ミクロの窓から宇宙をさぐる

著者藤田 貢崇
シリーズNHK カルチャーラジオ 科学と人間 2017 年 4~6 月
発行所NHK 出版
刊行2017/04/01(発売:2017/03/25)
入手通販書店 honto で購入
読了2017/06/30

宇宙論と天文学と物理と化学の初心者向けの解説であった。私にとってはさほど新しいことはなかった。

講師は、きわめて発音明瞭に話す方で、初心者向けに分かりやすく語るのが上手であることがわかった。

放送時のメモと放送テキストのサマリー

第1回 私たちはどんな「物質」からできているのか

この講座の概要
「もの」って何だろう?
大きい世界から小さい世界へ。
宇宙の話と素粒子の話のつながり
ビッグバンの時、宇宙は小さかった。だから、宇宙論の話は素粒子とつながる。
大きいものや小さいものを表現する
単位を変える。たとえば、長い長さを測るときは、光年を使う。
累乗で表す。3×103 とか 1.5×10-3 とか。
喩えを使う。たとえば、原子一個を野球ボールにたとえる。
光の速さ:1 秒間に 30 万 km =地球を 7 周半。太陽から地球まで 8 分 20 秒。
ミクロとマクロ
マクロな力学は決定論的、ミクロな力学は非決定論的。

第2回 光を使って宇宙を調べる

私たちが見ているもの
私たちが見ることができるのは可視光線(波長 380--780 nm)。
携帯電話のカメラの中には、赤外線が見えるものがある。
ハワイのすばる望遠鏡は可視光線と赤外線を観測する。プエルトリコのアレシボ天文台は電波を観測する。
宇宙にある元素
宇宙に多いのは、水素とヘリウムで、この2つで 99 % を占める。
地球に多いのは、質量分率が多い方から、鉄、酸素、珪素、マグネシウム。

第3回 ファーストスターと宇宙の歴史

ビッグバン
宇宙は約 138 億年前に始まった。
宇宙が小さいところから始まって大きくなってきたという考えは、フリードマンとルメートルに始まる。 ビッグバンという言葉は、この考え方を揶揄するためにフレッド・ホイルがラジオ番組で使ったもの。
αβγ理論:ジョージ・ガモフが中心となって提唱したビッグバンの理論。
インフレーション理論:宇宙誕生してから10-34秒の間に急激な膨張があった。
宇宙が始まって 3 分の間に水素やヘリウムの原子核ができた。
宇宙の晴れ上がり
宇宙が始まって 38 万年経つと、電子が原子核と結びついて、光が透過できるようになった。
ファーストスター
宇宙が始まってから 2 億年以内にファーストスターができた。ファーストスターは非常に重く、今では残っていない。
ファーストスターが放つ紫外線によって宇宙の再電離が起こった。

第4回 宇宙の「見えない物質」を探る

ダークマターの発見
Vera Rubin は、銀河の回転がケプラー回転ではないことを発見し、1970 年に発表した。
その結果、銀河の質量は、見えている星の質量の総和では足りないことが分かった。 見えていない質量を持っているものに dark matter という名前が付いた。
ダークマターの候補
候補としては、惑星、中性子星、白色矮星、ブラックホールなどが挙げられた。これらを MACHO (Massive Compact Halo Objects) という。 しかし、MACHO では全然足りないことがわかってきた。
次にニュートリノが考えられた。しかし、スーパーカミオカンデで明らかになったニュートリノの質量ではやはり小さすぎる。
ヒッグス粒子も有力視された。ヒッグス粒子は、CERN の LHC で 2012 年に確認された。 ヒッグス場は質量の源で、ヒッグス場と強く相互作用するものは、大きな質量を持つ。 しかし、ヒッグス粒子でもダークマターを説明できないことがわかった。
最近取りざたされている候補には、ニュートラリーノ、グラビティーノ、SIMP 粒子などがある。

第5回 正体不明のダークエネルギー

宇宙膨張の発見
エドウィン・ハッブルによる。ハッブルは、ボクシングの得意なスポーツマンでもあったらしい。
ハッブルは、遠方の銀河が、地球からの距離に比例した速さで遠ざかっていることを見出した。これは宇宙全体の一様膨張を意味する。
宇宙マイクロ波背景放射
1948 年、ラルフ・アルファーとロバート・ハーマンが、宇宙マイクロ波背景放射の存在を理論的に予測した。これは、宇宙が晴れ上がったときの光が赤方偏移したものである。
1960 年から、アーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンが、電波望遠鏡のノイズ対策をしていた。 そうしている中で、宇宙のあらゆる方向から一定の強度のマイクロ波が来ていることを見出した。これが宇宙マイクロ波背景放射だった。 このことは 1965 年に発表された。
1989 年に打ち上げられた COBE 衛星により、背景放射のゆらぎの観測を見出した。その後、WMAP、PLANCK 衛星により詳しいゆらぎ分布が観測された。 このような不均質が元になって宇宙の構造が作られた。
宇宙の加速膨張
今から 50 億年前以降、宇宙の膨張は加速してきている。その膨張の原因にとりあえずダークエネルギーという名前をつけた。
宇宙が広がるにつれて暗黒エネルギーが増えてきた。

第6回 超新星爆発が生み出す元素

恒星の一生
星間ガスが集まっていって、中心部の温度が10万度になると、光が放出されるようになる。エネルギー源は重力エネルギーである。これを原始星という。
原始星が収縮するとTタウリ型星になる。この段階では強い星風が出ていてまわりのガスを吹き飛ばす。
中心部の温度が1000万度になると核融合が始まる。水素の原子核が4つ集まってヘリウムができる。これが主系列星である。主系列の段階では安定して星が光り続ける。
太陽の8倍以上の質量の星だと鉄まで核融合が進む。その後、超新星爆発を起こす。超新星爆発の時に鉄よりも重い元素ができる。その後、中性子星、もしくはブラックホールが残される。
太陽の8倍よりも軽い星だと、核融合が鉄まで進まず、白色矮星になる。
Ia 型超新星
白色矮星と恒星の連星で、白色矮星にガスが流れ込んでいるようなものがある。白色矮星にガスがある程度降り積もると、一気に核融合が起こる。 これが Ia 型超新星である。
Ia 型超新星は明るさがほぼ一定なので、宇宙の標準灯台として使われる。
星までの距離の計測
年周視差
主系列星の色から絶対等級を推定し、それと見かけの等級から距離を推定する。

第7回 宇宙空間に「円盤」が多いわけ

円盤ができるわけ
ガスが集まってくると、角運動量保存則から回転速度が上がっていって、遠心力が働き円盤になる。
連星系の白色矮星の周りには降着円盤ができる。
降着円盤からはジェットが出ることがある。
太陽系の形成
太陽系も原始惑星系円盤からできた。
ちりが積もって微惑星になり、原始惑星になり、やがて惑星になる。
太陽系では、太陽が質量の 99% を占める。
小惑星は、主にメインベルト(火星と木星の間)とエッジワース・カイパーベルト(海王星の外側)の2か所にある。
彗星は、「汚れた雪玉」と言われる。
チュリモフ・ゲラシメンコ彗星には意外に固い部分があった。

第8回 「ものの根源」を探究する

元素
元素とは、化学物質を構成する基礎的な成分を示す概念。
「質量数」は、陽子と中性子の数の和で整数。「原子量」は、原子の質量で、一般に整数ではない。
元素の歴史
古代ギリシャでは様々のタイプの元素説が唱えられた。
中国の鄒衍は五行思想を提唱した。これは、「木、火、土、金、水」を基本物質であるとするもの。
1808 年にドルトンが原子説を唱えた。
1869, 1871 年にメンデレーエフが周期表を作った。それ以前から似たような考えはあったが、 メンデレーエフの周期表が優れていた点は、空白を作っておいたことである。 そこに新たな元素が次々に発見されて、メンデレーエフの周期表の評価が高まった。

第9回 原子、分子、そして生命へ

原子論
19 世紀初め、ドルトンが近代的な原子論を始めた。ドルトンは、限られた種類の原子の組み合わせで多様な物質が作られると考えた。
1905 年、アインシュタインがブラウン運動の理論を発表する。この理論からアボガドロ数を求めることができて、他の方法で求められた数値と一致した。このことから原子論が正しいと思われるようになってきた。
原子や分子の間に働く力
原子や分子の間には静電気力が働く。
その結果、原子どうしはイオン結合、金属結合、共有結合をする。
分子どうしは水素結合したり、分子間にはファンデルワールス力が働いたりする。

第10回 ミクロの領域に挑むには

初期の原子モデル
1904 年、トムソンの plum pudding model と長岡半太郎の土星モデルが提案された。しかし、いずれのモデルでも陽電荷と電子がなぜくっついてしまわないのかがわからなかった。
1911 年、ラザフォードはアルファ線を金属箔に当てる実験をして、その結果から原子核の存在を推定した。
現代的な原子モデル
1913 年、ボーアは、電子がとびとびの状態を取るという原子モデルを作った。これが量子論の始まりの一つ。
「強い力」と「弱い力」
原子核の内部ではプラスの電荷を持った陽子が集まっている。それを実現しているのは「強い力」であることがわかってきた。
ベータ崩壊を導くのが「弱い力」である。中性子が、陽子と電子と反電子ニュートリノになる。

第11回 錬金術と化学の長い歴史

錬金術
錬金術は卑金属から貴金属を作ろうとする試み。
8 世紀後半、ジャービル・イブン=ハイヤーンは王水を作った。イブン=ハイヤーンは化学の祖とも言われる。彼は実験を重視した。
ニュートン
ニュートンは、錬金術にも関心を持っていた。
ニュートンは、虹を七色とした。これは七という数字に神秘的な意味があると考えていたからだ。
ニュートンは、造幣局長官になり、贋金作りを摘発するなどの活躍をした。
原子核反応
錬金術ができないのは、原子核を作っている「強い力」が強いから。化学的な手法では原子核の種類を変えるほどのエネルギーを与えることができない。
ラザフォードは、窒素の原子核にアルファ線をぶつけて酸素の原子核を作った。
初めて人工の放射性物質を作り出したのは、イレーヌ・キュリーとジョリオ・キュリー夫妻。
原子力発電では、核分裂が起こる。

第12回 素粒子の世界

素粒子
いろいろな「素粒子」が発見されてきた。たとえば、陽子、中性子、電子、陽電子、μ粒子、π中間子など。 しかし、これはいかにも種類が多すぎる。
現在の「標準モデル」では、陽子や中性子はクォークからできている。クォークは6種類。電子はレプトンの一種。
ニュートリノもレプトンの一種。小柴昌俊らは、超新星によるニュートリノを観測した。
弱い力は、アップクォークをダウンクォークに変換することでベータ崩壊を引き起こす。
力を伝える素粒子
力にはそれを伝える素粒子がある。
重力にはグラビトン(未発見)、電磁気力には光子、強い力にはグルーオン、弱い力にはW+ボソンとW-ボソンとZボソン。
4種類の力はもともと一つだったと考えられている。
加速器
加速器の役割は大別して2つ (1) 大きな粒子を壊して破片を見る (2) 大きなエネルギーを質量に変換して大きな質量の粒子を作る。
現在、国際リニアコライダー (ILC) が計画されている。

第13回 究極の素粒子を求めて

量子力学の世界
アインシュタインは電磁波が粒子と考えられることを示し、ド・ブロイは粒子が波と考えられることを示した。
ハイゼンベルグの「不確定性原理」が基本。
シュレーディンガーは決定論的な方程式を導こうとしたが、出てきたものはハイゼンベルグの式と等価なものだった。
二重スリット実験
コペンハーゲン解釈=波の収束=観測された瞬間に状態が確定する。
多世界解釈=宇宙の可能性が枝分かれする。
超弦理論
弦=10-35~10-33 m の長さのひも。太さは無い。閉じた状態と開いた状態がある。いろいろな振動状態がある。9次元空間で振動する。