な言い訳。これは見かけの因果律である。こうなると現実から目を背け、建設的な努力をしなくなる。やればできるという可能性の中に生きようとしており、努力しない。
これと対になるのは、優越コンプレックス。自分を実際より良くみせようとする。他者の評価を気にする。自分の価値が高いと思いたいので、高いハードルを作る。相手の価値を貶める(いじめ)。等々
優越コンプレックスがある人は、強い劣等感を持っている。
不幸自慢は、特異な優越コンプレックスの現れである。自分が不幸であるという点において、自分が優れていることを誇示しようとする。弱さには権力がある。赤ちゃんのようなもの。
普通であることの勇気
普通であることに勇気を持て。ありのままの自分を認める。
ライバルを持つのは良いことだが、競争はしなくてよい。上ではなくて前を目指す。他者との比較はせず、自分のプラスを目指す。
優越コンプレックスや劣等コンプレックスの問題は、自分の幸せだけを考えていること。他人の役に立つことを考えよう。

第3回 対人関係を転換する

対人関係
すべての悩みは、対人関係の悩みである。
広場恐怖症は、外出できなくなる神経症である。広場恐怖症の人々は、他者から見られたくないと思っているように見える。しかし、実際は注目されなくなるのを怖れて外に出られなくなる。このように自分を世界の中心だと思ってしまう人には、甘やかされて育った人が多い。
子どもを甘やかすと、子どもは注目を引こうとする。たとえば、おねしょ(夜尿症)は、その表れ。治すには、おねしょに関して何も言わないようにする。
承認欲求
承認欲求=褒められたい、認められたいという欲求
褒めすぎると、褒められないと何もやらなくなる。すなわち、他人に判断を任せ、自分で判断できない子どもになる。
しかし、承認されなくてもやらなければならないことがある。介護や子育ては、その代表例である。ギブ&テイク(褒められなければやらないというのもその一つ)という発想から抜けて、ギブ&ギブだと思うべきだ。
承認欲求や、自分が世界の中心にいるという意識から抜け出すために
他者に関心を持つべし。
他者は自分の期待を満たすために生きているのではないことを知るべし。自分も他者の期待を満たすために生きているのではない。
「課題の分離」をすべし。
課題の分離
課題が誰の課題かを考える。それは、その課題の最終的な責任を引き受ける人の課題である。つまり、誰が困るのかを考える。
他者の感情を変えることはできない。他人の課題に不用意に踏み込んではいけない。他人の課題は、関係ないものとして切り捨てよ。
親の課題を子供が解決することはできない。逆に、子供の課題も親が解決できるものではない。
人間は自分の運命の主人公である。
対人関係のカードは自分が握っていると考えて、他人の課題とは分ける。

第4回 「自分」と「他者」を勇気づける

共同体感覚
共同体感覚は、対人関係のゴール。
人は、いつも他者と結びついている。
幸福のために最も貢献するのは、共同体感覚。
自己への執着を他者への関心に切り替えていかなければならない。
人生の意味は貢献、他者への関心、協力である。
共同体感覚のために必要なこと
「自己受容」ありのままの自己を受け容れる。たとえば、自分は臆病だと思わずに慎重だと思う。普通であって良いと思う。
「他者貢献」他者のために何かしようと思う。
「他者信頼」他者を信頼して仲間だと思う。
勇気づけと勇気くじき
勇気くじき←縦の関係。たとえば、ダメなことばかり指摘する。ハードルを高くしすぎる。
勇気づけ←横の関係。共同体への貢献感を感じられるように、援助する。具体的には「ありがとう」。
褒めず、叱らず。「褒める」のも「叱る」のも、上から下を見る対人関係が前提になっている。親子であっても対等にすべきだ。「ありがとう」ならば対等。
嫌われる勇気を持て。嫌われる勇気は、幸せになる勇気と同じ。嫌われても、それは自由に生きるための代償。仮に小さな共同体から切り離されても、より大きな共同体がある。
アドラーのメッセージ
人生の意味は、あなたが自分自身に与えるものだ。