代数の考え方

著者梅田亨
シリーズ放送大学教材 1568116-1-1011(ラジオ)
発行所放送大学教育振興会
刊行2010/03/20、刷:2013/11/10(第 3 刷)
入手九大生協で購入
読了2016/01/17

代数学の感じをざっとつかめるのかなと思って放送を聴きながら読んでみた。しかし、雰囲気で書いてあることのイメージがよくつかめないことも多く、 なかなかこれではわかった気がしない。いくつかの話が出てきているときに、それらのつながりがよくわからない部分が多い。 やっぱり本格的にわかろうとすると、ちゃんとした代数学の本を読むしかないのか、それともこの本の書き方が今ひとつなのか、 私自身があんまりちゃんと代数を勉強していないのでよくわからない。

とはいえ、ところどころ豆知識的に面白いことも多く、それなりには楽しめた。

放送時のメモと放送テキストのサマリー

第1章 代数という言葉

語源を考える
algebra はアラビア語起源。今の言葉でいえば「移項」にあたる al-jabr wa'l muqabala から来ている。
「代数」は 19 世紀に中国で訳された言葉。記号をもって「数に代える」という意味である。
代数の性格
(1) 文字式の世界:数の代わりに文字を使って計算する。形式的に計算できる。計算規則を整理して抽象化する。→環
(2) 方程式の世界:既知量と未知量の関係。→群

第2章 未知数という方法―方程式―

方程式とは
方程式 equation、等式 equality、公式 formula、恒等式 identity
方程式は、既知量と未知量を含むいくつかの量を等しいとおいた (equate) もの。方程式のポイントは「等置される」ということである。 たとえば、ニュートンの運動方程式は、運動量の時間変化と力とが等置される。
方程式は解くとは限らない。たとえば、不変量を求めるとか、\(x^2+y^2=1\) が円を表すとか。
方程式を解く
1次方程式は四則演算で解ける。
2次方程式を解くには四則演算と平方根で解ける。
3次、4次方程式を解くには四則演算と冪根(累乗根)で解ける。このような解法を代数的解法という。
19 世紀、Abel によって、5次方程式には一般には代数的解法が無いということが解明された。
Galois は、方程式の群の概念を発明して、方程式が代数的に解かれるメカニズムを解明した。

第3章 1次方程式

録音に失敗して、最初の1/3しか聴けなかった。

連立1次方程式

行列

第4章 2次および3次、4次方程式

2、3、4次方程式の根の公式は、群行列式の因数分解を上手に利用して根の対称式を作り、 「根と係数の関係」を利用してその対称式を係数で書くという操作をすることで求めることが出来る。 このような分析はラグランジュが系統的に行った。

そのような後付けの分析ではなく、真の分析を行ったのは、ガロアである。ガロアは、「方程式のガロア群」を案出した。これは後で改めて解説する。

第5章 量の自立―恒等式の世界

文字式のとらえ方
文字は不定元、すなわち「単なる文字」であるととらえるべきである。
文字からは意味を捨象することが代数の肝。
多項式の割り算では、整数の割り算と同様、余りに注目するという見方がある。
対称式の基本定理
対称式は基本対称式の多項式で書ける。
二項定理のq-analogue
二項定理には、q-analogueという不思議な一般化がある。量子群が背景にある。

第6章 幾何学の代数化―デカルト以降

量と数
量には種類がある。異なる種類の量は足すことができない。単なる数は足すことができる。
デカルトは、量から数への移行を進めた。それによって、自由な演算ができるようになり、幾何学への応用ができるようになった。
幾何学の代数化
座標の考え方
図形の表示には、内包的な表示(たとえば、\(x^2+y^2=1\)のように図形の性質を表した式)と外延的な表示(パラメタ表示)がある。

第7章 複素数

複素数
複素数のような変な数が意味を持つようになった重要な転機はオイラーの公式とガウス平面にある。
オイラーは \(e^{i\theta} = \cos \theta + i \sin \theta \) という重要な公式を発見した。
ガウスはガウス平面(複素数平面、複素平面)を発明した。これによって複素数が幾何学的な意味を担えるようになった。

第8章 四元数

放送は聴きそこなった。

四元数
複素数が平面の回転と伸縮を表すことができるのに対し、四元数は3次元空間の伸縮と回転を表すことができる。
\(q = a + bi+ cj+ dk \) の形をしている。ただし、\(i^2 = -1, j^2 =-1, k^2 =-1, ij=-ji=k, jk=-kj=i, ki=-ik=j\) である。
上の \(q\) 共軛は \(q^*= q-bi-cj-dk \) で定義され、ノルムは \(\mathrm{N}q = qq^*= a^2+b^2+c^2+d^2\) で定義される。
\(\xi = xi+ yj+ zk\) が4元数のベクトル部分で、\(q = e^{k\theta} \) のとき、\(q\xi q^{-1}\) は \(k\) 軸周りの \(2\theta\) の回転を表す。

第9章 グラスマン代数

グラスマン代数
符号付きの面積(外積)を一般化したもの。
\(V\) を F 上の線型空間とする。\(V\) のグラスマン代数 Λ(\(V\)) とは、F-双線型で結合則を満たす積が定義され、\(V\) から環(除法を除く三法がある代数)として生成され、かつ任意の \(u\in V\) に対して \(u^2=0\) を満たすもの。
行列式、ラグランジュの恒等式、連立一次方程式に応用できる。
クリフォード代数
\(V\) を線形空間として、対称な双線型形式 \(B(u,v) (u,v \in V) \) を考える。これに付随する2次形式は \(Q(u) = B(u,u)\) である。これに付随するクリフォード代数とは、\(V\) から生成される代数で、 \( u^2 = Q(u), uv+vu=2B(u,v) \) を満たすものである。

第10章 非可換環

環、体、代数
(ring) とは、加法と乗法があり、結合則、分配則、加法の交換則が成り立つものである。加法について零元と反元は存在するとする。 大雑把に言えば、足し算、引き算、掛け算ができるのが環である。とくに乗法の交換則が成り立つものを可換環という。
  • 可換環の例:整数環、多項式環
  • 非可換環の例:行列環、微分作用素環
(field) とは、環であって、0 以外の元が可逆(乗法の逆元が存在する)なものである。ふつうは可換体のことを指す。 大雑把に言えば、四則演算ができるのが体である。とくに、乗法の交換則が成り立たないものを、非可換体、斜体、可除環という。
  • 体の例:実数体、複素数体、有理数体
代数(algebra) とは、環であって、可換体上の線型空間となっていて、スカラー倍が掛け算と可換なものである。
加群とイデアル
加群とは、自身の演算としては加法だけを持ち、零と反元があるものである。大雑把に言えば、足し算と引き算が出来るものである。
M が A-加群であるとは、A が環(または代数)であって、M の元に対して A の元による「スカラー倍」が定義されているものである。 A が左から作用するのが左加群、右から作用するのが右加群、両側から作用できるのが両側加群である。
体 K 上の加群を線型空間という。
環、または代数 A について A-加群の代表は、自分自身を、左もしくは右からの積で A-加群とみなしたものである。
A 自身を A-加群とみなしたとき、A の部分集合が、部分加群であれば、その部分集合をイデアルと呼ぶ。
同値関係 \(a\sim b\) を \(a-b\in I\) で定義したとき、この同値関係が定める同値類をと呼び、A/I と書く。
I が両側イデアルなら、A/I には乗法の構造が入る。
I が両側イデアルなら、A → A/I は全射準同型である。
環 A から B への準同型写像 f があるとき、A/Ker(f) は f(A) と同型である(準同型定理)。
可換環におけるイデアル
可換環では、イデアルによる商を作るということは、イデアルに属する元を 0 とみなすということである。
イデアルのうち、全体に一致しない最大のものを極大イデアルという。
I が極大イデアルのとき、A/I は体になるという性質がある。
極大イデアルの例:整数環 Z のときに素数 p に対応する pZ、多項式環のときにある点 a でゼロになるような多項式の集合

第11章 群という対称性

この回はなかなかわかりづらい。話のつながりがどうなっているのかよくわからない。 たとえば、私は群の表現論はある程度勉強したので、もうちょっとわかってもよいと思うのだが、 そもそも「表現」があまりちゃんと定義されないまま、環と関係があると書いてみたり、 その関係がどうなのかもあいまいなまま話が進んでゆくので、よくわからない。

とは、積(何かの二項演算)が定義され、結合律が成り立ち、単位元と逆元があるような集合である。
群の例
集合 X から X への自己同型写像の全体 Aut(X) は写像の合成によって群をなす。X が有限集合の場合は、この写像は X の元を並べ替えることになるので、置換群とよぶ。
準同型環
乗法の単位元 1 をもつ環 A を考える。A 自身を A-右加群とみなし、この A の上で自己準同型写像 f を考えると \[ f(x) = b x \] となることがわかる。ただし、\(b = f(1) \) である。
群作用
群 G から Aut(X) への群準同型αを考える。すると、群 G の元は X 上の変換を引き起こす。
置換群、線型群などが重要。
幾何学と群
幾何学的な構造を保つような群もいろいろ考えられる。e.g. 直交群は距離を保つ。アフィン変換群は平行性を保つ。
局所的な変換を考えるのがリー環である。これは、群の微分のようなものである。
群環
群には積しか定義されていないが、これに加法を取り入れたものを群環という。

第12章 群と代数方程式

許される根の置換
基礎体 F に属する係数を持った多項式を考える。これがさらに次数の小さい F 係数の多項式の積で書けるとき可約であるという。そうでないとき既約であるという。
根の置換が大事そうだが、\(x^5=1\) のような例を考えるとわかるとおり、根の間には関係があるから、許されない置換がある。 では、許される置換とは何か?
原始元
根の基礎体係数の線型結合 \(\theta = c_1 \alpha_1 + \cdots + c_n \alpha_n\) を考える。このうち、根の置換 \(\sigma \) によってすべて異なる値をとるものを原始元とよぶ。
ラグランジュの補間公式を使って (12.2) 式を作ることから、根 \(\alpha_j\) は、F の元と \(\theta \) の有理式で書けることがわかる。
方程式の群
\( \theta \) の満たす既約方程式の根を \( \theta^{(j)}\, (j=0,\dots,m-1) \) と書くと、それらは \(\theta\) の中の根の置換で書ける。 「許される置換」とはこの置換のことで、それを方程式の群と呼ぶ。
根の有理式で表される量が F に属する⇔その量が方程式の群によって不変
体 F に F の元の冪根を追加すると、可換群の分だけ方程式の群が縮小する。そこで、方程式が代数的に解ける⇔方程式の群が可換群を積み重ねたもの(可解群)、となることがわかる。
5次以上の方程式の群は可解群にならない。
円分方程式
ここは難しくて良くわからないが、ともかく円分方程式は可解。
ガロアの基本定理の現代的定式化
体 K の自己同型からなる有限群 G を考える。G によって変わらない元を集めたものを KG として、G による固定体とよぶ。
K と KG の中間にある体 L で、L を不変にする G の元全体を GL として、L の固定化群と呼ぶ。
その下で、H = GL と KH = L とが1対1に対応する、というのがガロアの基本定理である。
ここも難しくてよくわからないが、ともかくガロアの基本定理は、再交換定理と言い換えられる。

第13章 群と不変性

3分の2くらい聴きそこなった。

エルランゲン・プログラム
クラインは、不変性を群でとらえ、群を基本に幾何学を研究するという研究計画を提唱した。これをエルランゲン・プログラムという。
エルランゲン・プログラムでは、幾何学は、群によって不変な性質を研究するものだと考えた。
代数的な量も、群で不変なものは幾何学的な内容を担っていると考えられる。
たとえば、平面幾何学で原点から出る2つのベクトル\(v_1, v_2\)を考えると、\(v_1 \cdot v_1\)、\(v_1 \cdot v_2\)、\(v_2 \cdot v_2\) は、回転に関して不変な量である。幾何学的な意味は、二辺挟角が等しい三角形は合同だということである。
不変式論
群 G が作用する環 A の不変元の全体 AG を調べるのが不変式論である。
不変式論が袋小路に入った時、ヒルベルトが突破口を開いて現代数学の幕が開いた。
2元2次形式の不変式は、判別式の多項式である。
ワイルは、表現論の基礎の下で、不変式論を再生しようとした。
二辺挟角の定理は、代数的には以下のように表現できる。二組の (x1, y1)、(x2, y2) が作る4変数の多項式環を考える。そのO(2)に関する不変式環が内積によって生成される。
多項式の変数を微分作用素に置き換えると、O(2) とリー環 sl(2) との双対性が見えてくる。

第14章 微分方程式

放送は聴き逃した。

微分作用素を代数的に考える
たとえば、 \[ (\partial -a ) u = b \] という微分方程式を考える。\( \partial - a = \alpha \partial \alpha^{-1} \) となるように \(\alpha\) を選べば \[ u = \alpha \partial^{-1} \alpha^{-1} b \] となる。そのような \( \alpha \) は、\( a = \alpha'/\alpha \) を解くことで得られ、 \[ \alpha = \exp (\int a) \] である。
微分作用素の因数分解から解を求める
\( \partial^2 u = 0 \) という式を解くとしよう。 \[ \partial^2 = \left( \partial + \frac{1}{x+c} \right) \left( \partial - \frac{1}{x+c} \right) \] と因数分解できるから、解は \( u = A x + B \) である。
微分方程式の代数化⇒代数解析

第15章 物理と代数

放送は聴き逃した。

特殊相対性理論と代数
特殊相対論では、運動を記述する方程式は、ローレンツ群で不変な微分方程式になるべきである。解は群の表現となる。
量子力学と代数
量子力学では、物理量である演算子が非可換環をなす。
Dirac 方程式と代数
Dirac は、Klein-Gordon 方程式を、クリフォード代数を用いて「因数分解」して Dirac 方程式を得た。その解は、ローレンツ群の二重の被覆群の表現になる。