某授業で「私にとっての学び」みたいなことを語らないといけなくなり、参考にと思ってちょうど新聞広告で目に付いた本書を読んでみた。 「勉強の哲学」というよりは「哲学入門」みたいな本だと思った。哲学を自分の言葉として語れる人がまた一人いたということを喜ばしく思った。 フランス哲学系の人は変にひねくれた言い方をする人が多いので、いつも読みづらいなと思っていたのだが、 これは一般に向けた本ということもあってかフランス哲学風の語りをしつつもその言い回しに対するわかりやすい説明がなされているのが良い。
ツッコミとボケという言葉を使うところはなかなか良いと思ったのだが、途中でアイロニーとユーモアと言い換えてしまったのが、 私としては残念である。日本語のままにしておけばよいのにと思うし、それ以前にアイロニーよりもツッコミ、ユーモアよりもボケの方が 表現していることがらに近いと思う。ことがらの根源を問い詰めるのはツッコミではあってもアイロニーではないと思うし、 話題をずらしたり言葉の使い方をずらすのはボケではあってもユーモアではないと思う。わざわざ違和感のある言い回しをするところが フランス哲学風か?
哲学風の言い回しも面白いのだが、私なりにもっと普通の言い回しで、最後のまとめをまとめなおすと以下の通り。
- 第1章 いろいろな分野の勉強をしてみると、いろいろな見方が分かるので頭が柔軟になり、考え方が自由になる。
- 第2章 考えを深くするやり方の一つとしては、批判的にあらゆることの根拠を問うていくことである。 そうすると一つ一つの言葉の意味までも問うていくことになる。すると意味の厳密な根拠など無いことがわかる。 それをやりすぎると何も語れなくなるので、もうひとつ考えを深めるやり方として、いろいろな見方からものごとを眺めるとか いろいろな言葉の使い方を試すということもある。しかし、言葉の使い方をあんまり奔放にするとそれも無秩序になる。 ま、これもやりすぎず、ひとつには自分の趣味に応じて適当なところで手を打つ。
- 第3章 その自分の趣味も一歩引いて客観的に整理してみよう。
- 第4章 専門書もいろいろ読んでみよう。まずは入門書から初めて、教科書や基本書に進む。本を読むときは、その本の内在的な論理を確認しよう。
だいたいこんなところで、言い換えると当たり前といえば当たり前ではある。でも、ここは著者の独特の(というか、ちょっとフランス哲学風の) 言い回しを楽しむことが大切で、それには実際に本書を読むしかない。このようなフランス哲学風言い回しを操れるようになるのも面白いかなとも思うが、 理系人間としてはできるだけ平易にパラフレーズすることも必要なわけで、なかなかそうもいかないところである。
というわけで、最初の目論見の「私にとっての学び」のような授業には、私には使えないことが分かった。こういう言い回しは私にはできないし、私なりに言い換えるとわりと当たり前な感じになってしまうので、あんまり具合が良くない。