『エミール』は、有名な教育論である。しかし、心配になるのは、ルソーがこうして頭で考えたことが、現在ではどの程度実証されているのか、あるいは誤りがわかっているのかということである。現代の目から見て間違っていることが多いとすれば、今更名著とする意味があるのかどうかは疑問だと思う。
しかし、最後まで読んでみると、『エミール』から学ぶべきことは、どうやら教育論ではないようである。むしろ、その底に流れている社会契約の考え方や、共感の考え方などから、民主主義や自由主義が現在陥りがちな罠を確認することにあるようだ。現代の自由主義は、人々のつながりを弱めると同時に、格差を生んだりポピュリズムをはびこらせたりしている。その危険性をルソーは正しく危惧して、そうならないような教育をしようとしている。そこに学ぶべき点があるようだ。