囲碁で Google AlphaGo がプロ棋士で世界の五指に入る李セドルを破ったということにたいへん衝撃を受けて、いったいディープラーニングとはどういうことななのだろうと思って、この本を読んでみた。コンピュータ囲碁がトッププロに勝つのはまだあと10年くらいかかるかなあと思っていたら、勝ってしまった。本書でも第2章では、囲碁において人工知能が人間に追いつくのはまだしばらく先だろうと書いてある。
本は一般向けにわかりやすく書かれており、扱っているテーマは興味深いのでつい一日で読んでしまった。
ディープラーニングは、一言で言えば、主成分分析の非線形多段階バージョンということらしい。それによって、画像の特徴のようなものを自動的に学習して認識できるようになる(特徴表現学習, representation learning)というものだ。囲碁で言えば、たくさん棋譜並べをすることで、良い形を自動的に学習するようになるということだ。著者によれば、これは従来の人工知能の欠点を打破したもので、大きなブレークスルーだったとのこと。主成分分析を拡張することくらいは誰でも思いついたらしいが、その具体的なやり方を思いつくのが難しく、これに成功したのがトロント大学の Geoffrey Hinton だった。そのポイントは、入力に少しノイズを加えるということで、それによって結果がロバストにできるようになったとのこと。ノイズを入れても結果があまり変わらないというのがロバストということだ。
第五世代コンピュータープロジェクトが成功しなかったことなどから、人工知能には冷ややかな人も多いとのことだが、著者は、ディープラーニングというブレークスルーを経て、人工知能はこれから着実に進歩してゆくと見ている。
これから問題になると思われるのは、ホワイトカラーの職業のある程度の部分が人工知能に置き換わってゆくということである。科学の研究のやりかたも変わってゆくだろうと、AlphaGo を開発したDemis Hassabis は考えているようだ。ディープラーニングが主成分分析の拡張版であるとすれば、少なくともデータ解析には役立ちそうだ。これからはそういう方向も考えないといけないだろう。