政府は必ず嘘をつく 増補版

著者堤 未果
シリーズ角川新書
発行所KADOKAWA
電子書籍
刊行2016/04/09
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読了2016/10/12

私たちは重要なことを知らされていないということで、とくにグローバル資本主義が国民国家を破壊しつつある驚くべき現状が描かれている。これは日本に限らず、世界的な現象であることが紹介されており、驚いた。折しも 10 月 13 日から TPP が国会で審議入りした。この本を読むと、これで日本の社会が破壊されるであろうことが予想される。ひどいものである。自民党も民進党もグローバル企業からの圧力ですでに破壊されているようだ。

ハワード・ジン教授の以下の言葉が全体テーマとしてまえがきで紹介される。

政府は嘘をつくものです。ですから歴史は、偽りを理解し、政府が言うことを鵜呑みにせず判断するためにあるのです。

増補版には、とくにマイナンバーと TPP の危険性について書かれた巻末付録がある。国民皆保険が守られないおそれがあるというのが恐ろしい。公式には、社会保障については「将来留保」し、ISDS 条項は適用されないということになっている。しかし、本書によれば、付属書の解釈 9 条 25 項を見ると、投資家側はこの「将来留保」の解釈自体を TPP 委員会に訴えることができる。かくして、「将来留保」は全く防波堤にならない。

この本には書いていないが、私たちの教育研究もメチャメチャにされるおそれがある。教育については、ニューオーリンズで公立学校が潰されたということが書かれている(下のメモ第1章)。こういうことが日本でも起きるかもしれない。研究についても、知的所有権を過度に主張されることになるので、打撃を受ける可能性があると思う。

以下、メモしておきたくなった箇所のメモ:

第1章 「政府や権力は嘘をつくものです」--「情報隠蔽」が作ってきた世界の原発の歴史
原発事故隠しは、日本だけには限らないことが紹介されている。アメリカでは、1970 年のサウスカロライナ州のサバンナリバー核兵器工場の事故が 18 年間隠蔽された。イギリスでは、1957 年のウィンズケール原子力工場の事故が 30 年間隠蔽された。いずれも重大な事故であった。
第1章 「政府や権力は嘘をつくものです」--スリーマイル島原発事故後のがん増加はストレス!?
放射線の許容値に関して弁護士のブライアン・リー氏が日本の方針を批判していることが紹介されている。 日本は ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告値を参照しているが、これは広島長崎のデータに基づくもので、それよりはマングーソ報告のほうを基準にすべきだとのこと。マングーソ報告は原発労働者の分析に基づく。
第1章 「政府や権力は嘘をつくものです」--WHOがチェルノブイリの被曝を過小評価するわけ
IAEA や WHO、ICRP、UNSCEAR などは原発推進機関なので、チェルノブイリ事故を過小評価しているとのこと。WHO は IAEA から圧力を受けている。
日本の首相官邸はチェルノブイリの死者数を 62 名としている。IAEA は 4000 人、WHO は 9000 人としている。これに対して、ECRR(欧州放射線リスク委員会)は 100 万人という数を出している。
第1章 「政府や権力は嘘をつくものです」--<風評被害防止>という大義名分の下、政府がネットを監視する
日本政府によるネット監視が始まっていることが紹介されている。2011 年の資源エネルギー庁による通達によると、 原子力に関する不適切な情報をモニタリングして、正しい情報に導くようにするのだそうだ。恐ろしいことである。 何が正しいかを誰が判断するのだろうか?
さらに、2011 年には「サイバー刑法」が成立し、捜査当局は令状無しで通信履歴の差し押さえが可能になった。
アメリカでも、「愛国者法」が導入されるとともに、この 10 年間に政府によって 10 万を超えるサイトが閉鎖されている。
第1章 「政府や権力は嘘をつくものです」--「復興特区」の名の下に市場化されつくしたニューオーリンズ
ハリケーン・カトリーナの後、ニューオーリンズは復興特区となって、大企業の利権の餌食となった。たとえば、公立学校はつぶされ、子供の就学率は激減した。貧困地域の子供たちは切り捨てられた。
第1章 「政府や権力は嘘をつくものです」--TPPでも政府は嘘をつく
アメリカでは大統領選にお金が恐ろしくかかるために、大統領候補者は、大資本や超富裕層の言いなりになるとのこと。 TPP もグローバル資本の利益のためにある。アメリカでも普通の労働者は切り捨てられる。
NAFTA の ISDS 条項による訴訟では、アメリカ政府はすべて勝訴、カナダとメキシコの政府はすべて敗訴している。
日本の大新聞は TPP 賛成だが、グローバル企業はメディアに対しても自由化を強要してくることを予想できないのだろうか?日本の新聞は独占禁止法の特殊指定によって競争から守られているというのに。
アメリカでは、大衆がコントロールされて、自由の国は警察国家になり、貧困率は過去最大になった。
第2章 「違和感」という直感を見逃すな--「民主党と共和党、どっちが貧困を悪化させますか?」
アメリカでも二大政党制は崩壊しているとのこと。大資本は二大政党の両方に政治献金を配っている。もはやどちらの党になっても何も変わらない。
第2章 「違和感」という直感を見逃すな--「民主化革命」という名の新しい侵略
作家マイケル・バーカーによると、アメリカは民主主義を装って世界を侵略している。まず、ターゲットとなる政府や指導者を国際メディアが民主主義の敵として非難する。そして、SNS などを使って反政府運動を起こす。それによって、独裁者に弾圧される市民という図式が作られる。無防備な市民を救うという理由で武力介入が正当化される。そうして、ターゲット政権は内部崩壊したことにされる。
2011 年のニューヨークのウォール街で起こった抗議運動でも不思議なことがあった。全員一致の合意形成ルールがなぜか導入されたために、内紛につながった。なぜか無料で食べ物が提供されていた。
「アラブの春」はアメリカが陰で操っていた可能性が高い。
第2章 「違和感」という直感を見逃すな--報道されなかったもうひとつのリビア
リビアは、産油国だったので、アフリカ大陸で最も生活水準が高かった。カダフィは、教育も医療も電力も無料にしていた。 それが NATO による爆撃でメチャメチャにされた。西側大手メディアは故意に誤った報道をした。
カダフィは、アフリカとアラブの統一通貨の発行を計画していた。それが欧米の為政者に危機感を呼び起こした。
第2章 「違和感」という直感を見逃すな--なぜグーグル、ヤフーはよくて、2ちゃんねるは胡散臭いのか?
アメリカでもネット監視が行われていることが紹介され、日本でも TPP によってそれに巻き込まれる可能性があることが示される。
アメリカでは「オンライン海賊行為禁止法 (SOPA)」というネット上の著作権侵害に対する強硬措置を可能にする法案を通す動きがある。海外もターゲットになるかもしれない。
第3章 真実の情報にたどりつく方法--腑に落ちないニュースは、資本のピラミッドを見る
東日本大震災からの瓦礫を東京都が受け入れた。なぜそんなことをしたのかは、利権を考えると分かる。東電は東京都の官僚の天下り先であり、東京都は東電の大株主である。さらに、廃棄物を処理する「東京臨界リサイクルパワー株式会社」は東電の子会社だ。
第3章 真実の情報にたどりつく方法--ニュースに登場する国際機関の裏をチェック
IMF はアメリカとグローバル資本の手先である。IMF 介入を受け入れた国々は苦しんでいる。
第3章 真実の情報にたどりつく方法--日本の TPP 加盟はアメリカの陰謀だという誤解
TPP を締結するとグローバル資本の餌食になるだろうことが描かれている。
たとえば、オーストラリアでは、アメリカとの FTA によって薬の値段が高騰した。