出た直後に買ったのだが、そのまま積んであり、2015 年度に学生とやった読書会で読み終わった。
熱力学の現代的なスタイルの教科書で、論理的に丁寧に書いてある。 いったん熱力学を勉強した後で頭を整理し直すには非常に良い教科書だと思う。 最初に要請(公理に相当する)を置いて、そこから論理的に熱力学を勉強してゆくというスタイルだ。 その要請の中で、エントロピーを天下り式に導入することが特徴だ。 これは論理的には明快で、これほど統一して書かれているものは他にないので、すばらしい得がたい教科書である。
さらに、特筆すべきことは、ルジャンドル変換の説明が丁寧なことで、とくに相変化がある場合も含めてあるのは 類書に無いので大変勉強になる。
著者は、ミクロな物理学の知識を必要に応じて用い(実はそれほどたくさん用いてはいない)、 示量変数だけを基本的な変数に選ぶ、というスタイルを用いると最初に宣言している。 エントロピーが最初から出てくるのはこのためである。ふつうは最初から温度を導入しておく 教科書が多いのだけれど、よく考えると温度だってそれほど自明な概念ではないから、 エントロピーを最初に導入するのが温度を最初に導入するのに比べてそれほど難しいことを やっているわけではない、というのが著者の考えである。
ただし、本書が最初に熱力学を勉強するときにわかりやすいかどうかは疑問に思う。 でも、著者は、初学者にとってもこれが分かりやすいとお考えらしい。
以下に、私が少し問題だと思う箇所をまとめておく。