佐藤優の雑誌連載をまとめたもの。前半の「理論編」が「一冊の本」への連載で、宇野弘蔵経済学の話である。「理論編」と書いてあるから、体系的に書いているのかと期待したら、それほど体系的でもなくて、宇野経済学の見方がある程度わかるといった程度のものである。かなりの部分が廣松渉による宇野批判を批判することに充てられているが、廣松も宇野も知らない私にとって、ややどうでもよいことのように思われた。後半の「実践編」は、2011 年当時の政界評論である。当時は民主党の菅直人内閣から野田佳彦内閣にかけての時代で、今となっては過ぎたことである。
さほど体系的でもないから、いくつかメモしておきたくなった箇所のメモを残しておくにとどめる:
- 「理論編」第7講 日本社会が内側から崩れる理由
- マルクスは、商品の第一義的重要性は使用価値(商品の有用性)にあると考える。一方で、宇野は価値(値段)が重要であると考える。 マルクスは消費者の立場から商品を見ており、宇野は資本家の立場から見ている。宇野にとっては、商品の使用価値は、資本家が商品を売るために仕方なく付与している「他人のための消費価値」である。
- 「理論編」第8講 商品経済の論理の「外側」を見直す
- カール・ポランニーによると、人間の経済には3つの種類がある。(1) 相互扶助 (2) 贈与 (3) 商品経済、である。 商品経済以外(商品経済の「外側」)も重要。
- 「理論編」第8講 商品経済の論理の「外側」を見直す
- 商品には「他人のための使用価値」が必要なのだから、資本主義は利他的システムであると言える。 商品は、必ず交換をして他人に譲渡されなければならない。
- 「実践編」第4講 検事総長のインタビューを分析する
- ここで著者が、特捜検察や国策捜査が必要なことだとしているのに驚く。著者によると、国策捜査は「時代のけじめ」をつけるのに必要なものであり、国策捜査は警察がやるよりも特捜検察がやったほうがマシである。
- 「実践編」第6講 中国の空母就航をロシアからの眼で分析する
- 著者は、中国は現実的脅威であると見ている。
- ロシア語で中国を表すキタイは契丹から来ており、ロシア人は中国に対する印象が悪い。
- ロシアの中国に対する見方は、国営ラジオ「ロシアの声」HP を見ていると分かる。[なお、「ロシアの声」は今では「Sputnik」になっているようだ。]